本プロジェクトは国立研究開発法人科学技術振興機構(理事長 橋本 和仁、以下「JST」という。)が進める経済安全保障重要技術育成プログラム「先端センシング技術を用いた海面から海底に至る海洋の鉛直断面の常時継続的な観測・調査・モニタリングシステムの開発」(プログラム・ディレクター 高木 健(東京大学 大学院新領域創成科学研究科 教授))における研究課題「海面から海底に至る空間の常時監視技術と海中音源自動識別技術の開発」(研究代表者 笠谷 貴史 JAMSTEC経済安全保障重要技術育成プログラム統括プロジェクトチーム スマートセンシング技術開発プロジェクトチーム)として2024年2月より開始しました。

本プロジェクトは、先端センシング技術を用いた海面から海底に至る鉛直断面空間の観測技術を開発するとともに、観測データから有用な情報を抽出・解析し統合処理する技術を開発することで、海洋全般の海洋環境・海況・自然現象・人工現象等の経時的な観測及び分析を行うシステムの構築を目指すものです。

一般に広大な領域を観測する衛星等では光と電磁波が用いられますが、海洋では海水の存在によりこれらは減衰してしまうため、海中の様子を可視化することは不可能です。一方、水中では音が非常に遠くまで届き、その伝播距離は1万数千kmに達するとの報告もあります(Munk et al. 1994)。海中音は、海洋空間に分布する多様な音源(例えば船舶や魚類や海棲哺乳類の鳴音、あるいは波浪や降雨に伴い生じる音)の総体であるため、「海洋の可視化」に資する多様な海洋情報を内包していると言えます。このため光ファイバハイドロフォンを備えた先端センシングケーブルにより海中音を常時観測し、その音源を類別・移動様態推定することで、海洋生物の分布や行動生態の把握、あるいは安全保障上重要となる海面・海中を移動する音を発する人工物の検知を可能とします。

また、水温や電気伝導度などの海水の性質や海象情報を含む海況を時空間的に高密度に把握する観測としては船舶による定線観測がありますが時間的な密度が十分とは言いがたく、そのために海況のリアルタイム把握・予測を行うデータ同化モデルも精度向上が難しい状況です。しかし時空間解像度が十分に高い観測を実施するため十分な量の観測データを得るためには、経済的にも運用的にも負担が大きくなるトレードオフが存在するのが実情です。そのため、本プロジェクトでは海況の鉛直断面での把握のために、現実的な範囲で洋上航走体や漁船などを用いる高時空間分解能の観測を実現する一方、観測データを利用する高精度な最先端のマルチモデルを用いて観測と相補的に活用することとしました。

さらに本プロジェクトでの観測データから有用な情報を抽出・解析し統合処理する技術の開発等に取り組み、これらを組み合わせることで海洋の鉛直断面を通過した物と海況がリアルタイムで把握できる統合システム「海洋音響・海況観測解析システム」Acoustic and Oceanographic Data Acquisition and analysis System(AODAS:アオダス)(仮称)を構築したいと考えています。この取り組みを通じて海洋の可視化を推進してまいります。

鉛直断面観測システムのイメージ
鉛直断面観測システムのイメージ
鉛直システムで四次元情報として出力される海洋状況のイメージ
鉛直システムで四次元情報として出力される海洋状況のイメージ
スマートセンシング課題の実施体制
スマートセンシング課題の実施体制