Report from Chikyu
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第8回 まだまだ挑戦は続く
2010年8月30日

木下 正高(きのした まさたか)

2010年8月20日午後8時、「ちきゅう」は清水港に帰ってきた。いろいろあったが学ぶものも多い航海であった。
「ちきゅう」による国際深海掘削研究の大きなテーマの一つが、巨大地震の準備発生過程を丸分かりすることであった。そのためには、震源域断層物質の採取と現場状態の計測が必須、つまり例えば東南海地震の震源域である、紀伊半島沖の海底下6~7kmまで掘削することが必要だ。今回の航海では、このうち、0.9kmまで終了し、来年度以降の超深度掘削に向けた土台が築かれた。

「日本沈没」で小松左京が書いていたように、南海掘削の地点はいろいろなものが通る。黒潮とそれに乗って北上する魚たちとそれを追う漁師、秋には台風、そしてフィリピン海プレートもここで本州の下に沈み込む。今年は台風がまだ来ないのでラッキーだが、黒潮には相変わらず苦しめられた。代償を払いつつ、「ちきゅう」運航を担うCDEXや日本マントルクエスト社のオペレータ、技術陣の不断の努力により、次につなげるためのノウハウを得ることができた。


掘削地点C0002Fにキャップがはめられた。
超深度ライザー掘削では、再びこの掘削孔に戻ってきて地震発生帯を目指すことになる。

超深度掘削の続きは来年に再開される。今年は、それとは別に2航海が行われる。ひとつは孔内長期計測装置を地震断層の真上に設置して、微小地震や歪の蓄積状態などの監視を開始すること、もうひとつは、地震断層の材料となる物質、堆積物や玄武岩を、「使用前」の状態で採取し、地下の温度を精密に測定すること。どちらも昨年度の掘削を引き継ぐものであり、特に第322次航海では、沈み込む前のプレート(四国海盆)から、海洋地殻玄武岩とその直上に堆積した凝灰岩が連続して採取されている。掘削で得られるコアの「歩留まり」は、深部では50%以下ということも珍しくないので、これは快挙といえる。首席研究者の斎藤実篤さんはこれを「ミラクルコア」と呼んで喜びをかみしめた。南海掘削は今年10月から再開する予定なので、その頃に再び、現場からの「手紙」が届くことだろう。

その間に他の分野での観測や研究も進んでいる。我々JAMSTECでは、DONETと呼ばれる海底ケーブル網を紀伊半島沖に展開し、今年度から海底に設置した地震計などによる観測を開始している(http://www.jamstec.go.jp/jamstec-j/maritec/donet/)。「ちきゅう」掘削孔内のデータも、数年以内にはこのケーブルに接続される予定だ。なお、海底ケーブルと掘削孔データの接続による観測は、米国西海岸オレゴン沖の太平洋プレートでも計画されている。どちらが先に開始されるのか、いずれにせよまだまだ挑戦は続く。(了)

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第7回 煤書き記録からはじまった
2010年8月11日

木下 正高(きのした まさたか)

「ちきゅう」で掘削しようとしている、東南海地震の震源域は、おそらく世界でもっとも詳しく調べられた地震発生帯だ。現在の断層の構造がよくわかっていることもさることながら、驚くべきことは、前回の地震、まさに太平洋戦争の真っただ中、1944年に発生したM8の地震が、各地で記録されていたことだ。

その記録から、1944年地震を起こした場所(震源域)を、最新の計算機プログラムで描き出したのが、東大地震研の菊地正幸教授だ。彼のグループ(特に彼の愛弟子である山中佳子、名古屋大学准教授)は、当時の煤(すす)書き記録をコンピュータに取り込むところから始め、インバージョンという「ハイテク」により、1944年東南海地震は、紀伊半島沖の熊野灘直下の、さしわたし100kmもの領域が一気に破壊していたことを世に示したのだ。しかもその時の断層のずれた量まで推定して、それは地震が起きるまでに断層付近に蓄積されていた、プレート沈み込みに伴う歪量に見事に一致するではないか。プレート運動の歪を解消するために東南海地震が起きている、ということを明瞭に示すものだ。


