
航跡図
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2008/8/15〜2008/10/9(56日間)
【寄港地】
青森県関根浜、青森県八戸港、米国ダッチハーバー
【日程】
8/15 関根浜出港、八戸入港
8/16 八戸出港
8/25 ダッチハーバー入港
8/26 ダッチハーバー出港
8/28 ベーリング海峡通過
チャクナ海、カナダ海盆、マカロフ海盆での観測
10/6 ベーリング海峡通過
10/9 ダッチハーバー入港
平成20年度『国際極年・北極海観測』 MR08-04『みらい』
プレスリリース(2007/8/16)
北極海での海氷面積が観測史上最小に -今後さらに予測モデルを大幅に上回る減少の見込み-
■ 2008年10月9日(木) アラスカ夏時間
ダッチハーバー寄港

朝10時、「みらい」はダッチハーバーに寄港した。まだ暗い9時ころからだんだんと明るくなり、入港時にはすっかり陽が差していた。夕方までには研究員と技術員の大半が入れ替わる。長かった北極航海が終わるとともに、次はベーリング海を含む北太平洋の観測が始まるからだ。
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2008年10月9日(木) アラスカ夏時間
ダッチハーバー寄港

朝10時、「みらい」はダッチハーバーに寄港した。まだ暗い9時ころからだんだんと明るくなり、入港時にはすっかり陽が差していた。夕方までには研究員と技術員の大半が入れ替わる。長かった北極航海が終わるとともに、次はベーリング海を含む北太平洋の観測が始まるからだ。接岸した船のタラップが伸びる先にはコンクリートの地面がある。揺れることのない、港の地面だ。

港を歩いてみても雪は積もっていない。出港時に見た紫色の花はなくなっている。ちょうど秋と冬の境目なのだろう。町に着くとスーパーマーケットの奥に虹が降りていた。かなりはっきりと見える。虹の下、店の出入口にあるベンチでは船員たちがコーヒーを飲んでいる。店内で販売している淹れたてのコーヒーだ。そして店内では司廚の方々が食材を購入している。次の航海への準備が着々と進んでいるのだ。
関根浜を出港した8月15日から数えて56日間。2008年の「みらい」の北極航海は無事におわりを迎えた。船の故障もなく観測の失敗もなく大量のデータを得てなお、すぐに始まる次の航海に急かされるような、海洋調査船らしいおわり方だった。
(「みらい」北極航海取材チーム 広報乗船者 米本)
2008年10月6日(月) アラスカ夏時間
みらいのクルー

本日12時半にベーリング海にて、本航海最後の観測活動が行われた。「みらい」の強みとなるCTD観測だ。全部で260回を超えたことになる。ただの一度の故障もなく、よく稼動したと思う。乗組員、観測技術員の蓄積してきたノウハウによるものだ。
海は低気圧の影響で波が高かったが、遠くに見えるフェアリーロックやアラスカ沿岸に、もう陸が近いことを実感した。約40日前に北極海へ向けてベーリング海を通過し、今日戻ってきたのだ。北極の冬の到来とともに、航海の終わりが近づいている。

24時間体制で集め続けられた北極のデータは、陸で本格的に解析が行われる。すでに新発見ではないかというデータも出ているほどだ。乗船者の間では北極でもっとデータを採りたいという思いと、陸で詳細に解析を進めたいという気持ちとが入り混じっている。
夕方からは甲板で観測終了のセレモニーが行われた。普段なかなか揃うことができない乗船者が一同に集まる。そこで目を引くのは年齢の若さだ。特に本航海は学生の乗船者が多く、柔軟な吸収力と溢れる体力でデータを積極的に得ようとしていた。手に入れたデータだけでなく、この経験が彼らの将来へ大きな財産となるだろう。
「みらい」は10月9日にダッチハーバーへ着港する。そこで彼らが見る景色はどう変わっているのだろうか。

(「みらい」北極航海取材チーム 広報乗船者 米本)
2008年10月2日(木) アラスカ夏時間
北極の雪

9月半ばからちらほらと雪が降っていたが、近頃は雪の降る量が増えた。北極の雪は一日中降り続けるわけではなく、降ったり止んだりする降り方だ。降り積もった雪を見てみると、細長い雪だ。雪の結晶が細長い形なのだ。雪の結晶というと六角形のものやアラレが有名だと思うが、北極の場合は違うようだ。そう思っていたら、今日は丸いアラレも発見した。

