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プレスリリース

2019年 10月 1日
国立研究開発法人海洋研究開発機構

春季東アジア域におけるブラックカーボンの約9割は化石燃料由来

1. 発表のポイント

地球温暖化緩和で最も重要となる短寿命汚染物質の一つであるブラックカーボンについて、春季東アジア域ではその約9割が人間活動に伴う化石燃料の燃焼過程に由来することを観測的研究から突き止めた。
本成果は、世界的に見ても人為起源大気汚染物質の大発生源である東アジア域における有効な温暖化緩和策と考えられるBC排出量削減に科学的な根拠を与えるものであり、IPCCの次期報告書等にも活用されうるものである。

2.概要

国立研究開発法人海洋研究開発機構(理事長 松永 是、以下「JAMSTEC」という。)地球環境部門 地球表層システム研究センター 物質循環・人間圏研究グループの宮川拓真研究員らは、長崎県・福江島(図1)で2015年春季に採取された微小な大気エアロゾル(PM2.5エアロゾル)試料の化学組成の分析結果から、主要な温室効果気体の二酸化炭素、メタンと並んで地球温暖化を促進するブラックカーボン(BC)やその逆に寒冷化を促進しうる有機炭素(OC)(※1)について、東アジアの偏西風の風下における発生源寄与率(化石燃料 vs. 非化石燃料)の推定を行いました。

その結果、BCは観測期間中の平均で化石燃料を発生源とする割合が約9割にも達することがわかりました(図2図3)。これは、人為起源大気汚染物質の巨大発生源である東アジア域において化石燃料を使用するBC排出源に重点的に対策を施していくことが地球温暖化緩和策にとって有効であることを示唆しています。一方でOCは、化石燃料以外にも自然起源(陸域植生や海洋)に由来する成分も半分程度寄与していることが明らかとなりました。(図3)このことは、化石燃料の使用を抑制しても、自然起源のOCは影響を受けないため、その地球温暖化の緩和効果が継続する可能性を示唆しています。これらの成果は、世界的に見ても顕著に温暖化が進行している東アジア域における地球温暖化緩和策にとって基礎となる科学的知見であり、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の次期報告書等でも活用できるものです。

本研究は環境省環境研究総合推進費S-7、2-1403、JSPS科研費JP26550021、北極域研究推進プロジェクト(ArCS)の一環として実施したものです。本成果は、10月1日刊行のエルゼビア社の科学誌「Atmospheric Environment」214巻に掲載される予定です。

論文タイトル:Characterization of carbonaceous aerosols in Asian outflow in the spring of 2015 : importance of non-fossil fuel sources
著者:宮川拓真1、駒崎雄一2、C. Zhu1、竹谷文一1、X. Pan1,3、Z. Wang3、金谷有剛1
所属:1. 海洋研究開発機構 地球環境部門、2.元海洋研究開発機構、3.中国科学院大気物理研究所

3.背景

炭素性エアロゾルはBCやOCなどの炭素を主成分とするPM2.5エアロゾルの総称で、あらゆる大気環境下に存在するだけでなく、太陽光の効果的な散乱・吸収や雲粒生成への作用を通して、地球温暖化に影響を及ぼす重要な大気組成のひとつです。特にBCはその強い光吸収特性から、大気を温める効果(正の放射強制力)を持ち、地球温暖化緩和策において関心の高い短寿命気候汚染物質の一つです。BCやOCをはじめとするPM2.5エアロゾルの地球温暖化への影響を精緻に評価するためには、大気エアロゾルの全球分布を決める、どこからどれだけ発生しているのか(起源別の発生量)及び大気における滞留時間(大気寿命、※2)が重要となります。特に前者では、人間活動の影響を自然の森林火災の寄与などと分離することなどが望まれるが、従来のBC・OC全体の観測値からは知ることができず、数値モデルによる推定結果に頼らざるを得ませんでした。世界的にみても人間活動が急速に活発化している東アジア地域では、排出源削減対策を的確に講じる必要がありますが、起源情報に関する研究は特に少なかったのです。

