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プレスリリース

2021年 4月 12日
国立研究開発法人海洋研究開発機構
国立研究開発法人産業技術総合研究所

海底広域研究船「かいめい」を用いた
国際深海科学掘削計画(IODP)第386次研究航海の実施について
~日本海溝で起きた過去の地震の痕跡を探る~

国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)(理事長 松永 是)は、国際深海科学掘削計画(IODP: International Ocean Discovery Program ※1)の一環として、欧州海洋研究掘削コンソーシアム(ECORD:European Consortium for Ocean Research Drilling ※2)が主導するIODP第386次研究航海「日本海溝地震履歴研究(Japan Trench Paleoseismology)」に、海底広域研究船「かいめい」(別紙 図1)を提供し、ECORDと共同で研究航海を実施します。「かいめい」がIODPの国際的な枠組みのもとで運用されるのはこれが初めてです。

当該航海では最大長40mの大口径(110mmφ)長尺ピストンコアラー(別紙 図2)を使って日本海溝の海底堆積物を連続的に採取し(別紙 図3)、過去に起きた地震の痕跡を調べます。これにより、日本海溝の巨大地震の特徴や発生のプロセスなどを知り、今後起こりうる地震の最大規模や発生頻度の推定につながることが期待されます。

「日本海溝地震履歴研究」には日本を含む12か国から35名の科学者が参加しており、国立研究開発法人産業技術総合研究所の池原 研 招聘研究員(特命上席研究員)とInnsbruck大学(オーストリア)のMichael Strasser教授の2名が共同首席研究者としてこの国際研究チームを率います。4月の「かいめい」による研究航海には、池原氏をはじめ4名の日本の科学者が乗船します。その後、採取された柱状の地質試料(コア)は、JAMSTECの地球深部探査船「ちきゅう」の研究区画(別紙 図45)に運び込まれ、2021年秋頃、国際研究チーム全員が「ちきゅう」に集合して詳細なコアの分析を行う予定となっています。

・期間 :
2021年4月13日~2021年6月1日
なお、気象条件や調査の進捗状況によって予定変更の場合があります。
・海域 :
日本海溝(別紙 図3参照)
・概要 :
別紙参照
※1
国際深海科学掘削計画(IODP: International Ocean Discovery Program)
2013年10月から開始された多国間科学研究協力プログラム。日本(地球深部探査船「ちきゅう」)、米国(ジョイデス・レゾリューション号)、ヨーロッパ(特定任務掘削船を都度手配)がそれぞれ提供する掘削船を用いて深海底を掘削することにより、地球環境変動、地球内部構造、海底下生命圏等の解明を目的とした研究を行っている。
※2
欧州海洋研究掘削コンソーシアム(ECORD:European Consortium for Ocean Research Drilling)
ヨーロッパの14か国にカナダを加えた全15か国が連合し、IODPへの参加を管理するために組織されたコンソーシアム。IODPにおいて、海域に合わせて最適な船を調達し掘削を行う「特定任務掘削船」の提供と運用、ヨーロッパ・カナダ各国から研究航海に参加する研究者の取りまとめなどを担っている。

別紙

日本海溝地震履歴研究(Japan Trench Paleoseismology)
概要

1. 科学的背景・目的

環太平洋火山帯は、太平洋を囲むおよそ40,000kmの長さのプレート境界運動によってできた火山帯で、日本列島もその一部をなします。地球上の地震の大部分はこの火山帯に沿って起きるとされており、2004年のスマトラ島沖地震や2011年の東北地方太平洋沖地震など、甚大な被害をもたらす巨大地震・津波も発生しています。このような巨大地震は将来も発生する可能性がありますが、それがどのような頻度・規模で起こりうるのかを知り、周辺の各地域における巨大地震・津波のリスクを適切に評価するためには、過去に起きた地震の記録を詳細に調べる必要があります。しかし、巨大地震の発生間隔は数百年以上と長いため、人類による観測の記録だけでは数が少なく、その発生パターンや最大規模を調べるには不十分です。

海底で大きな地震が起こると、海底堆積物が動いて乱され、その痕跡が残ります。地震の痕跡は、時間と共に後から積もっていく堆積物に埋もれ、やがて海底下の地層として記録されます。IODP第386次研究航海「日本海溝地震履歴研究」では、水深が深くアクセスが難しいことからこれまで十分な調査がされてこなかった日本海溝周辺で、最大8kmの水深から地質試料を採取し、過去の地震記録を調べることを目的としています。日本海溝をはじめとした海溝の底は、地球上で最も深く、最も探索されていない環境の1つですが、地震によって引き起こされた堆積物の移動の痕跡をよく残しており、過去の数万年間にわたって主要な地震を継続的に記録している、いわば深海の地震アーカイブになっていると考えられています。過去の地震の痕跡をアーカイブした地質試料を掘り出し、日本の歴史文献などに残る地震や最近の東北地方太平洋沖地震の記録などと比較照合することで、歴史に記録がない地震の痕跡についても大まかな時代や規模などを推測することができ、長期にわたる地震の記録を読み解くことができると期待されます。