この細長い雪の結晶は、針状結晶という。針の形だ。日本の雪と形が違う理由は、じつは雲の高さのせいだ。平たい雲(層積雲)からは細長い雪が降る。そして頭の高い雲(積雲)からはアラレや六角形の雪が降るのだ。最近は平たい雲も頭の長い雲もあるので両方降るのだろう。本航海では、そんな雪を降らせる雪雲ができる仕組みも調べられている。
(「みらい」北極航海取材チーム 広報乗船者 米本)
2008年9月30日(火) アラスカ夏時間
北極の雲



北極の雲は低いところにある。北極は気温が低いので水蒸気が上昇しにくい。低い位置ですぐに雲になるのだ。高さ800メートルくらいのところから雲ができる。日本だと高さ数キロメートルの雲が多い。距離が近いせいか雲の様子がよく見える。これまで色々な雲に出会った。

北極の空は雲に覆われていることが多い。特に9月の前半は平たい雲(層積雲)で空が覆われていた。しかし、9月の後半からは頭の高い雲(積雲)もできるようになり、その合間から青い空や太陽が覗くようになってきた。
(「みらい」北極航海取材チーム 広報乗船者 米本)
2008年9月27日(土) アラスカ夏時間
北極海のシャワー

毎日、採水器やバケツで北極海の水が採取されている。舐めてみたことがあるが、あまり塩辛くは感じ無かった。北極海は塩分が低いらしいので、日本の海水と舐め比べると、あまりしょっぱくないのかもしれない。
じつは研究観測とは別に、船で北極海の水が活躍している場所がある。それは皆の生活空間だ。

「みらい」の機関室には、造水装置というものがある。1日約30トンの水を造り出している。汲み上げた海水を塩素消毒し、フィルターで塩やゴミを取り除いたものだ。多少口に入る分には問題ないが、飲料用ではない。飲料水はむつ市関根浜で積んだものを使用している。造水装置の水は雑用清水と呼ばれ、洗面台や浴室で使われているのだ。北極海の水で歯を磨き、北極海の水を浴びて過ごしている。
補足:浴槽には半分くらいまでしか湯を入れない。揺れて溢れ出るのを防ぐためだ。 代わりに浴槽に深さがあるので、肩まで充分浸かることができる。
(「みらい」北極航海取材チーム 広報乗船者 米本)
2008年9月25日(木) アラスカ夏時間
蓮葉氷とシロクマ

日付変更線を越え、北極海のシベリア側に到着した。その途中、蓮葉氷(はすはごおり)という出来立ての氷が広がっていた。平たく薄い氷が海面を覆う、名前の通り蓮葉の浮いたような海面だ。そしてその先で、氷に乗って流れてくるシロクマに出会った。真ん中の融けた小さな氷の上で、積もった雪を掘ったりしていた。

氷の出来方には順序がある。まずは海水が冷えることが必要だ。零下よりも冷えると海面に小さな氷の結晶ができる。そのまま冷え続けるとだんだんと広がっていき、海面を覆う薄い氷の膜ができる。すると海の色が暗くなり、波打ち方がゆったりになる。その後、氷が丸く割れて蓮葉氷になる。その後は蓮葉氷が大きくなり、互いにくっつきあって大きな氷が出来上がるのだ。その上に雪が降り積もってできるのが、シロクマが乗っていたような氷だ。
(「みらい」北極航海取材チーム 広報乗船者 米本)
2008年9月23日(火) アラスカ夏時間
船の上のオーロラ

午前2時。オーロラが見えている、と操舵室から内線があった。予想外の報せだ。オーロラは雲があると見えない。北極海の天気はほとんどが曇りだ。昨日、陽が落ちる前の空も、雲の切れ間があるかどうかというところだった。それが今は晴れ、しかもオーロラが発生しているのだ。
右舷に出ると、緑がかった白い帯が空に波打っていた。空の端まで続く、ぼんやりとした光だ。そう思うと急に光が強くなったりする。消えたかと思うと、他の場所で光り始める。そんな光景だった。

オーロラは、大気中の酸素や窒素が光って起きている。
高さ100キロメートルくらいの空で電気が発生し、酸素や窒素がたくさんのエネルギーを得るのだ。
そして、得たエネルギーに相当する光を放出して、元の酸素や窒素に戻る。このときの光がオーロラだ。
船の赤い照明に負けない明るさだ。地球のオーロラは緑や紅色をしているらしい。
船上には、船員をはじめ研究者や技術者がたくさん集まっていた。24時間体制で航行と研究観測を行うクルーにとって、リフレッシュでき るひとときだ。
(オーロラの発生についての詳細はこちらをご覧ください。)
(「みらい」北極航海取材チーム 広報乗船者 米本)
2008年9月22日(月) アラスカ夏時間
レーダーで探す雨と雪の故郷