JAMSTECでは2009年から長崎県・福江島大気環境観測施設(図1)において大気成分の測定を継続し、巨大発生源である中国などから、大気汚染物質が東シナ海を渡って輸送されている様子を明らかにしてきました(2010年11月10日既報)。本研究では、常設の観測機器に加えて大気エアロゾルサンプラーを2015年の春季(3-4月)に同施設へ設置し、PM2.5エアロゾル試料を日々採取しました。その試料に対して高度な化学分析を適用し、得られた放射性炭素同位体比(※3)と有機分子マーカー(※4)などの情報と、気象・衛星データの解析などを組み合わせて、炭素性エアロゾルの発生・生成源を追求しました。

4.成果

常設の観測機器で得られた燃焼過程の良い指標である一酸化炭素濃度と放射性炭素同位体比分析から得られた炭素性エアロゾル全体の14C濃度の変動を比較すると、これらは明確な反相関の関係をもつ(図2)ことがわかりました。この観測事実は、化石燃料由来の寄与率と燃焼起源の強度が良い相関性を持っていることを意味し、燃焼の影響を強く受けた大気では、非化石燃料起源の代表格である森林火災等のバイオマス燃焼ではなく、化石燃料を使用する発生源の寄与率が卓越していたことを見出しました。バイオマス燃焼の寄与率を分子マーカーの一種であるレボグルコサン(※4)の濃度から推測し、BCとOCのそれぞれにおいても、その起源を化石燃料・バイオマス燃焼・その他(※5)に区分しました。(図3

BCは、観測期間中の平均で、化石燃料の寄与率が約9割に達することがわかり、人間活動の顕著な影響が明らかとなりました。バイオマス燃焼が支配的でないのは、衛星によって大陸上の火災発生がほとんど検出されなかった観測事実とも整合的です。中国本土の限られた都市部における既往研究でも同様な結論が得られており、本研究により東アジア広域において化石燃料を使用するBC排出源が地球温暖化緩和策にとって重要であることの裏付けがとれました。

その一方で、OCにとってはバイオマス燃焼由来ではない「その他」に分類される非化石燃料由来成分、ここではとくに陸域植生・海洋といった自然起源に由来する揮発性有機化合物の大気中光化学反応において生成される二次有機炭素の割合が平均的にも半分程度(54%、図3)を占めることがわかり、人為起源以外の対策不可能な成分の重要性も同時に明らかとなりました。このように、本研究では、数値モデルに頼らずに、高度な分析データのみに基づいて、発生源寄与率を明らかにすることができました。

5.今後の展望

東アジアでのBC排出削減のためには、化石燃料を使用する発生源への対策が有効であり、今後の削減策への反映が望まれます。温室効果気体やBCによる大気加熱効果は、BC以外のOCのような非光吸収性の大気エアロゾルによる寒冷化作用により緩和されています。実際にはより複雑な温暖化作用についても理解を深める必要があります。本研究で示されている通り、OCの一部はBCと同じ発生源を持つことから、BC排出量削減対策はOCに対しても同時に起こり得るため、期待するような緩和効果が得られない可能性もあります。一方で、人間による制御や改変が及ばない自然起源のOCも重要な寄与を持っていることから、これらは将来にわたって温暖化緩和に貢献する可能性があります。近年の研究では、このような自然起源のOCを多く含む清浄な「バックグランド大気」が大陸に起因する「人為起源汚染大気」と混合することで、単純な足し算とはならない複雑な相互作用を示すことも明らかとなりつつあります。今後変わりゆく東アジア域において、自然起源に由来する二次有機炭素の相対的な重要性が増す可能性があり、その動態解明は今後の重要な課題となります。

[補足説明]

