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プレスリリース

2017年 9月 14日
2017年 9月 19日 変更
国立研究開発法人海洋研究開発機構
国立大学法人東京工業大学

沈み込んだ海山が引き起こした予期せぬ火山活動

1.概要

国立研究開発法人海洋研究開発機構(理事長 平 朝彦)地球内部物質循環研究分野の西澤達治研究生(東京工業大学大学院理工学研究科 博士後期課程)、中村仁美研究員(東京工業大学 理学院 特別研究員)、岩森光分野長(東京工業大学 理学院 特定教授)らと国立大学法人東京工業大学(学長 三島 良直)は、ロシア科学アカデミー、産業総合研究所、千葉工業大学、東京大学と共同で、カムチャッカ島北東部の海岸沿いの地域を調査し、採取した溶岩試料の分析等を行った結果、太平洋プレートと共に沈み込んだ天皇海山列延長部分の熱的、化学的影響により、通常では火山活動が起こりえない海溝に近い場所で、多様かつ特殊な組成を示す火山活動が起こったことを明らかにしました。

カムチャッカ半島に沈み込みつつある天皇海山列は、火山活動を停止してからの時間は長いものの、海山をとりまく周囲のプレートよりも温かいことが分かっていましたが、その沈み込みがカムチャッカ半島の火山活動にどのような影響を及ぼすかは不明でした。今回の分析等の結果により、沈み込み後に、その熱的異常及び海山変形・崩壊による割れ目の発達に伴い、ケイ素に富む流体が、通常ではマグマの生成されない比較的海溝に近い地域(前弧域)に一時的に供給されたと推定されました。また、この流体により、地下の岩石が変質作用を受け、局所的に組成が異なるマントル岩石(マグマを生んだ源岩)が溶融することで、一時的に多様で特徴的なマグマ(安山岩質でありながら高いニッケルやマグネシウムを含むマグマ)が生じたことが明らかになりました。

これは、「海山の沈み込みにより、通常ではマグマを生じない地域にも火山が形成される可能性がある」ことを意味します。日本列島においても複数の海山が沈み込んでおり、これまで海山と地震発生との関わりが指摘されていました。本研究は、沈み込んだ海山が火山活動にも影響を及ぼしうることを示しており、日本列島の変動現象を理解する上でも重要な知見です。

本研究は、独立行政法人日本学術振興会(JSPS)とロシア基礎研究基金(RFBR)との二国間交流事業(共同研究)による支援を得たものです。また、科研費JP26247091、JP26109006の助成を受けて実施されたものです。

なお、本成果は、英科学誌「Scientific Reports」に9月14日付け(日本時間)で掲載される予定です。

タイトル:Genesis of ultra-high-Ni olivine in high-Mg andesite lave triggered by seamount subduction
著者:西澤 達治1,2 、中村 仁美1,2,3、Churikova Tatiana4、Gordeychik Boris5、石塚 治6,7、原口 悟2、宮崎 隆2、Vaglarov Bogdan Stefanov2、常 青2、浜田 盛久2、木村 純一2、上木 8、遠山 知亜紀6、中尾 篤史8、岩森 光1,2
1. 東京工業大学 大学院理工学研究科地球惑星科学専攻
2. 海洋研究開発機構 地球内部物質循環研究分野
3. 千葉工業大学 次世代海洋資源研究センター
4. ロシア科学アカデミー 極東支部火山地震研究所
5. ロシア科学アカデミー 実験鉱物学研究所
6. 産業総合研究所 地質調査総合センター
7. 海洋研究開発機構 海洋掘削科学研究開発センター
8. 東京大学 地震研究所

2.背景

海洋プレートは、海底を構成する厚く硬い岩盤で、プレート運動により移動して最終的には海溝へ沈み込みます。そして、海洋プレートが深度100km~150km付近まで沈み込むと海水等(以下「スラブ起源流体」という。)の放出現象が起こり、スラブ起源流体の化学的効果により岩石の融点が低下することでマグマや火山が生じます。日本列島においても、その下に太平洋プレートが沈み込むことで顕著な火山帯を形成しています。

一方、千島弧の北方延長上に位置するカムチャッカ半島(図1)では、太平洋プレートとともに海山が沈み込んでいます。また、深度60km~80km付近では単性火山群(East Cone Volcanic Group、以下「EC」という。※1)と呼ばれる「特異な火山」が存在していますが、なぜ通常よりも浅部で火山が存在するのか、その理由は明らかではありませんでした。

そこで本研究では、なぜこの地域に「特異な火山」ができたのかを解き明かすため、ECのうち8つの火山から18の新鮮な溶岩試料を採取し(図1)、電子顕微鏡、質量分析計等を用いて、岩石記載、各種組成分析及び年代測定を行いました。さらに、得られた組成を元にした数理解析から、定量的な溶融条件の推定とマグマを生んだ源岩の組成の特定を行いました。

3.成果

年代測定により、ECの火山活動は73~12万年前(中期~後期更新世)に起こった一過性のものであったことを明らかにしました。また、EC溶岩の化学組成・同位体比分析の結果、沈み込んだと考えられる海山から放出されたスラブ起源流体がこれらのマグマを生み出したことが分かりました。さらに、EC溶岩に含まれるケイ素(Si)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)の量は多様であること、及び沈み込み帯では最高記録となる6,300 ppmものニッケル(Ni)を含むカンラン石結晶が溶岩中にみられること(図2)から、図3に示すような物質の循環、特にSiに富むスラブ起源流体(結果として高いNiを含むカンラン石結晶を生む)が存在することが分かりました。