雪が降るようになってようやく北極らしくなった、という声を聞いた。それくらい北極での雪の降り方は特徴がある。メリハリがあるのだ。ある時間に急にたくさん降ったかと思うと、とたんに止んだりする。北海道での雪の降り方とよく似ているらしい。晴れ間に買い物に行き、店を出ると雪が降っていて立ち往生する。そんな感じだろうか。「みらい」にはそんな雪雲や雨雲をを調べる装置がある。ドップラーレーダーだ。

ドップラーレーダーというのは、電波を使う装置だ。まず、レーダーから電波を送り出す。出した電波が雲にあたると跳ね返ってくる。そして跳ね返ってきた電波を受け取って、解析を行うのだ。雨や雪の降り具合と、雲の移動速度を知ることができる。
本航海では、北極海に降る雨の量と雨雲が来た方向を記録している。その雨を採取して成分を分析すると、元は太平洋の水だったのか、などを判別できるのだ。雨は海の塩や栄養の濃度を左右する。水の出どころを明らかにすることで、北極海がどんな場所とつながっているかを調べている。
(「みらい」北極航海取材チーム 広報乗船者 米本)
2008年9月21日(日) アラスカ夏時間
氷上のアザラシ

いま流れてくる氷に、白く厚い氷はほとんど見られない。どこかしら融けて穴が開いたものばかりだ。そんな氷の上にアザラシを発見した。元は大きな白い氷だったと思うが、中央が融けてプールのようになっている。船とすれ違う短い時間に、前足で体を引っ張るようなあの独特の歩き方と、流暢な遊泳を披露してくれた。

今日は北極海のシベリア側に向けて、西へ航行した。しばらく氷の無い景色が続いた後、だんだんと小さな氷が現れていき、日付変更線の手前で列を成していた。東から流れてきた氷が集まる場所なのだ。いったん引き返し、引き続きアラスカ側を観測することになった。その帰り道で見つけたアザラシだ。
(「みらい」北極航海取材チーム 広報乗船者 米本)
2008年9月18日(木) アラスカ夏時間
シロクマといぬかき

正午のチャイムが鳴って食堂へ向かう途中で、「シロクマがいる」と連絡があった。急いで甲板に出ると、確かにシロクマの姿が見える。海を泳いでいるのだ。ただ、かなり距離があり、しかも波が上がると姿が隠れてしまう。写真を撮るのは難しいかと思ったが、だんだんと船のそばに寄ってきてくれた。「みらい」とシロクマのわずかな時間の並走だ。

じつはこれまで何度かシロクマは現れていた。いずれも海氷の上でごろごろとしていたのだが、遠すぎて写真が撮れなかったのだ。今日は運良くシロクマが泳いでいる時に会うことができた。むくむくの体を水に浮かせて、前足をバタつかせる泳ぎ方だ。そして明らかにこちらを見ている。たくさんの乗船者に見守られながら、シロクマは遠景に消えていった。
(「みらい」北極航海取材チーム 広報乗船者 米本)
2008年9月16日(火) アラスカ夏時間
揺れる部屋

夜10時頃から部屋が揺れるようになってきた。船全体が左右に傾くように揺れている。部屋が先に横に傾き始め、そのあとをついていくように体が傾く。何となく船酔いしそうな感じだ。幸いまだ大丈夫なのでパソコンに向かっていると、机の上に立ててあった本が横倒しになった。ここ20日間で一番揺れていると思う。航海士に訊いたところ、うねりのせいで揺れているとのことだ。

波は風によって起きている。海の表面を風が撫でると波になる。甲板から海を見渡すと、風の吹いている方に海面がだんだんと盛り上がり、波になっていく様子がよくわかる。この波が遠くに進むとうねりになる。いま「みらい」はどこか遠くで出来たうねりを受けて、揺れている。
ところが、あまり揺れを感じないと言う乗船者が多かった。こんなのは揺れていない部類だそうだ。確かに「みらい」は大きな船なので揺れにくく、そのうえ減遥装置という設備もある。揺れの方向と逆におもりが動いて、揺れを打ち消す装置だ。船の設備を見られるテレビで探してみると、ちょうど減遥装置が働いているところだった。
(海洋地球研究船「みらい」の搭載機器の詳細はこちらをご覧ください。)
(「みらい」北極航海取材チーム 広報乗船者 米本)
2008年9月12日(金) アラスカ夏時間
海の底からわかること