※1 炭素性エアロゾルの主要成分は有機炭素(OC)及びブラックカーボン(BC)。OCは数百種類かそれ以上の個別の有機化合物(炭素原子を構造の基本骨格に持つ化合物)で構成される集合体を指す。OCは粒子として大気中へ直接放出されるもの(一次有機炭素:Primary Organic Carbon, POC)と、気体として放出された揮発性有機化合物が大気中で反応することで、粒子として二次的に生成されるもの(二次有機炭素:Secondary Organic Carbon, SOC)に大きく分けられる。地球温暖化の指標である放射強制力(以下補足図を参照)において、BCは主要な温室効果気体である二酸化炭素・メタンに次ぐ正の値(温暖化に寄与)を示す一方で、OCは主要な無機塩エアロゾルである硫酸塩エアロゾルに匹敵する負の値(寒冷化に寄与)を示す。同じ炭素成分であるが気候変動影響において両者は異なる働きをしている。

補足図: BCとOCの放射強制力 (IPCC AR5より数値を抜粋して図示)。「エアロゾルの放射効果」は記載したBC・OC・硫酸塩以外の成分の効果を含めて合算した大気アエロゾル全体による地球大気の放射収支に与える影響を示している。また、BCにある雪氷の融解促進とは、BCが白い雪氷に降り注ぐと太陽光の吸収率が高まり融解を加速させることから、加熱効果が増幅することを示す。

※2 大気エアロゾル粒子は大気に放出されてから、雲・降水過程などにより大気から取り除かれる。その時間スケールを示すものが大気寿命である。東アジアにおける大気エアロゾル中のBCの大気寿命に関する研究に関しては、既報を参照されたい。
(http://www.jamstec.go.jp/j/about/press_release/20160831/)

※3 自然界に存在する炭素Cは通常、質量数12(12C)であるが、ごくごく少量の放射性同位体である質量数14のC(14C)が含まれる。大気中の14Cは宇宙線の作用により、窒素N(質量数14)から生成され、その14Cを含むCO2が植物などの生物体に取り込まれるため、植物やバイオマスに由来する炭素には14Cが含まれる。14Cはその名の通り、放射性崩壊により、半減期5730年で単調減衰していく。大気と炭素交換が行われない地中に埋蔵されている化石燃料では14Cがほぼ消失している事実に基づき、安定な同位体である12Cに対する14Cの濃度を利用すると、化石燃料由来か非化石燃料由来かに区分することが可能となる。

※4 ある種の有機分子は特定の発生源・プロセスで固有に放出もしくは生成されるため、この特性を利用することで発生源情報を復元できることがある。レボグルコサンは樹木を構成する主要な化学成分であるリグニンの熱分解生成物の一つである。誘導体化ガスクロマトグラフィー質量分析によって定量される。

※5 「その他」はOCのみで考慮され、バイオマス燃焼以外の非化石燃料由来の成分である。本研究の場合、生物起源(植生や海洋プランクトン)の揮発性有機化合物からの光化学反応で生成されるものが主たる構成成分である。他にもバイオマス燃焼由来の同化合物から生成されるものもある。

図1

図1 (左側) 研究対象領域(福江島は図中の星マーク)。
(右上側) 観測施設屋上からの眺望(2015年4月9日撮影)。

図2

図2 (上段)福江島における14C濃度に基づいたエアロゾル中炭素の非化石燃料起源の割合の時間変動。(下段)福江島におけるPM2.5エアロゾル(赤)・総炭素(BC+OC)エアロゾル(緑)・一酸化炭素(黒)濃度の時間変動。一酸化炭素やエアロゾル濃度が上昇する際に、非化石燃料起源の炭素分が減少し、化石燃料起源の炭素分が上昇していることがわかる。

図3

図3 平均的な発生源寄与率。

(本研究について)
国立研究開発法人海洋研究開発機構
地球環境部門 地球表層システム研究センター 物質循環・人間圏研究グループ
研究員 宮川 拓真
(報道担当)
海洋科学技術戦略部 広報課
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