2. 研究航海の実施概要

本研究航海は、国際的な研究プログラムであるIODPの枠組みのもと、欧州のECORDと日本のJAMSTECが共同で実施する初めての航海となります。プロジェクトはECORDが主導しますが、航海にはJAMSTECの海底広域研究船「かいめい」(図1)が用いられます。「かいめい」の備える大口径長尺ピストンコアラー(図2)(※3)により、日本海溝に沿って複数の地点で海底堆積物の採取を行うことで(図3)、これまでの調査で得られていない5万年前から10万年前までの連続的な地層を取得し、日本海溝で過去に起きた地震の時間的・空間的分布を調べる計画です。数万年というこれまでにない長期間の地震の履歴を手に入れることにより、日本海溝における地震の発生パターン(例えば、周期的・群発的・単発的いずれの特徴が顕著かなど)を特定することができれば、より信頼性の高いハザード評価が可能になると期待されます。また、メガスラスト(※4)と呼ばれるプレート境界の巨大な断層の破壊が伝播し巨大地震を発生させる条件の理解も進むと考えられます。

3.研究航海の実施体制

IODP第386次研究航海には、オーストリア、オーストラリア、中国、フィンランド、フランス、ドイツ、インド、日本、韓国、スウェーデン、英国、米国から35名のさまざまな専門分野を持つ科学者が参加しており、産業技術総合研究所の池原 研 招聘研究員(特命上席研究員)と、Innsbruck大学(オーストリア)のMichael Strasser教授の2名が、共同首席研究者としてこの国際研究チームを率います。4月の「かいめい」による研究航海では、池原氏をはじめ4名の日本の科学者が乗船します。その後、採取されたコアは、JAMSTECの地球深部探査船「ちきゅう」の研究区画(図4図5)に運び込まれ、2021年秋頃、国際研究チーム全員が「ちきゅう」に集合して詳細なコアの分析を行う予定となっています。

「かいめい」の研究航海に乗船する研究者(共同首席研究者以外は氏名アルファベット順)
氏名所属
池原 研産業技術総合研究所
Kanhsi Hsiung海洋研究開発機構
實野 佳奈早稲田大学
金松 敏也海洋研究開発機構

4. 関連ウェブサイト、SNS等

本研究航海の実施中、ECORDによる特設サイト“IODP Expedition 386 Blog”において、研究航海の概要や参加研究者の紹介を行うとともに、研究航海の進捗について随時更新される予定です。

また、JAMSTEC研究プラットフォーム運用開発部門の運用するTwitterアカウントでも、研究航海の進捗に関する情報などを随時発信する予定です。

IODP Expedition 386 Blog(英語):
https://expedition386.wordpress.com
Twitterアカウント「JAMSTEC船舶・探査機」:
https://twitter.com/Fleet_JAMSTEC
その他、研究航海の詳細情報については、以下のサイトをご参照ください。
ECORDによる研究航海の公式サイト(英語):
https://www.ecord.org/expedition386/

※3
大口径長尺ピストンコアラー
ピストンコアラーとは、海底の堆積物に金属の筒(バレル)を貫入させコアを採取するためのサンプリング機器のこと。堆積物を乱さず、元の地層の状態を保ったままのコアを採取できるのが特徴。「かいめい」のピストンコアラーは口径が大きく通常よりも太いコアが採取できるため、地層ごとに得られる試料の量が多く、さまざまな分析を行えるという利点がある。バレル長は最大で40m。
※4
メガスラスト
沈み込み帯など、プレート同士が押し合う力の働いている境界(収束型境界)にある巨大な断層で、しばしば巨大地震を発生させると言われる。東北地方太平洋沖地震も日本海溝のメガスラストが震源となっている。
図1

図 1 海底広域研究船「かいめい」

図2

図 2 「かいめい」に備えられた大口径長尺ピストンコアラー

図3

図 3 IODP第386次研究航海のコア採取予定地点

図4

図 4 地球深部探査船「ちきゅう」

図5

図 5 「ちきゅう」の研究区画でのコア試料分析の様子(過去の研究航海にて)

(IODP及び本航海について)
国立研究開発法人海洋研究開発機構
研究プラットフォーム運用開発部門 企画調整部 総括グループ
(報道担当)
国立研究開発法人海洋研究開発機構
海洋科学技術戦略部 広報課
国立研究開発法人産業技術総合研究所 広報部 報道室
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