北極海の深さ約1000mにある海底から、地層を採取した。長さ7m、幅7cmくらいの円筒形だ。ピストンコアラーという装置を使って採取したもので、長い筒を海底に突き刺して海底をくり抜いてくる仕組みだ。くり抜いたもの(これをコアと呼ぶ)そのままでは扱いにくいので、長さ1mに切り出し、さらに半割にして分析に使う。(下の写真参照)
9日に紹介した鳥の声のような音は、ピストンコアラーのために海底を調べる音波だ。地層を確実に採取するために、事前に地層の状態を調べているのだ。例えば北極海には、海底がぎざぎざになっているところがある。氷期(寒冷期)に北米大陸にあった巨大な氷床の一部が、間氷期(温暖期)に北極海へ流れ出して、海底を引っ掻いたせいだ。その跡は水深1000mにまで達している。
地層の分析にはレントゲンを使う方法など色々あるが、まずは目で見ることだ。色々なことが読み取れる。例えば、色が薄い黄土色の部分は氷期で、濃い茶色の部分は間氷期の地層だと推測できる。これは北極海の地層の特徴だと、乗船研究員の内田昌男氏(国立環境研究所)に教えてもらった。その他にも薄い層がいくつも重なった部分や、急に別色の層が出現する部分など、不思議なところがたくさんある。各部分の地層ができた時の状況によって変わるらしい。
海底の地層から北極の過去の気候変動を知ることができ、そしてその時どんなことが起きていたのかがわかる。それが、いま起きている気候変動の説明にも繋がっていくのだ。

(「みらい」北極航海取材チーム 広報乗船者 米本)
2008年9月11日(木) アラスカ夏時間
採水器とテフロン加工

テフロン加工というとフライパンで有名だと思う。フライパンの表面をテフロンで覆うことで、フライパンが焦げ付かないようにするものだ。料理後に洗いやすくもなる。じつはこのテフロンが「みらい」の研究観測でも利用されている。
採水観測では塩分や水温など色々なデータを取るが、鉄分の観測はとくに難しい。鉄は日常のさまざまな物に使われているので、使用前の採水器内にそれらの鉄が入り込んでしまうのだ。そんな採水器で海水を採っても、元の海水に含まれていた鉄の量はわからない。鉄の入り込んでいない採水器が必要なのだ。
ここで、テフロン加工が登場する。採水器の内側をテフロンで覆うのだ。テフロンは酸に強いので、酸で管内を洗浄して鉄を洗い流すことができる。酸を使って鉄や金属を洗い流すこと自体はポピュラーな方法だが、普通の採水器だと酸で傷んでしまうのだ。また、テフロンは汚れが付きにくいので、洗った後に再び鉄が付いたりしにくい。そうして鉄の入り込んでいない採水器を用意するのだ。そんな特別なものなので、通常の採水器と区別するために黄色のラベルが貼られている。
鉄は植物プランクトンに必要なミネラルだ。植物プランクトンは光合成で二酸化炭素を吸収し栄養を作り出している。その鉄が北極海にどう分布しているのかを調べているのだ。
(「みらい」北極航海取材チーム 広報乗船者 米本)
2008年9月9日(火) アラスカ夏時間
船内の鳥の声

「みらい」に乗船してから気になっていたのだが、ときどき船内で鳥の声がする。チュイっというスズメのような鳴き声だ。たしかダッチハーバーにスズメらしい鳥がいたので、出港時に紛れ込んだのではと探してみたが見つからなかった。じつはその音は、サブボトムプロファイラーという、海底の地層を調べる機器が出している音だそうだ。
鳥の声と思ったのは、北極海にも鳥がたくさんいるからだ。数羽が飛んでいるだけでなく、群れを成して船の周りを通り過ぎていくことも珍しくない。特に今日はアラスカ沿岸に近いこともあり、いつもより多く飛んでいる。主にウミネコのような鳴き声をする鳥が目に付くが、それ以外にも海に潜るものも発見した。結構色々な種類がいるようだ。
(「みらい」北極航海取材チーム 広報乗船者 米本)
2008年9月7日(日) アラスカ夏時間
甲板上の癒し系2 〜クリオネ〜


