ちきゅうレポート
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第一章「着水」2010年12月7日

航海42日目となる12月5日19時50分、長期孔内観測システムLTBMS(未だ仮称)ついに着水・・・・「掘削サイトC0002まで流れに耐えてがんばってたどり着くんだぞ!」と、一人旅にでかける息子(勝手に男の子にしました)を見送るおとっつぁんたちはムーンプールの手すりから水面を見下ろしながらしみじみと思うのでした。しかし、正直言ってこの準備の9日間、きつかったです。長かったです。まあちょっと大げさに言わせていただくと生みの苦しみというやつですかね。ドラマですねぇ。

ここまでの道のりなんだかんだいろいろとあったので、「おぉ~っ!」とか、「えぇ~っ!?」といったお話をいろいろとご紹介したいところですが、わたくし、けっこう控えめに目立たないところでコツコツがんばっているやつ・・・・そういうの好きなんです。そこで今回ご紹介したいのは、「メタボくん」。いえいえ、そこのあなたのことではありませんよ。これ、某有名メーカーのステンレスバンド締め付けツールのこと。その名もThe “METABO”。以前にもご説明しましたが、1000mもの長さ、直径3-1/2インチ(約9cm)のチュービングにケーブルやら配管やらをはわせていかないといけません。そして、わずか8-1/2インチ(約21cm)内径の孔の中を降りていくときに、これらを傷つけてしまったらおしまいなので、当然、ゆるみなくしっかりと取り付けなければいけません。これ、とても単純なことですが、とても大切なのです。そのための作戦をいろいろと用意してあるのですが、そのひとつが「メタボくん」なわけです。「メタボくん」を使うと大量のステンレスバンドがあっという間にガッチリ付いてしまう、「あいつはすごいやつなんだぜ・・・・ヒソヒソ」という巷のうわさにのって鳴り物入りで「メタボくん」は清水港から乗船してきたわけです。

まず、一見からしてステキです。真っ黒のポータブルツールケースをカパッと開けると中にはカラシニコフ銃のような出で立ちの「メタボくん」が登場するわけです。男の子ならば誰しもが手にとってかまえてみたくなるはずです。
そこで、いよいよ本番前夜、軽くウォームアップするべく、A.C.指導員のもと作動チェックしてみたのですが・・・・あれっ?なんかおかしいぞ。うまく締め付けることができません。周りにはあっという間に失敗したステンレスバンドの山。それでもなんとかごまかし、ごまかし、今できる精一杯のセッティングで本番に挑んだのでした。

しかし、淡い期待に反して、「メタボくん」やはりダメ。駅伝でいえば完全にブレーキです。おまけに、今回の作戦では彼に大いなる期待をしてステンレスバンド多めで計画したため逆にそれが裏目に出たのでした。船上では、急遽、首脳陣会議が開かれ、なんとかステンレスバンド半減作戦へと組み立て直し、スピードアップを図ったのですが、それでもまだまだ追いつかない・・・・と引き続き悩んでいたところ、ふとオフィスの大画面スクリーンに映し出されているムーンプールの作業映像をみて、一同驚愕!「メタボくん」今までにない猛スピードでチャージしているのでした。
今まで「クゥゥゥ~ン、カタカタ、ゴン、ゴン、ちぇっ、うまくいかねぇやぁ、もう一回」という感じだったのが、「グゥイ~ン、カチッ、バツッ!はい、つぎ!」というとても美しくなめらかなフォームの繰り返し。今、やってるのは誰ですか?JOYCEN-kunとJASON-kun?いやぁ、しびれますねぇ。実は私たち今ひとつ「メタボくん」の使い方を熟知していなかったのです。それが優秀な「ちきゅう」ドリリングクルーチームによってその術が完璧にマスターされ、当初の10倍くらいのスピードで作業が進んでいったのでした(ホッ&多謝)。

(グゥイ~ン、カチッ、バツッ!はい、つぎ!)

・・・・などとちゃらけた話を書いていると陸の首脳陣に怒られそうですが、きついときほど笑いたいという心情ご察しください。今、LTBMS(未だ仮称)はちゃくちゃくと流れの強き方角へ向かっています。海中の無人探査機ROVはすでに流れが厳しくなり、LTBMS(未だ仮称)からロープをとって引っ張られています。さあ、長~い第一章は幕を閉じ、第二章「流れの中へ」の始まりです。


Nori KYO

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