次に述べるように、沈み込んだ海山周辺は温かったと考えられること、及び図3に示した流体発生と物質移動の痕跡を踏まえると、温められた海山が沈み込んでいくことにより、比較的浅所(深さ60km~80km付近)で海山由来のスラブ起源流体が発生し、本来マグマのできない場所に「特異な火山」を形成したと考えられます。カムチャッカ半島に沈み込む天皇海山列沿いの太平洋プレートは、周囲に比べ薄く、更に沈み込む直前に深部からの温かいマントル上昇流(プルーム)によって加熱されていたため(図3)、そのような温かくて薄いプレートが沈み込んだ後、比較的浅所(深さ60km~80㎞)で脱水が起こりました(通常は深さ100~150㎞で脱水)。また、海山が変形・崩壊し、割れ目を通してスラブ起源流体が上昇しました(図3)。海山が比較的温かいため、スラブ起源流体はSiに富み(図3①)、それがマントルのカンラン岩(マグマを生んだ源岩)と反応して斜方輝石とよばれる鉱物を生成します(図3②)。斜方輝石に富むマントル岩石が融けると、高いNi含有量のマグマを生じ、これが沈み込み帯で最高記録のNi量を示すカンラン石結晶(図3③)を含む溶岩として噴出しました(図3④)。このように、海山の沈み込みによる熱的・化学的影響によって、通常は火山ができない前弧域に多様な島弧マグマが同時期に形成したと考えられます。

4.今後の展望

日本列島の沈み込みプレート境界(日本海溝や南海トラフ)には、複数の海山やかつての火山列が沈み込んでいます。本研究成果は、これまで火山はできないと考えられていた地域(例えば前弧域)にマグマ活動が起こる可能性を示しています。また、プレート境界型の地震は、沈み込んだ海山との関連性も指摘されていることから、今後は、マグマの物質科学的な研究、地下構造探査、温度構造推定、スラブ起源流体分布の把握等を統合して、沈み込む海山や火山列が、日本列島の火山や地震活動等に与える影響を評価していく必要があります。

※1 単性火山群
一度の噴火で形成された火山を単性火山、同じ火口から何度も噴火を繰り返して形成された火山を複成火山と呼ぶ。単性火山は多数が群れて存在することが多く、これを単性火山群とよぶ。

図1

図1 カムチャッカ半島のテクトニクスセッティングと調査地域。
左上図:カムチャッカ半島周辺のプレート。
左下図:カムチャッカ半島の火山(赤三角)と3つの火山列(Eastern Volcanic Front(EVF)、Central Kamchatka Depression(CKD)、Sredinney Range(SR))。沈み込んだ太平洋プレート(スラブ)の上面の等深線(等しい深さを結んだ線)が40 km~400㎞の範囲で示されている。
右下図:調査地域(East Cone火山群 [EC])の拡大図。三角は個々の火山を表し、黒塗りつぶしは調査・分析した8つの火山。これらの火山が、スラブ上面の等深線(60 km~80 km)の上に位置することがわかる。

図2

図2 EC溶岩(青丸=比較的MgとSiの多い溶岩[高Mg安山岩]、十字=Mgが多く比較的Siの少ない溶岩[玄武岩])に含まれるカンラン石のマグネシウムと鉄の含有比(Fo)とNi含有量(ppm)。これまで沈み込み帯の溶岩から報告されている中でNi含有量は最高値(6,300 ppm)を示す。

図3

図3 カムチャッカ北部地域の島弧横断方向の断面図とECマグマ生成モデルの概略図。
上図:カムチャッカ半島に沈み込む天皇海山列沿いの太平洋プレートは、周囲に比べ薄く、更に沈み込む直前に深部からの温かいマントル上昇流(プルーム)によって加熱されていたため、沈み込んだ後、比較的浅所(深さ60~80㎞)で脱水が起こった。
下図:沈み込んだ海山が変形・崩壊し、割れ目を通してスラブ起源流体が上昇した。海山が比較的温かいため、スラブ起源流体はSiに富み(図3①)、それがマントルのカンラン岩(マグマを生んだ源岩)と反応して斜方輝石とよばれる鉱物を生成する(図3②)。斜方輝石に富むマントル岩石が融けると、高いNi含有量のマグマを生じ、これが沈み込み帯で最高記録のNi量(6,300 ppm)を示すカンラン石結晶(図3③)を含む溶岩として噴出した(図3④)。マントルと反応した後のSiに乏しくなったスラブ起源流体は、玄武岩マグマを生成した(⑤~⑥)。このように、海山の沈み込みによる熱的・化学的影響によって、通常は火山ができない前弧域に多様な島弧マグマが同時期に形成したと考えられる。

(本研究の概要について)
国立研究開発法人海洋研究開発機構地球内部物質循環研究分野 分野長
国立大学法人東京工業大学理学院 特定教授
岩森 光
(報道担当)
国立研究開発法人海洋研究開発機構
広報部 報道課長 野口 剛
国立大学法人東京工業大学
広報・社会連携本部 広報・地域連携部門
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