研究計画・方法
以下の項目について観測研究、研究開発を行います。
1. 生物ポンプにおけるエアロゾルの役割の把握
海洋観測船や自動観測装置による海洋観測を実施。生物ポンプとエアロゾルに関する観測、データ/試料収集を行います。
2. エアロゾル供給量の時空間変動の把握
海洋観測船上で自然起源/産業起源エアロゾルの収集/化学分析、および複数仰角差分吸光分光計(MAX-DOAS)による光学的測定を実施します。
3. エアロゾル輸送量/供給量の変動予測
海洋/陸上観測データ、衛星観測データを再現できる数値モデルを構築します。
平成23年度
1. 生物ポンプにおけるエアロゾルの役割の把握
1.1 船舶観測
平成23 年4 月、7 月、海洋研究開発機構の海洋観測船「みらい」で西部北太平洋亜寒帯循環域観測定点K2(北緯47 度/東経160 度)および亜熱帯循環域観測定点S1(北緯30 度/東経145 度)を調査し同時期における基礎生産力、栄養塩、沈降粒子/懸濁粒子量とその化学組成(生物起源物質と陸起源物質)等々、生物ポンプとエアロゾルに関わる様々な因子の測定、データ/試料収集を行います。
1.2 係留系観測
観測定点K2, S1 の水深200m, 500m, 5000m に時系列式セジメントトラップを搭載した係留系を回収/再設置します。回収された沈降粒子の生物起源粒子、陸起源粒子を化学分析します。さらに過去に亜寒帯循環域で得られたセジメントトラップ試料中の陸起源物質の再解析に着手します。
また観測定点S1 に設置された基礎生産プロファイラーを回収、再設置します。回収されたデータから同地点の植物プランクトン現存量、基礎生産力、後方散乱、光消散度の時系列変化を解析します。

2. エアロゾル供給量の時空間変動の把握
2.1 船舶観測
観測船「みらい」にハイボリュームエアサンプラーを搭載し、船舶の排煙の影響を受けないように配慮しながら、エアロゾル粒子を24 時間ごとに捕集し、硫酸、硝酸塩、黒色炭素等の成分濃度や、鉄や微量金属等の変動の特徴を捉えます。特に鉄について詳細な解析を行います。微小・粗大粒子別に捕集を行い、人為起源粒子とダスト粒子の区別の目安とします。アルミニウムの分析結果を土壌起源のトレーサーとし、同時に行う一酸化炭素測定やMAX-DOAS によるNO2 測定を人為起源トレーサーとして鉄濃度の時間変動を解析することにより、人為起源粒子とダスト粒子の寄与率を推定するとともに、上記の微小・粗大粒子別の捕集が区別の目安として適切かどうか検討します。

2.2 実験室試験
従来の光散乱方式でのエアロゾル粒子サイズ別カウンタでは、ともに粗大粒子であるダスト粒子を海塩粒子と区別することが難しく、そのことがダスト沈着量のオンライン計測を阻んできました。我々が保有するエアロゾル形状・蛍光測定装置(WIBS4)では散乱光の前方散乱強度の空間パターンから、非球形粒子を単一粒子レベルで見分けることができます。一般的な海洋大気の高湿度条件では海塩エアロゾルは潮解しており球形であると仮定すると、粗大粒子の球形性を本装置で測定することにより、ダスト粒子を選別しながらオンライン計測できる可能性があります。このことを検討するため、初年度には実験室にてダスト粒子・海塩粒子を模擬的に発生させ、選別観測できるかどうか様々な湿度条件にて試験を行います。
3. エアロゾル供給量の変動予測
3.1 衛星データ解析によるエアロゾル分布の時空間分布の把握
SeaWiFS やMODIS、TOMS の衛星データを解析し、黄砂等の自然起源エアロゾル、アジア都市部からの産業起源エアロゾルの西部北太平洋への輸送量の時空間変動を把握する。あわせて衛星マルチセンサーデータ(海色、水温、海上風、光合成有効放射)の解析を行い西部北太平洋の植物プランクトンの現存量、基礎生産力、物理環境の時空間変動を把握します。
3.2 エアロゾル輸送モデルの構築
現行の大気汚染物質輸送モデルをベースに黄砂等の自然起源エアロゾル、アジア都市部からの人為起源エアロゾルの時空間変動を再現する輸送モデルを構築する。MODIS 等の衛星データを用い、近年の中国内陸部における乾燥域・半乾燥域の土地利用分布を推定するとともに Shaw et al. (Atmos. Environ., 42, 2008) を基に土壌水分、土壌タイプ、地表風速などに応じたダスト巻き上げフラックスの推定を組み込む。本モデルを用い、人為起源、自然起源エアロゾルの西部太平洋への輸送量および沈着量の時空間変動を推定する。また6,000m 級の山脈に囲まれ周辺の地形が複雑なタクラマカン砂漠ではダスト巻き上げフラックス強度に対する水平解像度の影響が大きいため、その周辺のみ水平解像度を上げたモデルを組み込み、ネスティング(入れ子)計算を行うことも検討する。
平成24年度
1. 生物ポンプにおけるエアロゾルの役割の把握
6 月に「みらい」航海を実施。観測定点K2, S1 において、平成23 年度に引き続き、生物ポンプにおけるエアロゾルの役割に関する観測、データ/試料収集を行う。加えてセジメントトラップ係留系、基礎生産力プロファイラーを回収/再設置し得られた時系列データの分析、解析を実施する。
2. エアロゾル供給量の時空間変動の把握
船上で自然起源/人為起源エアロゾル•ガスの収集/化学分析、MAX-DOAS 観測を実施。前年度に実験室で検討したダスト粒子選別法による船舶観測試験を行う。過去に九州西部の福江島や中国大陸内部でのエアロゾル観測で得た微量金属等の測定結果と合わせてエアロゾル起源・輸送過程について解析を行います。
3. エアロゾル供給量の変動予測
平成23 年度に引き続き衛星データ解析、モデル構築を行う。
平成25年度(最終年度)
再度7月に「みらい」で海洋観測、大気観測を実施する。3年間の観測結果について、日々~季節変動や年々変動に関する知見をとりまとめる。これらについて、MODIS 等による衛星からのエアロゾル測定結果の変動や、エアロゾル輸送モデルシミュレーションでの変動との整合性を検討する。海洋生物生産や沈降粒子にかかわる各種の現場時系列観測パラメータとの関係を詳細に解析し、人為起源粒子とダスト粒子がそれぞれ海洋生物生産や沈降粒子に与える影響、今後の変化について考察します。