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プレスリリース

2018年 7月 10日
国立研究開発法人海洋研究開発機構

南東アフリカにおける降水量変化が人類の進化に影響を及ぼす

1. 概要

国立研究開発法人海洋研究開発機構(理事長 平 朝彦、以下「JAMSTEC」という。)生物地球化学研究分野のフランシスコ・ヒメネス・エスペホ研究員らは、ボルドー大学、フランスの気候科学環境研究所(LSCE)などと共同で、南東アフリカのリンポポ川河口の沖合で得られた海洋堆積物を分析して、南東アフリカの過去200万年にわたる降水量の変化を復元しました。その結果、降水量の大規模な変化が人類の進化に大きな影響を及ぼした可能性を明らかにしました。

南東アフリカ、リンポポ川流域ではアウストラロピテクス・セディバ(Australopithecus sediba)(※1)やパラントロプス・ロブストス(Paranthoropus robustus)(※2)といった人類の祖先の化石が多く発見されてきました。本研究は、リンポポ川流域における過去の気候変動を再現するために、リンポポ川河口の沖合で採取された堆積物コアの詳細な元素分析と数値モデルによるシミュレーションを行いました。その結果を古代人類の分布や生息時期と比較したところ、アウストラロピテクス・セディバが比較的湿潤な時期に出現したこと、パラントロプス・ロブストスが乾燥化の進行により絶滅した可能性のあることが明らかになりました(図2)。今回の成果は、過去200万年の間に起きた南東アフリカでの降水量の大きな変化が人類の進化に大きな影響を与えた可能性を示唆するものです。

本成果は、科学誌『Nature』に7月10日付け(日本時間)で掲載される予定です。

タイトル:A 2 million year hydroclimatic context for hominin evolution in southeastern Africa.
著者名:Thibaut Caley1, Thomas Extier1,2, James A. Collins3,4, Enno Schefuß5, Lydie Dupont5, Bruno Malaizé1, Linda Rossignol1, Antoine Souron6, Erin L. McClymont7, Francisco J. Jiménez-Espejo8, Carmen García-Comas9, Frédérique Eynaud1, Philippe Martinez1, Stephan J. Jorry10, Karine Charlier1, Mélanie Wary1, Pierre-Yves Gourves1, Isabelle Billy1, Jacques Giraudeau1
所属:1.ボルドー大学(EPOC、UMR5805)、2.フランス気候科学環境研究所、3.ポツダム地学研究ヘルムホルツセンター、4.アルフレッドウェゲナー極地海洋研究所、5.ブレーメン大学、6.ボルドー大学(PACEA、UMR5199)、7.ダラム大学、8.JAMSTEC 生物地球化学研究分野、9.JAMSTEC地球環境観測研究開発センター、10.イフレメール海洋研究所

2.背景

南東アフリカは、約200万年前に存在したアウストラロピテクス・セディバ(Australopithecus sediba)や200~60万年前に生息していたと考えられるパラントロプス・ロブストス(Paranthoropus robustus)など、人類の祖先の化石が数多く発見されており、「人類のゆりかご」とも呼ばれています。これらの古代人類が占める大陸生態系の進化において、気候や環境の変化が重要な役割を果たしたと考えられてきましたが、この地域の気候や環境の変動についてはほとんど解明されていません。「人類のゆりかご」と呼ばれる南東アフリカでの過去数百万年にわたる降水量の変化を研究した報告例はなく、アフリカ南部におけるこれら過去の降水量の変化に関係した気候変動についても議論の的となっていました。

3.成果

研究グループは、過去214万年の海洋堆積物内の記録に含まれる、気候の状態、特に降水量の変化に敏感な環境因子に着目しました。それに合わせて過去の気候シミュレーションを行うと同時に、アウストラロピテクス・セディバ(Australopithecus sediba)とパラントロプス・ロブストス(Paranthoropus robustus)の生態学および環境に関するデータについても着目し、比較を行いました。

リンポポ川河口沖で得られた堆積物コアMD96-2048(図1)を詳しく分析した結果、この地域の降水量の変化を読み解くためには堆積物中の鉄/カルシウム比(Fe/Ca比)が有用であることがわかりました。つまり、堆積物のFe/Ca比大きくなると降水量が増加し、小さくなると降水量が減少します。研究グループではさらにこの堆積物コアの詳細な分析を進め、リンポポ川流域における降水量の変化傾向を詳しく解析しました。その結果、アウストラロピテクス・セディバがその生活環境に適した比較的湿潤な時期(約200万年前)に出現したこと、降水量が減少傾向になり、パラントロプス・ロブストスが好んでいた生息地が減少した結果、約60万年前に絶滅した可能性が示されました(図2)。

4.今後の展望

南東アフリカに沿って南に流れるアガラス海流はこの地域の気候や気象システムに影響を与える大気との熱や湿気の交換を促進することがわかっています。しかしながら、過去の効果についてはまだわかっていないため、今後はアガラス海流の過去における役割について調べていきたいと考えています。この目的を達成するために、研究グループは国際深海科学掘削計画(IODP:international Ocean Discovery Program)第361次研究航海(2016年1月29日既報)で採取された堆積物を研究し、過去700万年間の環境変動を明らかにしていく予定です。

[用語解説]

※1 アウストラロピテクス・セディバ(Australopithecus sediba):哺乳類霊長目ヒト科の絶滅種であり、化石人類の一種。2008年に南アフリカのマラバ地方の洞窟で発見された。骨格の分析から、樹上生活をしていたが直立歩行と道具の使用が可能であったと見られている。

※2 パラントロプス・ロブストス(Paranthoropus robustus):こちらも哺乳類霊長目ヒト科の絶滅種であり、化石人類の一種。1938年南アフリカで発見された。この種は頭蓋骨が左右方向に広がって顔面も広くなり、咀嚼力が強くなったと考えられている。クロムドライ、スワートクランズ、ドリモレン、ゴンドリン、クーパーズの洞窟でのみ発見されている。

図1

図1. リンポポ川流域と海洋堆積物コアおよび古代人類の化石発見の位置。
a)リンポポ川流域(実線で囲んだ範囲)と海洋堆積物コア採取地点()。参考に現在の日降水量と海面水温を示す。
b)リンポポ川流域詳細図。海洋堆積物コアMD96-2048の採取地点()と古代人類の化石が見つかった地点()。

図2

図2. 過去214万年間にわたるリンポポ川流域の降水量変化と人類の進化の関係を示す図(横軸のMaは100万年の意味)。
a) リンポポ川流水域における降水量変化の指標となるFe/Ca比の値(黒:ログスケール)とその近似曲線(赤)。橙色の陰影は氷床拡大(乾燥)期間、灰色は湿潤期間を示す。
b)Fe/Caの期間平均値からの偏差。リンポポ川流域における降水量の変化傾向に対応。暖色系は乾燥期および乾燥化の傾向を、寒色系は湿潤期および湿潤化の傾向を示す。
c) パラントロプス・ロブストス(赤)とアウストラロピテクス・セディバ(青)の推定生息年代。

国立研究開発法人海洋研究開発機構
(本研究について)
生物地球化学研究分野 研究員 Francisco Jose Jimenez-Espejo
生物地球化学研究分野 分野長 大河内直彦
(報道担当)
広報部 報道課長 野口 剛
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