2009年5月12日、「ちきゅう」は南海掘削ステージ2のため南海トラフに向けて出航

ちなみに、地震の規模を示すマグニチュード(M)の大きさは、この震源域の面積によって決まるようで、東北沖などのM7クラスの地震では差しわたし10-20km程度、M8では100km程度、2004年スマトラ地震のようなM9クラスでは震源域は1000kmにも及ぶ。東南海地震も、単独で起きればM8だが、その東西に隣接する東海地震、南海地震が「連動」すると、M9クラスになると懸念されている。次の地震が連動型か、そうでないか。まず南海掘削では、東南海地震単独の準備状況を調べようということだ。 さて、地震の破壊は同じ場所で繰り返されるので、次回もおそらく同じ場所が震源域となるだろう。そのような場所が事前に判明し、そこに掘削して、まさに次回の地震の準備中であるところの断層岩を採取し、その準備状況を知ることができる、というのは、「ちきゅう」の性能もさることながら、菊地教授の貢献を忘れてはならないと思っている。菊地教授は2003年、研究半ばにして病に倒れた。IODP掘削元年、また南海掘削提案が採択された年だった。

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第6回 巨大地震のことを丸分かりする
2010年8月6日

木下 正高(きのした まさたか)

「ちきゅう」による南海掘削を開始してから3年が経過した。今回は、これまでの成果を振り返る。「巨大地震のことを丸分かりする」ために、その震源断層の物質を採取して断層が破壊する時の「滑り方」や断層岩の「強度」を研究すること、また断層が今は固着しているため、歪を蓄えつつあるけれども、実は微小地震や超低周波地震などが起こっていないか、ということを計測すること、が必要である。どうしても海底下7kmの震源断層に到達せねばならない。

そのための準備を進める傍らで、浅い部分の掘削を何カ所かで行い、断層の海底への出口(いくつかに分岐している)調査などを実施している。掘削は2007年に始まり、これまで12地点で最大1600mまで掘削を行った。


採取したコアをどのように分析するか議論する乗船研究者達。
2007年ステージ1航海では、海底面に近くの巨大分岐断層とプレート境界断層の採取に成功。Nature Geoscienceなどに成果が発表されている。

巨大地震は地下7kmとか20kmとか、深い部分の断層が滑ることで発生するが、その「ずれ」が断層に沿って浅い方に伝搬するにつれ、滑りにくくなる性質を持つ、つまり「地震時の断層滑りは海底まで到達せず、途中で止まってしまうのだろう」と考えられてきた。

これまでの調査(反射法地震探査)で、断層面自体は深いところから海底まで、途中でいくつかに分岐しながら続いていることは分かっているが、それらがどのように活動しているかは分からない。そこで、まずは海底出口付近で断層掘削を行って、活動状況を調べた。

その結果、断層の活動は200万年前にはじまり、それ以降間欠的に活動して地震・津波を発生し続けていると推測された。また海底下300mから採取された断層岩の分析から、地震で断層が滑ったときに発生する摩擦熱が、こんな浅いところでもかなり大きいこと、つまり地震の時の断層滑りがかなり高速で起こったらしいと分かった。

これまでの「常識」(断層浅部は地震時には滑らない)に反するかもしれない、このような発見を前にして、我々が取る態度は決まっている。観測事実を説明するために「常識」を書きかえること。でもそれにはまだ情報が足りない。もっと深く掘らなければならない。

また、地震断層の上に載っている堆積層は、フィリピン海プレートが西南日本弧の下に沈み込むときに発生する圧縮応力の影響を受け、プレート沈み込み方向に圧縮を受けていることが分かってきた。着々と次の地震のための歪が蓄積されているのだろう。しかし、1か所だけ応力場が逆、つまりプレート沈み込み方向に「伸張」が起こっている場所が見つかっている。これだから掘削研究はやめられない。

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第5回 人類の悲願を担って「知りたい!」
2010年7月27日

木村 学(きむら がく)

