地球の表面はプレートと呼ばれる硬い岩板で覆われています。プレートは10数枚に分かれ、大小様々な形をしています(図1)。
一番大きな太平洋プレートの北端は、カムチャッカ半島の東にある海溝から沈み込んでいます。このたび、その太平洋プレートと一緒に沈み込んだ海山が引き起こした現象を突き止めました。
研究チームを代表して、岩森光分野長にお話を聞きます。
ココがポイント
●カムチャッカ半島北部の、普通は火山活動が起こらない海溝近くの場所に、火山がある。
●その火山で採った溶岩試料を分析したところ、海溝から沈み込んだ海山が引き起こした予期せぬ火山活動によって形成されたものだったとわかった。
●研究では“あやしい”、“おもしろそうなことがありそう”、と直感で目を付けて、実際に足を運んで調査することが大切!
論文タイトル
Genesis of ultra-high-Ni olivine in high-Mg andesite lave triggered by seamount subduction.
ふつう起こらないはずの地域に火山活動が存在するカムチャッカ半島北部
――こんにちは。岩森さんは、どのように研究の道へ進んだのですか?
子供のころ、両親と化石探しに行ったことを覚えています。フタバスズキリュウの化石が1968年に発見された福島県いわき市にも行きました。発掘の終わった現場を見てから、いわき市周辺を巡って、アンモナイトやイノセラムスガイ、三葉虫の化石などを発掘しました。純粋におもしろいと感じました。山登りも好きで、大学は理学部へ進学して火山を研究しました。
――今回カムチャッカ半島の研究をされたそうですが、なぜそこに注目したのですか?
カムチャッカ半島の話をするために、プレートの話から始めます。
プレートについては様々な研究がされています。たとえば海洋プレートについては、大まかに言えば海嶺で生まれ、そこから広がるように移動し、やがて海溝からマントルへ沈み込んでいくことがわかっています(図2)。もしその海洋プレートの移動の途中にマグマが噴き出すホットスポットがあればそこで海山がつくられ、海洋プレートと一緒に移動して、やがて海溝から沈み込みます。こうした海洋プレートの沈み込みが、大陸や日本列島の形成につながっていきます。
――海洋プレートにはそうした動きがあるのですね。
こう述べると、我々はプレートについてほぼわかっているかのような印象を与えるかもしれません。しかし、実は“さっぱり”というほどわかっていません。そもそもプレートはなぜあるのか、どう動くのか。そして、何を引き起こすのか。例えば「プレートにはどれくらいの力が働いているの?」と研究者に尋ねれば、人により2桁も違う数値が返ってきます。
そこで我々は、プレートとその運動に関わる色々な現象の解明を目指しています。特に、世界で一番大きな太平洋プレート周辺で起きている現象をつぶさに調べています。その中で、研究で得た知識と培った直感から“あやしい”と注目してきたのが、カムチャッカ半島です(図3)。火山活動が非常に活発で、大きな火山が毎年のように噴火しています。東にある海溝では太平洋プレートが天皇海山ごと沈み込んでいますが、それら海山が火山活動にどんな影響を及ぼすのかは不明でした。
――カムチャッカ半島の下に海山があるけれど、火山活動にどんな影響があるのかは不明だったのですね。
世界の標準カタログに基づく火山マップ(図4)見てください。
沿岸のEC地域に火山マークはありませんが、実際には火山が存在します。1970年代に火山岩が発見され、また2013年に行った我々の現地調査でも確認しました。
しかし、EC地域に火山があるのは特異なのです。火山は、沈み込んだ海洋プレートから放出された水によってマントルがとけやすくなり、生じたマグマが、地表に噴き出して形成されます(図5左)。海洋プレートから水が放出される深さは、一般に100~150kmです。これに対してEC地域の下にある海洋プレートの深さは60~80km(図5右)。火山活動が起きるには海洋プレートが浅すぎるのです。
何か重大なことがあるに違いないと感じ、EC地域の火山を研究しました。