ちきゅうレポート
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地震の巣はどう動いているのか?2010年11月1日

こんにちは。
これから、何回かこの「ちきゅう」航海で我々がどんなことをやろうとしているのか、それをどのようにやっているのか、船上の様子なども含めお伝えしていきたいと思います。

今回の332次航海、テーマは、観測所。海底に掘った井戸の中で観測をするセンサーを埋め込むことが航海の大きな目的です。
いったい何の観測をするのか?井戸は、日本、米国、欧州の研究者が共同で利用し、観測センサーも、それぞれが持ち寄るので、それぞれの専門から観測する項目は違いますが、私が観測をしようとしているのは、地震や地殻変動です。

今度「ちきゅう」で井戸を掘るところは、東南海地震という100年から150年に一度の周期で大きな地震を起こしている地震の巣(=断層)の上になります。東南海地震は、前の地震が太平洋戦争中の1944年に起こっていて、それから、60年以上が経っており断層は次の大地震の準備をしていると考えられます。

いったい断層がどのように次の地震の準備をしているでしょうか。地震を起こす源は、日本列島の下に沈み込んでいるフィリピン海プレートの運動の力であるということは明らかだと思いますが、同じように沈み込んでいても、大きな地震を起こすところと起こさないところがあり、それはなぜか?また、断層とその周りの地震を起こさないところが、お互いにどう動いているのかなど、謎がたくさんあります。

これらの謎を解きたいと思いますが、実際の観測データが少ないため、よくわからないというのが現状です。陸上にはたくさんの観測所があり、気象庁などから出されている地殻変動の情報は、それらの観測所からの情報をもとにしているのですが、こと海底で起こる地震に関しては、断層の近くでの観測がほとんどないというのが現実です。東南海地震に関して言えば、もっとも近い陸上の観測点は震源から50-60km程度も離れています。

そこで、我々のグループは、地震の巣の動きをとにかく細かく調べるべし!ということで、東南海地震を起こした断層の一番海底に近い場所を選んで、そこにとても感度の高い地震と地殻変動観測ができるセンサーを埋め込んで観測をしようと考えています。

この航海では、海底に1km程度の孔を掘り、その孔の底にセンサーを束にして埋め込みます。センサーは断層から6km程度離れたところに埋め込まれることになりますが、陸上観測点と比べて10分の1以下の距離ですので、まさにかゆいところに手が届く感じで、断層のわずかな動きも逃さずとらえられるだろう、と大いに期待しているところです。

さて、27日に天候の悪化もあり、機材の搭載もそこそこに急いで出港した我々。航海の最初の行動は台風の接近のため、鳥島の南まで移動して台風から逃げることでした。研究船としては破格に大きな、この「ちきゅう」ですが、待避中は風も強く、波も高いため、それなりに揺れました。そして、私は、恥ずかしくも、ちょっと船酔いして気持ちが悪かった。実は、私は船酔いに強くなくて、研究船に乗ってだいたい数日は気持ちが悪いのですが、いつもずっと我慢してます。
でも、まさかこの大きな「ちきゅう」で気持ち悪くなるとは思ってませんでした。今は、波も収まって大丈夫です。

いつも船酔いするたびに、「どうしてこんな船に乗るような仕事をやっているんだろう」と後悔するのですが、いつも船から降りるとまた乗りたくなります。なぜかは自分でもよくわかりませんが、この広い海で、難しいセンサーの設置作業に知恵を絞りチャレンジし、それが達成されたときの気持ちに、どうにも言い表せない高揚感があるからかもしれません。

荒木 英一郎

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