南海トラフでの掘削もステージ3に入り、いよいよ地震発生帯への掘削が始まりました。

ここでもう一度、なぜいま南海トラフの超深度掘削なのかを記してみたいと思います。この地球上には約4万キロの海溝があります。更には2万キロの大陸と大陸がぶつかるプレートの境界があります。そこは地球表面の物質、岩石、水、生命の残骸が地球内部へ平均年間数センチ程度の速さで落下して行く入り口でもあります。地球深部へ開かれた墓場と言ってもよいかもしれません。この地球表層の墓場とでもいうべきところは、恐ろしいところでもあります。繰り返し超巨大地震と大津波を引き起こし、人類を道連れにします。2004年のスマトラ地震では、地震と津波によって一挙に20万人以上の命が奪われました。なんとか地震や津波が起る前に察知できないかという願いは人類の命と財産を守るための悲願です。


2007年12月に「ちきゅう」が実施した南海掘削ステージ1航海では共同首席研究者も務めた。
クリスマスイブに採取された分岐断層岩のサンプルにニッコリ。(筆者右端)

自然の猛威にたいして、人類は長らくただただ恐れおののくだけでした。しかし、多くの犠牲を払いながらも、それを一歩また一歩と科学と技術の力によって克服してきました。6万キロのぶつかるプレート境界の中で、南海トラフはたかが1000キロにしか満たない長さです。しかし、地球上で最も長い飛鳥時代以来千年以上の巨大地震の記録が残され、観測の体制も世界で最も稠密です。事前に巨大地震発生予測のできる可能性のある世界で唯一の海溝です。
未来を予測するためには、過去に何が起ったか、現在何が進行しているのかを知らなければ不可能です。それが分かったとしても万全だとはいえません。しかし知らないことには何もはじまりません。「知る」ことが全ての源なのです。その知るための新しい道具、超深度掘削が可能な「ちきゅう」が登場しました。それによる地震発生プレート境界断層の直接観察・観測です。

この南海トラフに面する日本の太平洋側には数千万人の人が住んでいます。その人たちの命と財産がかかっています。しかし、それだけではありません。環太平洋地域やインド洋、そして地中海地域にも海溝やぶつかるプレート境界地域には数十億の人々が住んでいます。南海トラフにおけるこの地震発生帯掘削研究プロジェクトは、それらの地域に住む人々の地震や津波による恐怖からの解放につながる未来をも担っています。

この研究プロジェクトの成功のために、人生をかけた数知れない多くの人々の必死の努力が続いています。 皆様の引き続く応援を是非お願いする次第です。

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第4回 科学の発展を支える技術について
2010年7月23日

山尾 正起(やまお まさおき)

JAMSTEC地球深部探査センターの山尾です。今回は、南海掘削の代表研究者である木下さんに代わり、科学を支える探査技術についてお話します。「ちきゅう」は、南海トラフでの作業を開始しましたが、黒潮の真中での掘削作業を支える「ちきゅう」の心臓部とも言えるDPS(Dynamic Positioning System:自動位置保持装置)について紹介します。

「ちきゅう」はご存知の通り、世界最先端の科学掘削船ですが、私がエンジニアとして最初に乗船した移動式海洋掘削装置(推進装置がないので掘削船でなく掘削装置です)「第1白竜号」と比べて隔世の感があります。
「第1白竜号」は1950年代に日本で最初に建造された海洋掘削リグで、私が乗船した30数年前にはすでにかなりのロートルでしたが現役でバリバリ頑張っていました。掘削深度は最大3000mでしたが、実際に3000m近い深度になるとエンジンから黒煙を噴出しながら度々エンストし肝を冷やしたものです。


ドック工事を終え、神奈川県観音崎沖でDPS試験海域に向う「ちきゅう」

「ちきゅう」と「第1白竜号」を比べると、この30年の間に格段の技術的進歩を遂げており、最大掘削深度は約3倍以上に伸びています。しかし、掘削方法自体は、ビットを回転させて地層を掘り進むロータリー掘削方法で掘削技術としては同じです。飛躍的に向上したのは稼働水深で、「第1白竜号」の水深30mに比べ、2500mと100倍近くなっており、「第1白竜号」の上下動する脚を海底に立てるジャッキアップ式に対し、「ちきゅう」に搭載されているDPS方式は原理的には稼働水深の限界はありません。

「ちきゅう」のDPSは、黒潮の真中での高潮流に対しても定点保持をする必要があり、建造以降も位置保持精度を向上させるための独自の技術開発を行なっています。ここで簡単ですが、今回の南海掘削プロジェクトで安定した作業を行なうために実施したDPSの機能向上を紹介したいと思います。