(「みらい」北極航海取材チーム 広報乗船者 米本)
2008年9月6日(土) アラスカ夏時間
甲板上の癒し系1 〜カイアシ〜


カイアシの他にもエビやクリオネ、さらには光る生き物も採れることがある。夜に採れやすいらしいので、次は夜に見に行ってみよう。
(「みらい」北極航海取材チーム 広報乗船者 米本)
2008年9月3日(水) アラスカ夏時間
最北更新情報 『北緯77度23分』


(「みらい」北極航海取材チーム 広報乗船者 米本)
「みらい」日本船の最北記録を更新中


本日4時29分(日本時間3日21時29分)、「みらい」は、日本船による最北記録を更新した。
『北緯76度35分』、これが今の「みらい」の航行地点だ。
実はこれまで日本の最高記録は2004年に「みらい」が到達した、北緯76度34分だった。そしてたった今、「みらい」は、かつての最北緯度を通過していったのだ。
北極海の急激な変化を物語る、氷の無い海面に包まれた物静かな記録更新だった。
(「みらい」北極航海取材チーム 広報乗船者 米本)
2008年9月1日(月) アラスカ夏時間
ワッチとドライカレー

ワッチ(watch)というのは当直制のことだ。船は24時間航行し続けるので船橋や機関部等では24時間体制で担当箇所に船員が居なければならない。3人で4時間ごとに交代するワッチが一般的だ。一周りで12時間、二周りで24時間になる。
さらに「みらい」では、研究観測も24時間体制で行われているので、技術者や研究者も当直シフトを組んでいる。船員だけでなく技術者と研究者も含めて、互いに能率的に作業できるようなシフト組みは、研究航海の特徴であり欠かせないことなのだ。
さて、「みらい」の昼食で特に楽しみにしているメニューがある。それはドライカレーだ。白い御飯の上にルウと卵が乗っかっているらしい。一航海に一度しか食卓に上がらなく、乗船者の間でいつも高い人気を誇っているという。今日のお昼がまさにそのドライカレーだった。ほんのり辛いルウに卵の甘さが調和していて、評判に違わない逸品だった。
夜に船内を歩いていると、ワッチでドライカレーが食べられなかった、という声をいくばくか耳にした。人気のメニューなのだ。
(「みらい」北極航海取材チーム 広報乗船者 米本)
2008年8月31日(日) アラスカ夏時間
係留系による定点観測

昨日「みらい」は本航海においてはじめて海氷に遭遇した。北極海の海氷といえば、白と青のコントラストが美しいブルーアイスをイメージするかもしれないが、このアラスカ・バロー沖のものは明らかに違う。土色をした汚い氷が目に付くのだ。その理由を島田首席に尋ねたところ、北極海の気候システムとアラスカの地形が関連しているとのことだった。バロー岬の東側は俗に「氷の墓場」と呼ばれていて、北極海を移動してきた氷の一部がこの沿岸にぶつかり消滅する場所とされている。ところが、衝突で壊れたり、汚れたりするだけでなく、板状の氷が回転して縦長になったり、薄い氷が重なり合って分厚くなることもあるそうだ。我々が見た氷はまさにその墓場から流れてきた残骸だったというわけである。またここは、北極海へ流入する2種類の水が交錯する場所でもある。2種類の水とは、ベーリング海峡から入ってきた太平洋の水とフラム海峡から流れ込む大西洋の水を指す。この二大洋の水が北極海で初めて出遭う場所、それがこのバロー沖なのである。つまり太平洋と大西洋の海水を一度に観測できるというわけだ。
ここで行われている調査のひとつに係留系による定点観測という方法がある。これは観測機器を海底のシンカーにつなぎとめた状態で放置して、この地点の流向や流速をはじめ、流量および熱流量など、一定期間の時系列データを得ることができる自動観測システムだ。係留系観測が開始された1996年、北極海はまだ氷に覆われた閉ざされた海であり、特筆すべき変化は見られなかった。しかし翌97年から98年にかけて最初の大変動が起こり、北極海の海氷は著しく減少した。この瞬間をバロー沖の係留系はしっかり捉えていたのだ。96年には0度だった太平洋の海水温が98年には4度に上昇していたことを証明したのは、この係留系観測による成果である。それから12年、ほぼ断続的にこの地点での観測が続けられ、貴重なデータを今なお蓄積している。
今日は、1年間計測を続けてきた係留系を回収し、代わりとなる係留系を設置する作業が行われた。この作業で驚いたのは、シンカー投入時の卓越した操船技術である。先にも述べたが、このバロー沖では海氷が回転するため、巨大な板氷が回転し海底を削り取るケースも珍しくない。このような強大な氷塊との衝突を避けるため、係留系の設置場所はバローキャニオンと呼ばれる海溝部に設定してある。つまり、係留系を溝の中に設置できれば、氷塊との衝突を回避できることになる。しかし、実際に行うとなると簡単ではない。水深282mの海底へ垂直落下させるには、ポイントの真上にシンカーを投入する船尾の中央部分を導き、投入の瞬間までこの位置を保持しなくてはならないからだ。
以前、赤嶺船長は、「みらい」のポテンシャルを最大限にいかして観測研究に貢献したいと語ってくれたが、能力を引き出すための技術がどういうものか、まざまざと見せつけられた一日になった。
(「みらい」北極航海取材チーム)
他船との遭遇
朝の9時に甲板から双眼鏡で海を眺めていたところ、遠くに船らしきものを発見した。非常に遠いのでよく見えない。操舵室へ行って高倍率の双眼鏡を借りたところ、確かに船だった。カナダの商船かとも思ったがわざわざ北極海を通るものなのかと、船長に尋ねたところ、カナダのGILAVARという船だそうだ。地質調査の船で大陸棚を調べているらしい。船と船が遭遇すると無線で互いの情報を確認しあうのだ。
北極海で初めて他船と出会ったので、記念に撮影した。距離が遠いので双眼鏡越しにデジタルカメラで撮影という荒業で、何とか撮れたというレベルだ。今後も他の船と会うことがあるかはわからないが、念のため望遠レンズのついたカメラも常備するようにしよう。
(「みらい」北極航海取材チーム 広報乗船者 米本)
2008年8月30日(土) アラスカ夏時間
氷と初の遭遇

