平成30年度公開シンポジウム「変わりゆく気候と自然災害」

キーノートスピーチ

 今回のシンポジウムでは、「ちょっと変かな?最近の天気-天達が見た温暖化や異常気象-」と題して、フジテレビ「情報プレゼンターとくダネ!の気象予報士」の天達武史さんをキーノートスピーカーにお迎えします。

ちょっと変かな?最近の天気-天達が見た温暖化や異常気象-

天達 武史(あまたつ たけし)
気象予報士
学歴、業務経験、現在の業務
 
1994年3月
 
神奈川県立津久井浜高校卒業
1994年4月
 
御茶ノ水美術専門学校入学
1997年3月
 
同校デザイン科卒業
2002年10月
 
気象予報士試験合格
2004年4月~
日本気象協会所属
天気原稿作成、ラジオ出演(文化放送、ニッポン放送等)など。
2005年10月~
フジテレビ系列
情報プレゼンターとくダネ!の気象キャスター
どんなに風雨が強くても外でやる。
異常気象や災害時などは現場取材をすることも。
2010年~
2012年
全国の旬を求めて旅をする「天達武史の旬学旅行」のコーナーを担当。
2014年7月~
2015年3月
毎週金曜日フジテレビの健康予報番組「カラダハレルーヤ」にレギュラー出演。
気象予報士になる前は9年間ファミレスに勤務。目の前が海だったため、天気で客数が大きく変化。過不足なく食材を発注するために気象予報士を目指しました。


メッセージ

天気の「天」に達人の「達」と書いて天達です。
災害を防ぐ使命を持って、天気の達人を目指してがんばります。

今回のシンポジウムでは小さい子からおじいちゃん、おばあちゃんまで、分かりやすく、興味を持ってもらえるような温暖化とお天気のかかわりのお話をしたいと思います。

 

講演

 近年の気象災害と地球温暖化

川瀬 宏明
(かわせ ひろあき)

気象業務支援センター

 地球温暖化の進行に伴い、2018年の世界平均気温は観測史上第4位となった。特に近年の気温上昇が顕著であり、2014年以降の5年間が上位5位を占めている状況にある。そんな中、平成30年の夏は過去に類を見ない気象災害に見舞われた。6月末から7月上旬にかけて発生した平成30年7月豪雨では、西日本や岐阜県が記録的な大雨に見舞われ、河川の氾濫や土砂崩れなどで甚大な被害が出た。一方、豪雨の後は一転して記録的な猛暑に見舞われた。各地で40度を超える猛烈な暑さとなり、7月23日、埼玉県熊谷市でこれまでの国内の最高気温の記録をぬり替える41.1度を観測した。それでは、今回の豪雨や猛暑に地球温暖化はどの程度寄与していたのだろうか?発生した異常気象に対して、地球温暖化等の要因がどの程度影響を与えていたかを定量的に示す試みは、イベントアトリビューション(異常気象の要因分析)と呼ばれる。昨年の7月の猛暑に対して地球温暖化の影響を評価したところ、現実の世界ではこのような猛暑の発生確率は約20パーセントと見積もられたが、地球温暖化が起こらなかったと仮定した場合は発生確率がほぼ0パーセントとなった。一方、豪雨については、類似の方法で地球温暖化が豪雨の総雨量にどの程度影響したかを調べた。その結果、近年の温暖化により約7%近く降水量を増加させた可能性があることが分かった。

プロフィール

1980年三重県生まれ。筑波大学大学院生命環境科学研究科博士課程修了、博士(理学)。海洋研究開発機構特任研究員、国立環境研究所特別研究員、海洋研究開発機構研究員を経て、2014年より気象研究所研究官、2017年より現職。現在は地域気候モデルを用いて、日本の豪雨や豪雪の将来変化予測に関する研究を行っている。
筑波大学在籍時に気象予報士資格を取得。書籍「異常気象と気候変動についてわかっていることいないこと」を共同執筆編集。

 

明治以降の水害および治水対策の変遷と極端水象の将来予測

立川 康人
(たちかわ やすと)

京都大学大学院工学研究科 教授

 明治政府は、頻繁に発生する洪水災害を防止・軽減するために、明治中期以降、直轄河川を指定し連続堤防を築いて洪水災害を減じる治水事業に着手した。これは、社会・経済を発展させるためには欠かすことのできない国家事業であった。一方で、治水事業の進展と社会・経済の発展に伴い、従来、浸水が発生していた場所にも市街地が形成されるようになり、想定以上の洪水が発生した場合には、被害がより大きくなる状況を生み出した。そのため、河川整備の水準を上げて治水安全度をより高める事業が推進されるとともに、流域治水という概念も実行に移され、現在に至っている。これまでの治水事業によって洪水被害は大きく減少した。しかし、科学技術が進歩して河川技術や観測・予測技術が進展しても、社会・経済の発展に伴って水害に対する被害対象やその脆弱性は常に変化し、水害被害をなくすことは容易ではない。最近は、毎年のように過去の記録を塗り替える豪雨が発生しており、気候変動による災害外力の強大化が懸念される。本講演では、明治以降の水害および治水対策の変遷を振り返り、現在の河川流域が洪水被害からどのように、どの程度まもられているかを示す。その上で、統合プログラムによって得られた豪雨、洪水、高潮の将来変化予測の一端を紹介し、適応策を考える機会としたい。

プロフィール

京都大学大学院工学研究科教授。社会基盤工学専攻および工学部地球工学科で水文学(水循環に関する科学)や治水・利水に関する工学の教育・研究に携わり、特に洪水予測に関する技術開発を専門とする。

 

 明治150年: 日本における気象観測の歴史と気候再解析

石井 正好
(いしい まさよし)
気象業務支援センター

 明治維新からおよそ 20年の時を経て、日本国内の本格的な気象観測が開始された。当初は地表面での観測が主体であったが、気象災害をもたらす顕著な大気現象の前兆を捉えることを狙って、観測データの広域化が図られ、海洋での観測や高層気象の観測が実現していった。本講演では、これらの第二次世界大戦以前の観測に着目する。日本は明治以降の期間で言えば、国際的に見て充実した観測データを所有している。先人達が営々と継続してきた作業に感謝したい。しかし、その利活用は遅れている。データの利用体制を整備し研究利用を進めることができれば、地球温暖化スケールの過去の気候変動の記述が可能となる。これは過去気候についての我々の知見を増加させるだけでなく、より長期の過去気候について気候予測モデルの検証が可能となることで、モデルの性能向上に貢献する。過去の気象観測データは、将来の気候変動に対する備えをするために今後随所で展開される緩和や適応についての施策を検討する場において、将来気候に対する確信度の高い見通しを提供し、高精度な将来予測情報の活用する可能性を有している。

プロフィール

気象庁の海洋観測監視業務およびエルニーニョ監視予測業務に従事、その後、現在まで季節から地球温暖化スケールの気候予測研究に関与、また。海面水温と海洋表層水温観測データにより長期の海洋変動を再現したデータベースを開発。