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平成15年度海洋科学技術センター委託 |
8.海洋石油開発活動に対するクジラ類の反応8−1.海洋掘削に対する反応(1)鰭脚類(Pinnipeds)の反応掘削とそれに関連する活動に対する鰭脚類の反応は十分に研究されているわけではない。ワモンアザラシ(Ringed seals)は、夏、秋の北極圏海域での掘削船による掘削活動の近くでしばしば見られた(Ward and Pessah 1986, Brueggeman et al. 1991: A-8, Gallagher et al. 1992a, Brewer et al. 1993, Hall et al. 1994)。春季、ワモンアザラシとアゴヒゲアザラシ(Bearded seals)は、低周波(<350Hz)掘削音を経常的に出している水中音源の約50m以内に近寄ってきて潜ったりした例がある(Richardson et al. 1990a, 1991a)。この距離において受信される音圧は、水深数mより深いところでは130dB re 1μPaである。これらの知見から、アザラシ類にとっては掘削による水中音は許容できるものであることを示している。しかし、アザラシの個体数や行動が、掘削活動のない状態と比較してどの程度異なるのかはまだ不確定である。春季におけるワモンアザラシの密度は、掘削活動を実施していた人工島の周辺3.7km以内では減少していたという。(Frost and Lowry 1988)。 砕氷船を伴った掘削船に対するセイウチ(Walruses)の反応では、掘削そのものによる水中音よりもむしろ、砕氷によって発生する水中音の方が明らかに大きな影響がある。砕氷船を伴った掘削船に対するセイウチ(Walruses)の反応では、掘削そのものによる水中音よりもむしろ、砕氷によって発生する水中音の方が明らかに大きな影響がある。 (2)ハクジラ類(Toothed Whales)の反応<シロイルカ>シロイルカ(Beluga)は、掘削現場の周辺海域でしばしば見られ、掘削音に対する反応についての補足的なデータも水中録画で得られている。シロイルカは、掘削活動中の人工島の周辺100−150m以内で頻繁に見られる(Fraker 1977a, b, Fraker and Fraker 1979)。しかし、春期に、氷間の水路を泳ぐシロイルカは、定置状態の掘削船の1km以内に近づいた時はルートを変えたり、掘削船近くでサプライボート(support vessel)が動きまわっている時にはさらに積極的な回避行動をとる(Norton Fraker and Fraker 1982)。この知見から言えることは、春季に氷間水路にいる場合に、シロイルカは反応が強く出ることを示唆している。しかしながら、このことは、春季の北アラスカの氷間水路において、恒常的な低周波(<350Hz)掘削音が出ている時の水中録画で証明されているわけではない(Richardson et al. 1990a, 1991a)。 回遊中のシロイルカは、水中音がハイドロフォンによって5km離れたところで検知されているにもかかわらず、音源から200−400mの範囲内に近づくまではでは明らかな反応を見せない。その200-400m以内の海域においても、数頭のシロイルカは数分戸惑う様子をみせるものの、稼動中の音源の50-200mまでは近づいてくる。シロイルカの聴覚能力は1kHz以下であるため、おそらく彼らが200−400m以内に来るまで低周波の掘削音を聞くことができないのであろう。 セミサブ(半潜水)式掘削リグ−SEDCO 708−からの水中音に関する水中録画に見られるシロイルカの反応は、野外や捕獲しての実験で調べられてきた アラスカ川での実験によれば(Stewart at al. 1983)、1.5km以内のシロイルカは、水中録画実験をする前よりも通常同じ方向に早く泳いでいったほか、呼吸率(潜水と浮上−呼吸のサイクル)もしばしば増えた。二回の実験の間、水中音源に向かって泳ぐシロイルカは、音源から50-75m、および300-500mの範囲内に来るまで明らかな反応を示すことはなかった。その場合の反応とは、早く泳ぐことと、一例だけだが方向転換があった。しかしながら、ほとんどのシロイルカは、受信しているはずの音圧が高い海域でも、音源近くを通過していった。掘削水中音に対する反応は、モーターボートの水中騒音への反応よりも厳しいものではなかった(cf. Stewart at al. 1982)。 捕獲した複数のシロイルカを用いての実験では、最低の低周波の場合を除いて、SEDCO708の実音および擬似音による録画実験では、若干の回避行動を見せた(Thomas et al. 1990a)。この回避行動はただの30秒以内で終わった。シロイルカ達は、受信音圧が少なくとも153dB re μPaの条件下でも、音源から1mの範囲内もしばしば泳いだ。グループとしての構造変化もなかった。浮上−呼吸−潜水のサイクルは強い影響を受けることはなかったが泉水時間は短くなる傾向が見られた。プラズマ・カテコールアミン(神経伝達物質)のレベルは、録画実験を終了した後でも通常値の8-40minであったので、ストレスを受けていないことを示していた。Thomas et al.(1990a)では、シロイルカは、高いサウンドレベルに曝されても、短期間の行動もしくは生理学的な影響を見出すことはなかったと結論付けた。しかしながら、石油生産プラットフォーム周辺における野生のシロイルカに関して、この結果を援用することには注意を要すると推奨している。 <バンドウイルカ(Bottlenose dolphin)およびその他のハクジラ類>メキシコ湾の石油石油pラットフォーム周辺に分布しているバンドウイルカに関してはMullin et al.(1989)によってまとめられている。これによると、ある深度層においては離反行動(多分、人工的なものに対する)が、また、より深い深度層ではプラットフォームへ惹きつけられていることが明らかになったという。後者の反応は、プラットフォーム近くにおける餌生物の密集と関係があるのであろう。プラットフォームとイルカの典型的な距離関係に関するデータはない。 他のハクジラ類もまた、明らかに掘削リグに対する相当程度の寛容さを見せる。Kapel(1979)は、グリーンランド西部沖における掘削船とそのサプライボート群から視認できる範囲内において、多くのヒレナガゴンドウ(long-fined pilot whale)を見たと報告している。Sorensen et al.(1984)は、ニュージャージー沖において、掘削リグの18km以内に何種類かの種−多くはマイルカ(common dolphin)、ハナゴンドウ(Risso’s dolphin)、バンドウイルカ、そしてStenella属−を見たと記している。しかし、距離についてのデータはそれ以上述べられていない。 (3)ヒゲクジラ類の反応kapel(1979)がグリーンランド西部沖での掘削船の周囲の視認距離内で多数のヒゲクジラ類を報告している。それらは主に、ナガスクジラ(fin whale)、ミンククジラ(minke whale)、ザトウクジラ(humpback whale)である。さらに詳細なデータが、ホッキョククジラ(Bowhead whale)、コククジラ(gray whale)、そして限定的だがザトウクジラに関する組織的な水中録画およびモニタリング調査から得られてきている。 <ホッキョククジラ>夏季、外洋の開放水域で操業中の掘削船の周辺10〜20km以内において、通常の行動をとっているホッキョククジラがしばしば観察されている。ホッキョククジラが掘削作業中にたった8kmおよび4km離れたところにいたいう事例も報告されている(Richardson et al. 1985a,c, 1990b)。また、石油掘削関係者が、掘削船の0.2から5km以内のところで10回見たことがあるといい、距離は不明だがさらに他の視認事例がある(Ward and Passah 1988)。 掘削船Canmar Explorer IIにホッキョククジラが4kmと10kmまで接近してきたときの音圧は、それぞれ、118および109dB re 1μPaであった。 作業中の掘削船の周辺海域にホッキョククジラが良く見られるものの、水中録画では掘削音に対して少数のホッキョククジラが若干の逃避行動を示していた。掘削船Explorer IIによる水中音(〜50Hzより低い音を除く)反応を録画したものによると、何頭かのホッキョククジラは94−118dB re 1μPa近くのレベルの音を受けたときに反応した。この音圧は、実際の掘削船から数km離れた所に見られるホッキョククジラの許容レベルよりも高くはない音である(Richardson et al. 1985a,c, 1990b)。Wartzok et al.(1989)の録画結果もこれと同様である。唯一、Kulluk(訳注:人工島式掘削装置)による掘削音で、120dB以上のときに強い回避行動のケースが見られた。 ホッキョククジラの実際の浚渫と掘削に対する水中録画に現れた異なる反応については、2つの説明がつきそうである。つまり、慣れと感覚の可変性である。ホッキョククジラは、水中音(数分間以上)への反応の録画期間中、これに反応するだろうが、本当の掘削船もしくは浚渫活動の近くでその音圧が長期間継続された場合には、これに慣れるであろう。 もちろん、水中録画に現れる反応は固体や時期によって異なるものであろう。 結局のところ、ホッキョククジラは、音圧〜115dB re 1μPa、もしくは許容レベルより〜20dBでないかぎりは明確な反応は示さないことを示している。また、反応を示す範囲半径は、彼らの聴覚能力の範囲半径よりも明らかに狭い。 秋には、ホッキョククジラは作業中の掘削船やサプライボートの活動の西側を回遊、通過していたことが、アラスカのビューホート海で1986年と1991〜1993年に観察されている。1986年と1993年には、ほとんどのホッキョククジラは掘削船の10km以内の範囲を避け、北側(沖合)および南側(沿岸)の両方を通過した(LGL and Greeneridge 1987;Hall et al. 1994)。いずれも掘削海域から20km離れていても回避反応を示していた。一つの影響を与える要素としては、秋季における掘削音の多様性が考えられる。部分的には、砕氷船やその支援船の多様な活動の結果である。 1991-92年には同海域で航空調査が行われ、秋季回遊のホッキョククジラは作業中の掘削船の20km沖合い側のルートにとどまっていることが分かったが、これが掘削海域を回避してのことか、またはこの2年間の氷結状況が厳しかったためであるのかは定かではない(Gallagher et al. 1992a;Brewer at al. 1993)。 春季には、アラスカ北部の氷間水路を回遊中のホッキョククジラが掘削プラットフォームの水中音記録録画に映し出されている(Richardson et al. 1991a)。