20210603
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海底広域研究船「かいめい」によるIODP第386次研究航海「日本海溝地震履歴研究」が終了
国際研究チームは2021年秋に、回収したコア試料の分析を行うため、地球深部探査船「ちきゅう」に集結します

2021年6月3日
研究プラットフォーム運用開発部門 運用部

海底広域研究船「かいめい」によるIODP第386次研究航海「日本海溝地震履歴研究(Japan Trench Paleoseismology)」が6月1日、成功裏に終了しました。この航海は、東日本沖の過去の巨大地震の履歴を明らかにし、将来の地震災害の評価に寄与することを目的として、4月13日から6月1日までの50日間にわたり実施されたもので、総延長830m以上の海底堆積物コア試料が回収され、海洋科学掘削における2つの記録を樹立しました。この研究航海の第二部は2021年秋に予定されており、国際研究チームが地球深部探査船「ちきゅう」に集結し、コアの詳細な分析を行います。


海底広域研究船「かいめい」の着岸
IODP第386次研究航海を終了し、JAMSTEC横須賀本部の岸壁に着岸する「かいめい」。 

この研究航海において、海洋科学掘削における2つの記録が塗り替えられました。史上最大水深である8023mで行ったピストンコアリングと、史上最大水深8061mからの海底下試料のサンプルリターンです。

巨大地震は大陸プレートに海洋プレートが沈み込むプレート境界で発生します。沈み込む海洋プレートは下方に屈曲するため、両プレート境界は水深6000mを超える深い溝のような地形、「海溝」を形成します。

この航海では、北緯36度から40.5度に至る日本海溝に沿って、水深7445-8023mの15地点、58孔において柱状の海底堆積物試料(コア)採取を行い、総延長832mのコアを回収することができました。

共同首席研究員のMichael Strasser氏(オーストリア・インスブルック大学)は、「プレート境界に沿う巨大地震の履歴やプロセスを研究するためには、超深海の海溝底に積み重なった堆積物の記録を手にいれることが必須です。海底広域研究船「かいめい」に新たに搭載された大口径長尺ピストンコアラーシステムにより、こうした超深海底の表層堆積物を、効率的に安全にサンプリングすることが可能となったのです」


「かいめい」で使用された大口径長尺ピストンコアラー

「IODP第386次研究航海の掘削点M0081は水深が8023mで、これは海洋科学掘削史上、最も深い海底からのコア試料採取地点であり、今回43年ぶりに記録を破ったことになります。このようなチャレンジングな超深海底でのコア採取作業を、安全に遂行していただいた、船長をはじめとする船員の皆様に深く感謝するとともに、こうして得られた超深海底のサンプルを用いて、研究に着手することがとても楽しみです」と、今回の成果と今後の意気込みを語りました。

「かいめい」に乗船した共同首席研究員の池原研氏(産業技術総合研究所)は、「とてもタフな航海でした。幾度となく接近する低気圧、予想外の黒潮の北上といった厳しい気象・海況の中、我々は日本海溝の15地点で大口径長尺ピストンコア試料の採取ができました。そして回収されたコアは我々の期待通りに、厚さ10cmから数mに及ぶイベント堆積物を含むことが、コアの予察的な観察と船上計測からわかっています。これらのイベント堆積物は、日本海溝に沿って起こった過去の巨大地震によるものである可能性があります。我々は、航海第二部で行われる詳細なコア解析によって、日本海溝に沿う巨大地震と地震に関連した物質移動の時空変化を把握し、深海底における地震履歴研究の手法確立に貢献できると期待しています」と、この航海を総括しました。


「かいめい」から下船する乗船研究者たち
共同首席研究員の池原研氏をはじめ、乗船研究者・乗組員はJAMSTEC横須賀岸壁に無事帰還しました。 

この研究航海は欧州海洋研究掘削コンソーシアム(ECORD) Science OperatorとJAMSTEC MarE3の協力により実施されました。COVID-19の世界的な流行と渡航制限のため、当初の計画の通りにこの航海を国際研究チームによって実施することはできませんでした。厳しい条件のもと、日欧の連携による綿密な計画立案と最善の衛生措置の採用により、全乗船者の安全と健康を維持することができ、日本人スタッフのみでこの航海の目的を無事遂行することができました。

この航海の成功はこの秋に実施される第二部に引き継がれます。35 名の様々な分野の地球科学研究者が、オーストリア、オーストラリア、中国、フィンランド、フランス、ドイツ、インド、日本、韓国、スウェーデン、イギリス、アメリカから参加予定です。国際研究チームは、この秋に清水港着岸中の地球深部探査船「ちきゅう」に初めて集結します。「ちきゅう」のラボ設備がコアの研究やサンプリングのために活用され、コアの半裁、記載、解析、サンプリング等が実施され、「かいめい」船上で取得されたデータを合わせて、包括的な航海報告書が作成される予定です。そして分配されたサンプルは 世界中の研究者によってさらなる最先端の分析が行われ、科学成果が創出され続けることでしょう。


海底広域研究船「かいめい」

本航海に関するウェブサイト:

本記事の元となったECORDのニュース記事:
https://www.ecord.org/offshore-phase-exp386-completed/

本航海の開始に関するECORDのプレスリリース:
https://www.ecord.org/tracking-past-earthquakes-in-the-sediment-record-expedition-386-japan-trench-paleoseismology/

IODP第386次研究航海概要(プレスリリース):
http://www.jamstec.go.jp/j/about/press_release/20210412/

IODP第386次研究航海の公式サイト(ECORDウェブサイト内):
https://www.ecord.org/expedition386

ECORDのブログサイト:
https://expedition386.wordpress.com/

乗船研究者による船上レポートサイト(日本地球掘削科学コンソーシアムウェブサイト内):
http://www.j-desc.org/exp-386-japan-trench/