プロジェクトの成果
人工熱水噴出孔を利用した有用鉱物資源の持続的回収の研究に着手

採取した人工熱水噴出孔チムニー


閃亜鉛鉱=Sphalerite ((Zn,Fe)S)
黄銅鉱=Chalcopyrite (CuFeS2)
方鉛鉱=Galena (PbS)
ウルツ鉱=Wurtzite ((Zn,Fe)S)
等が含まれることが判明した。
JAMSTEC海底資源研究プロジェクトは、海洋・極限環境生物圏領域およびシステム地球ラボプレカンブリアンエコシステムラボと共同し、2010年9月に行われた地球深部探査船「ちきゅう」によるIODP第331次研究航海(沖縄熱水海底下生命圏掘削シーズン1)で創出した伊平屋北熱水活動域における複数の人工熱水噴出孔について、熱水噴出パターンの変動、熱水化学組成の調査・観測を1年以上にわたり継続し、それらについて明らかにするとともに、海底熱水を持続可能な資源として活用する基盤技術の研究開発を図るため、人工熱水噴出孔に新たに形成されたチムニーの形成様式、組成分析を行いました。

その結果、黒鉱層を形成する海底下の熱水溜まりから直接噴出させた人工熱水噴出孔においては、著しく黒鉱鉱物成分に富んだチムニーが容易に形成され、短期間で大規模に成長することを発見しました。この結果は、これまでの海底熱水域における有用鉱物資源回収法とは全く異なり、持続的な回収法の可能性を示唆するものです。
本成果は、機構から特許申請しており、今後、海底熱水域における有用鉱物資源を利活用するための基盤構築に大きく寄与することが期待されます。

キッズ向け解説ページ 2012年3月23日に報道発表
航海の予備報告書が出版されました
Proceedings of the Integrated Ocean Drilling Program
Expedition 331 Deep Hot Biosphere

The Digital Object Identifier (DOI) for the report is
doi:10.2204/iodp.proc.331.2011

>>研究発表の一覧はこちらでご覧いただけます
本航海で取得したデータとサンプルの1年間の公開猶予期間(乗船研究者の優先期間)が完了し、一般に公開されました。
下記のデータベースから入手できます。
また、サンプルはIODPを通じて、研究や教育目的にリクエストできます。

>>ちきゅうラボ・データセンター サンプルリクエスト IODP Sample Material Curation System(SMCS)
航海の一次報告書が出版されました
Integrated Ocean Drilling Program Expedition 331 Preliminary Report
Deep Hot Biosphere

1 September-4 October 2010

The Digital Object Identifier (DOI) for the report is
doi:10.2204/iodp.pr.331.2010 一次報告書
深海底下に広がるアーキアワールドを発見~世界各地の海底堆積物から大量のアーキア(古細菌)を検出~

▲画像をクリックすると拡大します。


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地球深部探査船「ちきゅう」は、2010年9月1日より、IODP第331次研究航海「沖縄熱水海底下生命圏掘削-1」を実施していましたが、10月4日をもって航海を完了しました。
本研究航海では、熱水活動域の海底下における微生物群集の規模および生態系の実態を世界に先駆けて解明することを目的として、沖縄トラフ伊平屋北熱水域の5地点(INH-1DおよびC、INH-4D、INH-5D、INH-6B、INH-11A)において掘削を実施しました。
全地点においてコア(円柱状地質試料)を採取するとともに、うち2地点(INH-4D、INH-5D)の掘削孔で、化学・微生物学的モニタリング研究のためのケーシングパイプ(孔壁の保護パイプ)を設置しました。

(1)海底下に広がる熱水帯構造と熱水変質帯の発見
高温熱水噴出の活動の中心から約100m東に離れた地点(INH-4D)、およびさらに東に350m程度離れた地点(INH-5D)の2地点において、掘削深度に対し予想を超える温度上昇がみられ、熱水変質硫酸塩鉱物(熱水と熱水に接触する地層との作用により生成する硫酸イオンを含む鉱物)を含む火山性堆積物を回収しました。また、海底下を水平方向に流れる複数の熱水を発見し、伊平屋北熱水域の東側海底下に幾重にもおよぶキャップロック構造(地層が伏せた椀の形状をしており、水を通さない不浸透性の岩石で覆われている地質構造。地層内部に水が捕捉貯留されやすい)が発達した高温熱水の移流と滞留、海底下熱水と浸透海水との混合過程における熱水変質帯(熱水の影響を受けて変質した地層が分布している範囲)の存在を発見しました。

(2)海底下の熱水の滞留を発見
コア間隙水(コアに含まれている水)の化学組成解析の結果、海底下に存在する熱水滞留帯の上部には蒸気相に富んだ軽い熱水が、下部には塩分に富んだ重い熱水が滞留していることが分かりました。これまで理論計算上の仮説として、塩分濃度の高い熱水が分離して熱水滞留帯の下部に滞留すると考えられてはいましたが、本研究航海で、その状態を掘削によって世界で初めて発見しました。また熱水滞留帯の規模は非常に広大かつ深いもので、これまで沖縄トラフのような島弧などのプレート収束域の熱水の循環スケールや流量は小さいと考えられてきましたが、その概念を大きく覆す発見となりました。

(3)熱水性硫化鉱物の分布・組成、熱水鉱床の成因解明に繋がる発見
採取されたコアには、熱水の作用によって生成された金属硫化物からなる多様な硫化鉱物が観察され、その分布・組成を明らかにする発見がありました。これまでも、海底の高温熱水を噴出する熱水マウンドやその基部(INH-1DおよびC)に黄鉄鉱、閃亜鉛鉱、方鉛鉱、銅藍、黄銅鉱を含む大量の硫化鉱物が存在することは知られていましたが、特に、熱水変質帯が認められた2地点(INH-4D、INH-5D)において分厚い熱水変質帯の下部に脈状の硫化鉱物生成層が認められ、熱水鉱床(熱水が冷却または減圧することによって、熱水の成分が化学的に沈殿したもののうち、金属などの 有用成分が充分に含まれているもの)の成因解明に繋がる科学的価値のある発見がありました。

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2010年10月5日に報道発表