ひとつは音響測位センサの機能向上です。音響測位センサは海中に設置したトランスポンダと音響信号の送受信を行い、送受信に必要な時間から船の位置を計測します。今回、使用する音響信号を、PSK(Phase shift keying)を使用したデジタル信号にすることで様々な機能が向上しました。例えば、周辺の雑音の影響を受けにくくなることで、測位データが乱れる回数を大幅に減らすことができます。

もうひとつは計測した位置データの品質をチェックするロジックの改善です。GPSや音響測位センサは稀に測位データが乱れます。例えばGPSでは、人工衛星からの信号が”やぐら”に遮られ受信できない場合などがあります。測位データの乱れで船の位置が動くことを防ぐために、複数の測位センサを設置し、お互いのデータを比較することで信頼性のチェックをしています。今回、データを比較するロジックを改善することで、以前より安定した位置制御をできるようにしました。

「ちきゅう」は、いま現在も南海トラフで頑張っています。航海をサポートする陸上のJAMSTECオフィスでも気の抜けない日々が続いています。

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第3回 南海トラフとは何者か?
2010年7月20日

木下 正高(きのした まさたか)

「ちきゅう」は、7月19日の「海の日」に南海トラフに向けて出航した。この南海トラフとは何か。「巨大地震のメカニズム解明を行うのが南海トラフ掘削の目的」、ということは前回述べた。ここのところをすこし詳しく話す。

大陸と大洋が出会う場所には2種類ある。地震や火山が頻発するところと、そうでないところ。後者は大西洋両岸で、ここは実は2億年前にパンゲア超大陸がアメリカ大陸とアフリカ・ヨーロッパ大陸に分裂した。今も分裂は続いているが、その現場は大西洋の真ん中の海の下であり、両岸では特別な変動を起こすことはない。ニューヨークには地震はほとんど起こらない。


2007年にJAMSTEC海洋調査船「かいよう」に乗り込み、南海トラフ近傍の海底面でピストンコア採取などを実施した。コアがとれてほくほく。

一方、前者の例は環太平洋、インド洋東側、地中海で、多くはその境目に弧状列島がある。大洋の下にある厚さ100kmの固い岩盤(プレート)は、マントル対流などにより海の下を年間数センチで移動し、大陸にぶつかるとそこから沈み込む。当然その衝突現場には大きな圧縮力が働き、またプレートの上に乗っている堆積物や海山などが沈み込めずに集積する。こうして日本列島などができてきた。圧縮力が、プレート境界を支える岩盤の限度を超えると跳ね返り、その衝撃が地中を伝わって地表に届くと地震動となる。これは必ず起こる。止められない。

南海トラフとは、そのような場所の一つである。

そんなところに住まなければよいではないか。「日本沈没」(原作)では、マントル対流に異変が起きて日本が沈んでしまい、やむを得ず難民となって国外に避難した。今や地震が確実に起こることは「科学の力」で判明したのだから、その予測の精度を上げるのに時間を使うのでなく、地震の少ない場所に移住してはどうなのか。

これに反対する理由はいくらでも挙げられるだろう。そもそも、東海道メガロポリスというくらいだから、そこが居住や産業・交通に極めて便利であるのは歴史が証明している。たとえ強制排除したっていずれ誰か住む。では住み続ける、それも安全で快適に住みたい。子供たちにも安心して住んでほしい、ということだ。

それならもう少し時間と手間をかけて、地震のことを詳しく調べよう。東南海地震など、マグニチュード8を超えるような地震では、その源はプレート境界の「断層」で、その広がりは100kmにも及ぶ。この断層面が100年に一度、数m一気にずれると、巨大地震・津波が起きる。記憶に新しいところでは、スマトラ、バヌアツ、西サモア、ハイチで起きている。東南海地震は、30年以内に60-70%の確率で発生するだろう。もう目の前だ。すべきことは憶測でなく、正確な観測に基づくモデル作りだ。そのために、海底観測は盛んに行われているし、類似の断層岩を破壊して地震のメカニズムを実験室で再現する研究、地球シミュレータを使って地震を起こす研究も進められている。しかし地震断層そのものの状態を観測することは欠かせないだろう。それがあって初めて、地震メカニズムのパズルが完成すると信じている。