朝の8時15分、船橋操舵室から内線が入り、氷の横を航行していると連絡があった。すぐさまカメラマンとともに操舵室へ駆け上がる。居室から操舵室までの階段は59段だ。ドアを開けると、操舵室の窓の外、マストの左側に白い塊が見える。連絡をくれた船長たちにお礼をし、撮影を開始した。
北緯70度57分、西経161度19分。ベーリング海のすぐ北、チャクチ海の光景だ。最初は数個のまばらな氷だったが、船が進むにつれてだんだんと増えて島のようになっていった。出港して今日で5日目。氷を目の当たりにし、今更ながらに北極に来たのだと実感した。オホーツク海の流氷でもなく冬山の氷柱でもなくまして冷凍庫の霜でもない、北極の氷だ。
(「みらい」北極航海取材チーム 広報乗船者 米本)
2008年8月28日(木) アラスカ夏時間
観測初日
ダッチハーバーから太平洋を北上した「みらい」は、本日の正午前、北極海への玄関口となるベーリング海峡に到達した。この海域で初めて、採水を中心とした海水調査が行われ、北極航海における本格的な観測が始まる。
最初の観測点をベーリング海峡にしているのは、単にここが北極海の入り口という理由からだけではない。北極海における気候変動の象徴となっている海氷減少のエリアが、ベーリング海峡に面しているからだ。海氷の減少は北極海全体で一様に起こっているわけではなく、太平洋と隣り合う海域だけで起きている。つまり、ベーリング海峡を通過する太平洋の海水がどのような特性を持ち、どこを流れて、どのように分布するのか、また北極海においてどんな役割を果たしているかを調べることが、北極海の気候変動を解き明かす手がかりとなるわけだ。
観測初日の今日は、ベーリング海峡における海水調査がメインとなり、「CTD採水器」が活躍した。これは海中の電気伝導度(Conductivity)、水温(Temperature)、水深(Depth)を高精度のセンサーで計測しながら、最大36層の水深で採水可能な観測機器だ。採取された海水は分析項目ごとに13種類の瓶に取り分けられ、塩分や二酸化炭素、栄養塩、溶存酸素などが精密に測定される。こうした高精度観測を陰で支えているのが観測技術者の方々だ。CTD採水器からの海水の取り分けも、一見何気ない作業に見えるが、研究用途に応じて水の汲み方が異なるなど、様々な工夫がなされている。
一般的に太平洋の水位は大西洋に比べて高いと言われている。これは太平洋が大西洋よりも雨が多く、そして蒸発が少ないことに起因している。そのため北極海では太平洋から大西洋に向かって海水が一方通行で流れている。実際にこのベーリング海峡で観測の様子を記録していると、背景にある陸地が移動したように見えることがある。これは、観測中に停まっていた「みらい」が風や潮流によって流されたということだ。今日は南西の風が吹いていたが、船は北に流された。つまりそれは北極海への潮流がいかに強いかを物語っている。
「みらい」はこの太平洋の海水とともに北極海へ入り、アラスカ・バロー沖へと向かう。
(「みらい」北極航海取材チーム)
夕暮れのココリスブルーム

