気候変動リスク情報創生プログラム

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気候変動リスク情報
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PD(プログラム・ディレクター)からのメッセージ


住明正

文部科学省技術参与
気候変動リスク情報創生プログラム  プログラム・ディレクター
国立環境研究所  理事長
住  明正

  地球温暖化に伴う気候変動が社会に及ぼすリスクに関する情報を作り出すことを目的として、本研究プログラムは平成24年度に始まり、今年が5年目の最終年度を迎えました。研究は予想以上に進展しており、リスク情報の提供に関する大きな研究成果が得られています。このようなリスク情報は、具体的な適応策の設定や実施の中に生かされてこそ意味があります。しかし、リスク情報は確率的・統計的な情報です。そのため、本プロジェクトでは、いろいろな場合の気候状態を計算し、温暖化時の気候変動の確率・統計的な情報が得られるd4PDFという新しいデータセットを作り出しました。しかしながら、このデータセットの利用に関しては、その特徴をよく理解して使ってゆく必要があります。
  一方、世界の状況を眺めますと、昨年のCOP21でのパリ協定の成立に代表されるように、温暖化対策に関する新しい国際枠組みに移行したといえると思います。この枠組みの中で、我が国は、宣言した削減目標を実現する必要があります。しかし、この枠組みの究極の目標は、気候を安定化させるための世界規模の炭素の排出管理です。自然界では、人類が排出する以上の炭素が循環しています。この自然の炭素循環を正しく理解することは、人源起源の炭素の排出を管理するうえで重要となります。温暖化対策では、我が国の将来のエネルギー政策や経済政策との整合性を考慮するとともに、全球の炭素管理を提唱してゆく必要があります。その一方、我が国は、将来の気候変動に備えるべく適応計画を進展させる状況にあります。このためには、より細かな時間・空間スケールでの気候変動の情報が必要になってきます。また、影響分野も、生態系、農業、漁業、自然災害や国民生活など多岐に及びますし、影響の仕方も多様です。したがって、その対策も多様となります。これらの分野にどのようにしてリスク情報を活用してゆくことが今後の課題です。
  以上述べた研究成果を支える基盤は、ひとえに、気候モデルの進展と、気候システムの振る舞いの理解にあります。このためには、地味ではありますが、継続的なモデル開発を進めてゆくしか方法はありません。今や、観測データの収集、解析とともに、気候モデルを用いた予測能力は、国の力の源泉です。引き続き発展させてゆくことが不可欠です。
  最後に、これらの研究成果は、現実の課題に生かされてこそ価値のあるものです。本講演会の講演が皆さんの理解を得て、社会のいろいろな場所で生かされていくことを願っています。

講演要旨


温暖化により将来台風や豪雨がどうなるのかがわかる、世界でも類のない大規模データセット

高藪出

気象庁気象研究所
環境・応用気象研究部 部長
本プログラム  研究領域テーマC  領域代表
高薮 出

  地球温暖化への適応策を考える際には気候変動の予測結果の巾、あるいは温暖化に伴い様々な自然災害をもたらす気象条件がどの位頻繁に生じるのかを知っておく必要があります。しかしこれまでのシミュレーション実験では、稀にしか生じない台風・豪雨といった気象現象についてその評価が出来るだけの十分な事例を集めることはできていませんでした。今回、創生プログラム内の各テーマ間の連携、並びにDIAS(地球環境情報統融合プログラム)、CEIST(海洋研究開発機構地球情報基盤センター)の協力により、新世代の地球シミュレータの能力をフルにいかすことで世界でも例のない最大100例にのぼる多数のアンサンブル実験を行い、データベース(d4PDF)の作成に成功しました。今回はこのデータベースの紹介をいたします。d4PDFを公開することにより、過去の厳しい気象現象がなぜ生じたのか、将来変化予測の巾がどの程度になるかが明らかになり、データを利用した影響評価研究などが飛躍的に進むこと、またこれらを通じて各省庁・自治体・産業界での温暖化適応策の策定が促進されることが期待されます。