50Hz以上の水中音がこの水路にむけて発振されており、ハイドロフォンで(そして多分ホッキョククジラも)4-10kmの距離で検知されている。何頭かのクジラは音源の1-2kmもしくは多分2-4kmのところで微妙に行動を変化させているが、多くのホッキョククジラは数100mのところまで近づいている。 以上のように、春、夏、秋のホッキョククジラは掘削音が許容範囲を超えるものであってもこれにしばしば寛容であった。 <コククジラ>カリフォルニア湾に沿って回遊するコククジラについて、4基の掘削もしくは生産施設からの水中音の反応に関する水中録画に現れている間、その反応について調査がなされている(Malme et al. 1983, 1984)。回遊中のコククジラは、統計的に有意な程、様々な水中音に反応する。一般的な音への反応としては、遊泳速度の減少、そしてわずかではあるが音源から沖合い側あるいは沿岸側へ避けるようにすることである。しかし、これらの施設の発する水中音は、次ページの表に示すように、“Level at 100m”の欄にあるように多様である。したがって、比較的静かな生産プラットフォームの場合の反応が見られる範囲が4-20mの近さであるのに対して、掘削船の場合は1.1kmの距離でも反応が見られる。こうした反応半径がカリフォルニア沖では、ベーリング海やボーフォート海で想定されているより小さいのは、後者の海域では距離の増大に伴う水中音の減衰が前者と比較してそれほど急速ではないことによる(Miles et al. 1987)。 Malme et al.(1986b、1988)は、北部ベーリング海でコククジラを対象に、類似の水中録画実験を行っている。彼らは、回遊中のコククジラおよび夏季を過ごすホッキョククジラに用いたのと同じ、録音した掘削音を用いた。音圧レベルが103-11dB re 1μPaでは明確な反応の証拠は見られなかったが、108-119B re 1μPaでは回避行動と見られる反応があった。また、浮上―呼吸−潜水サイクルについては、掘削音にさらされている間は明らかに変化が見られた。Malme et al.は、コククジラ回遊に関する詳細な調査が必要であると結論付けている。 メキシコの越冬ラグーンにおいても、掘削船による水中音が発振されている(Dahlheim 1987)。やや長め(6−8時間)の水中録画を続けた結果、コククジラは遠くに離れる傾向にあり、歌う率も減少した。これらの結果は、ラグーンにおいてよく聞く船外機のノイズにおける反応とは対照的である。掘削船の音に曝されている時、コククジラは鳴く声の特性を変化させる傾向がある。そして、鳴き声が高くなる。この点に関しては、船外機によるノイズの影響と同じである。これは、マスキングを減らすために適応したのであろう(Dahlheim 1987)。ラグーンにおけるコククジラの数は、掘削船とその水中録画の1ヶ月後には極端に少ない(Jones et al. 1994)。次の冬、コククジラは例年通りの個体数が帰ってくる。
<ザトウクジラ>Malmeetal.(1985)で若干の調査が行われている。掘削船による音(2回)、セミサブ式掘削基地、そして生産プラットフォームについてのものである。これによると、116dB re 1μPaまでの音圧においては、はっきりとした回避行動は見られない。 <要約>要約すると、クジラ類はどうやら固定式の浚渫、掘削そして生産施設による産業活動からの水中音が強い場合はこれを避けるようである。回避行動と並んで、他の行動の変化(例えば浮上−呼吸−潜水のサイクル)が時として見られる。クジラ類は音圧が増加したとき、もしくは水中音が発振し始めた時に最も敏感になるようである。 データは限られているが、こうした固定式の音源からの反応は、移動しながら生じる音、特に船による水中音によるそれよりは、その反応の度合いが劇的ではない。何種類かのクジラ類は、継続的な水中音に対しては慣れるものといえる。 8−2.海洋石油・ガス生産への反応カリフォルニア沖には多数の石油生産プラットフォームが長年にわたって据え付けられており、コククジラがこの海域を経常的に回遊している(Brownell 1971)が、近づいている距離やディスターバンスの有無についてのデータはほとんどない。石油開発活動に従事している人たちからの報告によると、プラットフォームの近くで、鰭脚類やクジラ類が低騒音の期間中はより一層近くにきたという(Gales 1982;McCarty 1982)。 アラスカのクック入江における生産プラットフォームの作業員の報告では、シロイルカが掘削装置の9m以内まで近づいたといい、掘削音の継続は、シロイルカにとってはディスターバンスにならない(Gales 1982, McCarty 1982)。そして、フレア・ブームはシロイルカを惹きつけるが、これは、炎にサケが集まるからであろう。ゴンドウイルカ(Pilot Whales)、シャチ(Killer Whales)、ミンククジラ、そして種類が分からないイルカ類もまたクック入江のプラットフォーム近くで報告されている。オーストラリアのバス海峡(Bass Strait)においても、プラットフォーム近くでクジラ類が目撃されている(R. Nash, BHP Petroleum, 私信1991)。 (この部分の内容は、「Marine Mammals and Noise」、9.7 Reactions of Offshore Drilling and Productionの主要部分の抜粋、抄訳による。) ![]() ![]() |
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