23時に夕暮れを撮影していると、海が変色していることに気づいた。夕暮れが海面に反射しているのかとも思ったが、それにしては位置がおかしい。写真を持って、乗船研究者の方々に尋ねたところ、ココリスブルームというものだという。
ココリスブルームというのは、海の色が一部分、緑色〜白色になる現象のことで、円石藻(ココリス)という植物プランクトンが大量に発生することで起こる。円石藻はクロロフィルという緑の色素と、炭酸カルシウムを含む白色の殻を持っている。なので集団で海面に来ると、海面が緑色〜白色になるそうだ。陽の弱い曇り空だと特に白く見えるらしい。確かに白い。
ココリスブルームのあるところは水環境に変化のある場合が報告されており、乗船研究者がCTD採水の解析結果を楽しみにしていた。
(「みらい」北極航海取材チーム 広報乗船者 米本)
2008年8月27日(水) アラスカ夏時間
「みらい」のクルー

昨日8月26日に米国アラスカ州ダッチハーバーを出港し、本格的に航海が始まった。もう景色一面が海だ。このまま「みらい」はベーリング海を抜けて北極海に向かう。
いま甲板に立って朝日を撮っているが、非常に寒い。まだ北極海手前で気温も8度くらいなので、あまり厚着をしなくてもよいと思っていた。ところが風が非常に冷たいのだ。観測技術員のかたに聞いてみたところ、風速が11m/秒もあるという。吹きさらしだと寒いわけだ。しばらくは防寒よりも防風のための服装をするとよさそうだ。
さて、「みらい」には様々なクルーが乗っている。普通の商船だと、船長・機関長・機関士・航海士といった船員が乗船し、互いにやり取りしながら目的地へ荷物を運ぶ。しかし「みらい」は研究船なので、さらに研究者と技術者が加わる。なかでも研究船としての独特の機能、つまり研究観測の部分を支えるのが観測技術員だ。彼らは、船に搭載されている様々な観測機器を現場で実際に操作し、海・大気・海底の観測データを出す。そして研究者の方々がデータを基に北極の状態を解明していくのだ。そして、観測活動の現場に目が行きがちになるが、乗組員の総合力があってこその研究航海だ。長い航海で乗船員の食事をささえる司厨の方々も忘れてはいけない。
(「みらい」北極航海取材チーム 広報乗船者 米本)
2008年8月26日(火) アラスカ夏時間
ダッチハーバー出港

穏やかな港内での一夜を過ごした「みらい」は、本日9時にダッチハーバーの岸壁を離れ、北極海へ向けて出帆しました。予定では二日後に北極海の太平洋側の入り口であるベーリング海峡へ到達することになっているので、本格的な調査はそれからになります。
午前中に島田首席から行われたブリーフィングでは、現在の北極海における海氷の状況は観測史上最小となった2007年に次ぐ少なさであり、高緯度での観測も期待できるとのことです。ただし2007年とは違い、北極海の太平洋側では海氷があちこちに点在しているため、どのような進路で観測を進めていくかという点では、難しい選択に迫られているとのことでした。
海氷の減少が著しい北極海の太平洋側は、ベーリング海峡を通じて太平洋の海水が流れ込む海域にあたります。今回の北極航海では、このベーリング海峡を起点とし、海氷減少の実態を、海水採取・分析等の現場観測によりとらえ、そのメカニズムを明らかにすることが大きな目的です。また本航海では、海水のみならず、データが不足している北極海での大気観測や海底堆積物の採取・分析など、気候変動の解明を目的とした総合的な観測を行う予定です。
出港後まもなく、ダッチハーバーからの乗船者に向けたオリエンテーションが船内で開かれ、午後には避難訓練が実施されました。訓練では、あらかじめ浮力が付いたイマーションスーツの装着方法や、実際に救命艇へ乗り込む際の手順などが紹介され、安全に対する意識を深めるいい機会になりました。
「みらい」が就航した1997年以来、船長としてすべての北極航海に参加してきた赤嶺正治船長は、極地観測でも力を発揮する特殊装置や大型観測機器など、「みらい」だからできる優れたパフォーマンスを最大限にいかして、観測研究に貢献したいと、本航海に対する抱負を語ってくれました。
操船にあたる方々の強力なバックアップを得て、「みらい」は一路ベーリング海峡を目指します。
(「みらい」北極航海取材チーム)
2008年8月25日(月) アラスカ夏時間
ダッチハーバー入港