今後の防災・減災に気候変動予測はどのように活かされるか

中北英一

京都大学防災研究所
副所長・教授
本プログラム  研究領域テーマD  領域代表
中北 英一

  気候変動による洪水や高潮などによる水災害のへの影響評価や適応を考えるに当たり重要なことは、何年に一度の割合という確率で規定されている治水システムの設計外力がどう将来変化するかをしっかりと推測することがまずもって重要です。その生起確率を精度良く推測するためには極めて多くの将来予測情報(アンサンブル情報)が必要でありこの取り組みが開始されています。一方、たとえその生起確率が分からなくても気候変動下で生起するであろう最大クラスのハザードとそれによる災害への影響を推定しておくことは極めて重要であり、台風についてはそういった研究が鋭意進められています。ここで、単なる大規模水害への適応と気候変動下での大規模水害への適応を混同しないことが重要です。後者に関しては適応を「今から後悔しないやり方で始める」事が人的にも経済的にもより重要となってきます。また、通常の極端さでの長雨や出水形態の異なる事例、すなわち、住民や河川を実管理する専門家にとって「しんどい」事例も、今後「じわじわ」と多くなってきます。普段の「しんどい管理」の「じわじわ」とした高頻度化、これが今後、現場のしんどさ・疲労増大に結びついてリアルタイム治水防御システムの安全度を低下させていきます。後悔しない適応としてそのようなことがないように対応して行くことも大切な適応と肝に銘じておきたいと考えています。

世界的な気候変動予測の情報から地域的な気候の変化をどのようにして求めるのか

高藪出

気象庁気象研究所
環境・応用気象研究部 部長
本プログラム  研究領域テーマC  領域代表
高薮 出

  本テーマでは、数値モデルを用いた世界的な気候変動予測の情報から地域ではどのようなことが生じるのかを求めること(ダウンスケーリング)を目的に研究を進めてきました。人間の住んでいる社会の側の様々な事情を考えたうえで気候変動に伴うリスクを評価するためには大きく分けて ( i ) 確率を含む予測情報を出すことと、( i i ) 最悪シナリオの評価を行う事、の二つの手法があります。ここでは、統計の力を借り、また多数アンサンブル実験の解析を通じての確率的な予測研究と、数キロメートルスケールの再現を可能にした超高解像度モデルによるシミュレーションによる最大シナリオの探索を通して、地域的な気候変化を描く試みを紹介します。

温暖化抑制目標達成のためには、どれだけCO2排出を減らすべきか

河宮未知生

海洋研究開発機構 戦略研究開発領域
気候変動リスク情報創生プロジェクトチーム プロジェクト長
本プログラム  研究領域テーマB  領域代表
河宮 未知生

  温暖化の対策には、ある程度の温暖化は不可避との認識のもと被害を最小限度に抑えるための「適応」と、温暖化の進行そのものを止めようとする「緩和・抑制」とがあります。テーマBを除く創生プログラムの各テーマは、詳細な気象・気候情報の提供から適応に貢献することを主に目指していますが、テーマBは地球規模の炭素循環の研究から、「どの程度CO2を減らせば、どの程度地球環境に影響を与えるか」といった評価を通して、緩和・抑制策立案への貢献を目指しています。こうした評価にとって大きな障壁となるのが予測の不確実性です。テーマBでは、生物・化学過程も含めた気候モデル「地球システムモデル(ESM)」を開発していますが、遠い将来の地球環境を予測するうえで、ある程度の不確実性は避けられません。この不確実性が、今後CO2排出を減らすためのコストの見積に大きく関わってくることが分かってきました。これは、CO2排出を減らすための社会経済シナリオが、ESMの予測に依存することを意味します。講演では、こうした不確実性を把握し少しでも減らすためにテーマBで取り組んできた研究と、今後の課題についてお話しします。

いま起きている気候変動を解明し、将来を予測する ― 気候変動対策の基本情報を提供

木本昌秀

東京大学大気海洋研究所
副所長・教授
本プログラム  研究領域テーマA  領域代表
木本 昌秀

  災害は忘れた頃にやってくる、と言われます。頻度は低くとも、猛暑の夏や大雪の冬は地球気候の自然なゆらぎの表れとして必ずやって来るものであり、個々の気象イベントを地球温暖化だけのせいにすることはできません。しかしながら、ゆっくりと進行する地球温暖化は、異常天候や極端気象の発生頻度を微妙に、しかし着実に変えつつあります。進行する地球温暖化への対策を講じるためには、平均的な気候だけでなく、社会影響の大きい異常天候や極端気象の変化も含めた、信頼できる予測情報が必要です。このために本テーマでは、予測ツールとしての気候モデルを高度化し、また大気や海洋の観測データをモデルに取り込んで、半年後のエルニーニョから、数10年後の温暖化まで、様々な時間スケールの気候変動を予測できるシステムを開発してきました。そして低頻度現象もカバーすることのできる大量の数値実験を行って、近年社会的にも注目を集める猛暑や干ばつ、寒冬、地球温暖化が停滞したように見える「ハイエイタス」現象等々、現在進行形の気候変動に対する人為要因の影響評価を行い、温暖化対策の基盤となるリスク情報を提供してきました。新しい予測システムを用いて、気候科学の長年の懸案である「気候感度問題」~温室効果気体の増加に対する将来予測が大きくばらつく問題、に対しても新たなアプローチを提案しています。