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第2回 震源断層掘削、構想。
2010年7月16日 出港3日前

木下 正高(きのした まさたか)

今をさかのぼること13年前の1997年、「ちきゅう」の建造が開始される前のことである。国内外の研究者が日本に集結し、深海科学掘削をめぐる熱い議論が行われた。そのテーマの一つが巨大地震であった。巨大地震や津波による被害軽減のためには、そのメカニズムを正確に知ることが必要であり、そのためには震源断層そのものの性質や状態を知ることが必須である。これは研究者にとっての究極の目標であり、今、現実に、そのような夢が実現される道具(=「ちきゅう」)を我々は得た。

地球深部探査船「ちきゅう」。全長210m(新幹線8両分くらい)、船底からの高さ130m(30階のビル)、総トン数約57,000トンという巨大な研究船。最大の「売り」はライザーパイプで深海底をつなぐ仕組みを持っていることで、大深度掘削では必須のテクノロジーである。この技術を生かして我々研究者は地球惑星科学を次のステージへ進めることを目指している。


2004年6月、横浜で開催されたIODP科学計画委員会。
この国際委員会で南海掘削の掘削提案がランキング評価され、
実施に向けた大きな一歩を踏み出した。

しかしそれでも「惑星地球」は大きい。最先端の科学掘削船であっても、その能力には限界があり、現状ではライザー掘削は水深が2500mまで、掘削するためのドリルパイプの全長も10,000mまでが能力の限界である。そのような条件を満たし、かつ巨大地震の巣である震源断層に到達することのできる場所は、実は世界中を見回しても非常に限られている。

その一つが紀伊半島沖の東南海地震震源域なのだ。その場所は、今後30年以内に地震が起こる確率が60-70%という場所でもあり、御前崎沖の東海地震、四国沖の南海地震と合わせて、国内外の研究機関が競って調査を行っている場所でもある。地震国家日本に生まれた科学者として、相手にとって不足はない。

地震学、地質学、測地学、地球化学など、世界の英知を結集するための努力は、まずIODPへ研究提案書を提出することから始まった。研究提案書は純粋に科学的な視点で評価、ランキングされる。「ちきゅう」というツールにより地震メカニズム解明をすべしという大きな目標を据えつつ、具体的な途中途中のゴール(マイルストーン)や作業仮説をち密に作り上げなくてはならなかった。提案者の力量が問われる場面である。そのため何度も会合を繰り返しながら提案を改良し、ようやく2004年に「認定」を勝ち取った。地震発生帯への直接掘削という提案を始めてから、約7年の歳月をかけてプロジェクトの意義を国際的に科学者たちと重ねてきたこととなる。それだけに、いざ「実施フェーズ」となると、その責任感はずっしりと重い。

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第1回 はじめに
2010年7月1日掲載 出港18日前

木下 正高(きのした まさたか)

みなさん、こんにちは。IODP「南海トラフ地震発生帯掘削計画」プロジェクト代表研究者の木下正高です。私は、地球物理学を専門として、海底から放出される微小な熱流量を計測し、その変動を捉えることで地下の断層活動や火山熱水活動を解明する研究を国内外で行ってきました。この「南海掘削」プロジェクトでは、米国ウィスコンシン大学のHarold Tobin博士とともに代表研究者として、国際的に編成される研究チームのまとめ役をしています。

日本とアメリカが主導し、現在、世界24カ国が参加する国際研究プロジェクト「統合国際深海掘削計画(IODP)」の大きな目標として2007年に開始した本プロジェクトも、いよいよ今年から第3ステージとなる地震発生帯に向けた超深度掘削に着手します。


2007年9月21日、南海掘削の幕開けとなる第314次航海へ出航する各国の研究チーム
(中央が筆者)
いよいよ始まるという、あの時の興奮と責任感は今でも忘れられない

今回から10回程度に渡って、プロジェクトの野心的な目標、研究を開始するまでの道のり、そして未来に向かってどんな科学に挑戦しているか、研究にかける私たちの想いを皆様にお伝えしていこうと思います。

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