日本時間の8月16日に日本の八戸港を出発した「みらい」は途中大きなトラブルに遭遇することもなく、本日8月25日(アラスカ夏時間)11時30分、米国アラスカ州ダッチハーバー Coast Guard Dock に入港しました。本港から研究者や海洋観測の技術者十数名が新たに乗船し、北極航海に参加するすべてのスタッフがそろい、船内はいっそう賑やかになりました。
このダッチハーバーは本航海にとって大切な中継地です。「みらい」はここを出ると調査終了まで寄港する予定がないので、当地での給油が欠かせません。今回の調査で予定している航行距離はおよそ7700マイル、約14000キロに及ぶため、可能な限りの燃料を積み込んでいます。
ダッチハーバーはアラスカ西部に連なるアリューシャン列島の中間に位置する、漁業が盛んな港町です。街の中心部にはロシア正教の教会があり、以前この地が旧ロシア領であったことを伝えてくれます。緑に覆われた山々や空を映す青い海が際立つ町並みですが、次に「みらい」がダッチハーバーに寄港するのは調査が終了した10月9日です。その頃にはもう一面の雪景色に変わっているかもしれません。
(「みらい」北極航海取材チーム)
2008年8月16日(土) 日本時間
八戸港で外変手続き

昨日「みらい」は、青森県むつ市関根浜港を出発し、「平成20年度『国際極年・北極海観測』 MR08-04『みらい』」を開始しましたが、実はいま八戸港にいます。海外に向け出航する手続き(通称、外変手続きと呼ばれる)を行うためです。今回、「みらい」は米国アラスカ州のダッチハーバーに寄港するので、外変手続きが必要となります。入国管理局による出国審査も行われました。八戸港では、給油と食糧の積み込みも行われています。食糧は、日本帰港までに必要となる量を積み込みます。乗船者約80人×約80日分ですので、約6,400人・日分の食糧が積まれる計算です。
また、八戸市水産科学館マリエント「ちきゅうたんけんクラブ」への船内見学会を開催しました。航海士の案内で操舵室はじめ船内各所を見学しました。終了後、赤嶺船長からクラブ員一人ずつに記念証が授与され、子どもたちにとって大満足の一日になりました。
さて、16時に予定通り出港となり、出港の様子がニュース等で紹介されました。これから1週間の航海のあとアラスカのダッチハーバーに寄港し、その後、本格的に北極の調査を開始します。調査の様子は本ウェブページにて紹介していく予定ですので、よろしくお願いいたします。
(「みらい」北極航海取材チーム)
2008年8月15日(金) 日本時間
母港、関根浜港を出港

折からの低気圧の影響で、厚い雲に覆われた青森県むつ市関根浜港でしたが、海洋地球研究船「みらい」は無事定刻の16時に母港を離岸し、56日間に及ぶ北極航海「平成20年度『国際極年・北極海観測』 MR08-04『みらい』」が始まりました。
今年は国際極年という、50年に一度の、大規模な極地観測を国際間で実施する区切りの年にあたります。半世紀前に行われた国際地球観測年では、日本の南極観測が始まり、以後、南極における科学的分野の進展は目を見張るものがありました。日本が国際極年に北極海で観測を行うのは今回が初めてですが、この北極航海が起点となり、今後の科学的発展に貢献することを願わずにはいられません。
出港前、本航海のリーダーである島田浩二首席研究者は、北極航海の実現に尽力された方々への感謝の言葉を述べるとともに、国際極年という大きな節目に、激変する北極海で観測研究ができる科学者としての喜びを語ってくれました。
減少する北極海の海氷、地球温暖化との関係など、北極海の変化が注目されていることは間違いありません。北極海のどのような変化を捉えて、何を解き明かすのか。このレポートでは、「みらい」が見つめる北極の様子をお知らせしていきます。
(「みらい」北極航海取材チーム)