平成23年度成果概要


1. 生物ポンプにおけるエアロゾルの役割の把握

平成22年に西部北太平洋の観測定点K2とS1に設置した沈降粒子捕集装置(セジメントトラップ)を回収し、約8ヶ月間12日間隔で捕集された沈降粒子中の(エアロゾルが主な起源と考えられる)陸起源物質の濃度を化学分析しました。その結果と平成21年度に得られた結果から、両観測定点とも陸起源物資の割合は水深4810mの沈降粒子中で20%程度であり大きな違いは見られませんでした。

K2 4810mS1 4810m
2010年2月〜2011年7月間にK2, S1の水深4810mで捕集された沈降粒子の化学成分。黒が陸起源物質(赤:炭酸カルシウム、黄:有機物、青:生物起源オパール)

2. エアロゾル供給量の時空間変動の把握

大気から海洋への物質供給の時空間変動に関する知見を得るため、みらいMR11-03, 05航海において、自然起源/産業起源エアロゾルの収集/化学分析、および複数仰角差分吸光分光計(MAX-DOAS)による大気中NO2等の光学的測定を実施しました。エアロゾル粒子は、2.5ミクロンを境として粗大・微小粒子を区別して捕集し、期待どおり海塩粒子起源のNa+, Cl-が粗大側で主に検出されることを確認しました。人為・自然起源別の寄与推定に必要な、各種水溶性イオンやV, Fe等微量金属の粗大・微小別の濃度分析結果を得た。また、エアロゾル形状・蛍光測定装置(WIBS4)では、土壌ダスト粒子を、散乱強度の非対称から非球形性粒子として選別観測できることを確かめました。

3. エアロゾル供給量の変動予測

3.1 衛星データ解析によるエアロゾル分布の時空間分布の把握

観測定点K2とS1付近のエアロゾルの時空間分布を把握するため、NASAよりMODISの9kmメッシュ、Daily dataを入手し、2002年から2011年までのエアロゾルの季節変動を調べました。さらに両観測定点付近の植物プランクトン分布と物理環境との関係を調べるため、衛星マルチセンサー(海色、水温、日射、海面高度等)の画像解析も開始しました。2002年から2011年までのエアロゾルの光学的厚さ(AOT)データを平均した季節変動ではS1よりK2の方がAOTの季節変動がはっきりしているように見えます(図1:春と秋の増加でクロロフィル変動と似たパターン)。S1の観測開始以降の変動を見るために、2010年と2011年とを比較したプロットでは、2011年よりも2010年の方が両地点で高い傾向にあります(図2:特にS1の2,3月、K2の春と秋)。気象庁の黄砂拡散シミュレーション予測の日付との比較では、AOTの増加と必ずしも一致していないようでした。

図1 2002年から2011年までのAOTの季節変動(10年間の平均値) 値は11x11(99x99km)boxの平均値
図1 2002年から2011年までのAOTの季節変動(10年間の平均値)
    値は11x11(99x99km)boxの平均値
図2 2010年1月1日から2011年12月31日までのAOTの変動 値は11x11(99x99km)boxの平均値 図2 2010年1月1日から2011年12月31日までのAOTの変動 値は11x11(99x99km)boxの平均値
図2 2010年1月1日から2011年12月31日までのAOTの変動
    値は11x11(99x99km)boxの平均値

3.2 エアロゾル輸送モデルの構築

現行の大気汚染物質輸送モデルWRF/Chemをベースに黄砂等の自然起源エアロゾル、アジア都市部からの人為起源エアロゾルの時空間変動を再現する輸送モデルを構築しました。以前のバージョンとの改善点としては、NCEP Global Upper Air and Surface にアーカイブされた地表および高層気象観測、衛星観測、ウインドプロファイラによる気象場観測データをモデル内にナッジングを用いて取り込むことによりモデル内気象場の再現性を向上したこと、およびNCARで開発された植生起源炭化水素・エアロゾルエミッションモデル MEGAN (Model of Emissions of Gases and Aerosols from Nature) を化学輸送モデルとオンライン結合し、モデル内で各タイムステップに計算される気温、比湿、日射量に応じて天然起源の大気化学成分の放出量推定を行えるよう変更したこと、および同じくオンラインのダストフラックスモデルを導入したことである。また森林火災によって引き起こされる大気擾乱によって高層にまで森林火災エアロゾル等が輸送される、pyroconvectionについても考慮しました。焼失面積等については人工衛星MODISによる観測を、また各化学成分の放出量についてはMODISおよびIGBPによる土地利用分布に基づく、全球1km解像度、一日ごとのNCARによるFINNデータベースを使用した。人為起源エミッションとしてはREASバージョン2を使用しました。またエアロゾルによる放射場および雲生成に対する直接効果、間接効果についても考慮しました。

黄砂の卓越する春季における粗大粒子の大気中密度を隠岐および辺戸岬における観測と比較したところ、定性的によく一致していました。また、2010年4月におけるK2およびS1におけるElemental Carbn, Organic Carbonおよび土壌性エアロゾルの沈着フラックスを調べたところ、K2における各エアロゾルの沈着フラックスの変動はほぼ同じような振る舞いをしていたのに対し、S1では土壌性エアロゾルと炭素エアロゾルの極大は異なる日に見られていました。これはK2に陸起源エアロゾルが輸送されるような風系は北日本を低気圧が通過するケースが主であるが、S1には風系によって異なるソース域からの輸送が見られるためであると考えられました。

辺戸岬におけるPM10重量密度 (黒:観測、青:モデル)
辺戸岬におけるPM10重量密度 (黒:観測、青:モデル)
隠岐におけるPM10質量濃度
隠岐におけるPM10質量濃度
S1における各種エアロゾル沈着速度の時間変動
S1における各種エアロゾル沈着速度の時間変動
K2における各種エアロゾル沈着速度の時間変動
K2における各種エアロゾル沈着速度の時間変動