JAMSTEC > 超先鋭研究開発部門 > 超先鋭研究開発プログラム > 過去の成果一覧 > 詳細

超先鋭研究プログラム

成果

[2012年]

糖鎖解析支援ソフト「GlyfinTMS」の開発

~糖鎖研究とJAMSTEC~

すべての生物には、「糖鎖」という生態分子が細胞の表面に存在しています。糖鎖はグルコース(別名ブドウ糖)やマンノースなどの単糖が複数鎖状に連なったもので、核酸(DNA、RNA)やタンパク質に次いで「第三の生命鎖」とも呼ばれ、生物にとって非常に重要な役割を担っている事がわかってきています。

ヒトの血液型は血球の表面についている糖鎖の違いによるものであったり、卵子と精子が受精する際に、卵子の表面の糖鎖を精子が認識して受精が起こるなど、糖鎖は細胞と細胞、生物と生物などを認識する重要な役割を担っています。近年では、糖鎖がガンや免疫疾患などに関わっている事が次々と明らかになってきており、糖鎖に着目した医療診断や、医薬品の開発を始め、機能性食品、スキンケア商品など世界中の幅広い分野で糖鎖が注目を集めています。

これらのことからも、糖鎖研究は飛躍的な進展を見せ、高等生物の病理学分野、生理学分野で次世代の基盤的研究分野として認識されつつあります。
しかし、海洋生命圏の理解に向けた研究に糖鎖を適応する例はありませんでした。
そのような中で、JAMSTEC では深海熱水孔より分離された微生物のゲノム解析(Nakagawa et al. PNAS USA. 2007 104(29): 12146-50) において、糖鎖の生合成遺伝子群の存在を見いだした事に端を発し、「糖鎖こそが、海洋生命圏に存在する微生物-大型生物間の、様々な共生関係を成立させる重要な役割を果たしているのではないか?」、と言う仮説(微生物が大型生物に共生もしくは感染するには、ホストとなる大型生物の免疫系をかいくぐる必要があり、その免疫系の細胞間、生物間の認識には糖鎖が深く関わっているはず。)を提唱し、深海の微生物 -大型生物間における糖鎖研究をスタートさせました。(中川聡 ,INNOVATION News 2008 Vol.7: 4-5)

~GlyfinTMSの開発~

糖鎖研究では、糖鎖の構造を調べ、その機能を知る事が重要な解析の一つであり、糖鎖構造は質量分析機を用いて調べる事ができます。しかしながら、質量分析機は1 回の分析で数千に及ぶ測定データを出力してくるので、それらをすべて手作業で解析するには膨大な時間と知識や経験が必要となり、当時それらを解析する糖鎖専用のソフトウェアはほぼ存在していませんでした。

我々は、糖鎖の測定条件の条件検討から始めたので、1回の測定ごとに「糖鎖由来のデータが得られているかどうか?」もわからない、数千データをせっせとカーソルキーを1回押しては、表示された測定データを目で見て確認し、測定条件の最適化をおこなっていました。

この作業は、数千データの中にいくつかでも糖鎖由来のデータが発見できればまだしも、何も見つからなかった時の残念感はかなりの精神的ダメージと肉体的ドライアイがともない、データを解析している皆が「どうにかならんの、この解析作業?」と思っていました。 (慣れてくればそうでもないのかもしれませんが、糖鎖解析初心者にはかならハードルの高い解析?)

そんなある時、質量分析機の測定データは単純なXY軸(m/z値と強度値)の数値に置き換えて数字の行列としてテキスト出力できる事を知りました!

研究者N 「この数字の行列データ使ってプログラム的に糖鎖由来のデータを検出できたらええなぁ??」

開発者S 「試しにちょいちょいっとプログラム作って見ますか?!案外サクッといけるかも」

我々には、深海の微生物ゲノム解析での大規模データのハンドリングのノウハウ(プログラミングのスキル)がありましたので、さっそく、膨大なデータの中から糖鎖構造由来の候補データを見つけ出すことができるプログラムの作成に取りかかりました。
が、しかし「ちょいちょい・サクっと」とは行かず(当たり前ですよね…。日々、解析ソフトを作製されているみなさま、すいません。考えが甘々でした)

プログラミングのできる研究者T氏とK 氏を巻き込み、3人がかりで日々の研究業務の傍ら、プログラムの修正を繰り返すこと数カ月…、ようやく使えそうなプログラムができあがりました。

研究者N 「うほー!このプログラム、なかなかイケとる。もう少し使い勝手良くしたら解析支援ソフトとしていけるのでは??」

開発者S 「確かに、手間ひま掛けてせっかく作ったものなので、ぜひソフト化して見たいですね~!こういうプログラムをソフト化するのって大変なんですかね~?」

という、やりとりをしたのはすでに数年前、、 (更に当たり前ですよね…。とあるプログラムをソフトウェア化するのはこんなにも時間と手間が掛かるのですね …日々、解析ソフトを作製されているみなさま、重ね重ねすいません。)

ソフトウェアとしての表示画面や各種便利機能の実装、ソフトのバグ修正、何回開催したか分らない程の打合せ、もろもろのみなさまの御協力を経て、 質量分析機より得られる膨大なデータの中から、いち早く糖鎖構造由来の候補データを見つけ出し、表示するソフトウェア「GlyfinTMS」(グライフィンティエムエス:Glyco peak Finder from Tandem Mass Spectrometry)がようやく完成しました。

本ソフトウェアは、完全な糖鎖構造を予測・推定するものではありませんが、測定データから構造推定までをより簡便に行うことができるものと考えます。

これまで糖鎖研究を行ってきている研究者の方には、便利な解析支援ソフトとして、これから糖鎖解析を始めようとする研究者の方には、研究立ち上げ時の時間と労力の低減を可能とし、本ソフトウェアが、近年非常に注目度の高い糖鎖研究分野の進展の一翼を担うことを期待します。

  • 「GlyfinTMS」に関する紹介HPは、こちらから
  • 「GlyfinTMS」の販売に関して(販売会社のサイトへ)は、こちらから