地球発見 まだまだ知らない「ちきゅう」がある。

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自然を前にした再々チャレンジ

 八戸沖合にある海底下の森とそれを利用する地下微生物。しかし調査は幾度も自然によって阻まれてきた。2006年の慣熟訓練では強烈な爆弾低気圧が接近してきたため、「ちきゅう」は海底下511メートルまで掘った孔をキャップでふさぎ、現場を退避せざるをえなかった。もちろん、「ちきゅう」は掘削地点の位置まで再びやってきて正確に定位し、同じ坑を再掘削できる能力がある。事実、2011年、稲垣上席研究員たちは前回掘った坑を再び掘削し、海底から深さ2,000mにある石炭層まで掘削調査を行うはずであった。八戸港にやってきて準備を始め、出港予定は3月15日。その矢先の3月11日、「ちきゅう」は東北地方太平洋沖地震に遭遇してしまったのである。余震が続く中、掘削調査を行うことはできず、延期せざるをえなかった。つまり、今年2012年の調査は6年越しの再々チャレンジということになる。
 海底下深くの地層にすむ微生物の中にはメタン生成菌もいる。彼らは二酸化炭素で呼吸し、メタンを吐き出す。即ち、石炭層などの栄養源さえあれば、二酸化炭素を使って燃料を生み出す可能性がそこにあるのだ。しかし、いかに良いアイデアであっても、それは地下深部の様子を具体的に把握できなければ何も始まらない。
 「二酸化炭素を実際に注入するわけではありません。我々がやっているのはシステム地球生命科学なのですから、まずは海底下の状態をそのまま保った試料を採取し、現場環境の科学的な実態を調べる必要があります。」稲垣上席研究員はそう語る。今回、これまで石油掘削の現場で使われていた技術を、科学研究に応用する形で地下水の採集が行われる予定だ。これは海洋科学掘削では初めての試みである。この研究航海のため、マッドガス分析ラボが「ちきゅう」船上に新たに作られた。圧力の高い油ガス域や海底下深部の地層を掘るには、人工的に合成した泥水をドリルビットと船との間で循環させるライザー掘削方式が必要だ。このラボは、船上に戻ってくる泥水に含まれている天然ガスを連続的にモニタリングし、化学組成やメタンの炭素同位体など、地球化学的なデータを高感度に分析するためのものだ。科学的検証に耐えうるデータを取る専門の施設で、このレベルの分析設備を持っている掘削船は世界に「ちきゅう」しかない。

マッドガス分析ラボ外観   ラボ内部の様子

マッドガス分析ラボ外観
泥水循環装置付近から写真コンテナの右側まで管を通し、
コンテナ内の分析装置でガス成分の測定が行われる。

 

ラボ内部の様子

 「実は、メタンハイドレートなどの天然ガスを含む堆積物と、それらの元になる石炭層を共に掘り抜く科学的な掘削調査は、世界でも今回が初めてです。そこに、どのような炭素循環システムがあって、どんな生命活動があるのか、とても興味深い試みです。それを知る事は、地球そのものの生態系や物質循環を知る事につながります。この掘削調査から、将来、環境やエネルギー問題を解決する糸口になるような、地球と人間社会が共存できる持続的なシステムが見えてくるような気がします。」稲垣上席研究員は期待と展望を熱く語ってくれた。

共同首席研究者の2人(稲垣博士とHinriches博士)


稲垣共同首席研究者と久保研究支援統括