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2021年 10月 28日
国立研究開発法人海洋研究開発機構
国立大学法人東京大学地震研究所
国立大学法人神戸大学

西太平洋赤道直下のマントルに沈み込んだプレートの残骸を発見

1. 発表のポイント

海底地震観測によって、西太平洋赤道域の下深さ500-600㎞に地震波速度が速い広大な領域が存在していることを世界で初めて発見した。
その高速度域は約5千万年前から2千5百万年前の間に沈み込んだ太平洋プレートの残骸であることを示した。
マントル最深部からの上昇流が太平洋プレートの残骸にぶつかり、カロリン火山列に沿ったシート状に形状を変えて上昇していることを発見した。こうした構造の火山列が確認されたことはなかった。

2. 概要

国立研究開発法人海洋研究開発機構(理事長 松永 是、以下「JAMSTEC」という。)海域地震火山部門 火山地球内部研究センターの大林政行主任研究員らは、東京大学地震研究所、神戸大学と共同で西太平洋赤道域に位置するオントンジャワ海台及びその周辺下のマントル地震波速度構造を明らかにし、地震波速度が速い広大な領域がオントンジャワ海台下の深さ500-600㎞に存在することを世界で初めて発見しました。

オントンジャワ海台南西のソロモン諸島沿いのプレート境界では、現在はオーストラリアプレートが太平洋プレートの下に沈み込んでいますが、約5千万年前から2千5百万年前の間には太平洋プレートが沈み込んでいました。今回発見したプレートは、沈み込んだ太平洋プレートの残骸と考えられます。また、オントンジャワ海台の北側には東西に並ぶカロリン火山列がありその火山列の下には横たわった太平洋プレートの残骸の端から高温度を示す地震波低速度異常がシート状に広がっていることがわかりました。これは下部マントルからの上昇流が深さ600㎞で横たわった太平洋プレートの残骸にぶつかり、シート状に形状を変えたものと考えられます。こうした構造の火山列が確認されたのは、世界で初めてのことです。

この成果は沈み込むプレートとマントル上昇流の相互作用が火山活動など地表のテクトニクスに与える影響を示したものです。

本成果は、「Scientific Reports」に10月28日付け(日本時間)で掲載される予定です。なお、本研究の一部はJSPS科研費(15H03720JP、18H04373JP)によって実施されました。

タイトル:
Interrelation of the stagnant slab, Ontong Java Plateau, and intraplate volcanism as inferred from seismic tomography
(DOI:10.1038/s41598-021-99833-5
著者:
大林政行1、 吉光淳子1、 末次大輔1、 塩原肇2、 杉岡裕子3、 伊藤亜妃1、 一瀬建日2、 石原靖1、 田中聡1、 利根川貴志1
所属:
  1. 国立研究開発法人海洋研究開発機構
  2. 国立大学法人東京大学地震研究所
  3. 国立大学法人神戸大学 海洋底探査センター・大学院理学研究科

3. 背景

西太平洋赤道域では、南にニューギニア・ソロモン諸島に沿ったプレートの沈み込み、北にカロリン火山列、その間の赤道付近に世界最大の海台であるオントンジャワ海台があり多様かつ活発な地学現象が起きています。しかし、この地域のマントル構造が不明であったため、それらの相互関係は不明でした。そこで、海洋研究開発機構、東京大学地震研究所、神戸大学は、最新鋭の機動型広帯域海底地震計 23 台と 2 点の島上地震観測からなるオントンジャワ海底地球物理観測網(OJP array)を構築し(図 1)、2014 年終わりから 2017 年始めにかけて、オントンジャワ海台直上およびその周辺海域において広帯域地震観測を世界で初めて実施し、オントンジャワ海台とその周辺におけるマントルの地震波構造の解明を試みました。その結果、これまでにOJP arrayの地震表面波を用いて地表から深さ約 300km までのS波速度構造を求めた研究ではオントンジャワ海台のプレートが周辺に比べて厚いことを示し、オントンジャワ海台がどのようにできたかを明らかにしています(2021年5月24日東京大学から発表)。本研究では西太平洋赤道域の多様な地学現象の相互関係を解明するために、さらに深く約700kmまでのP波速度構造を求めました。

4. 成果

本研究では、JAMSTECの海洋地球研究船「みらい」と学術研究船「白鳳丸」を用いて、オントンジャワ海台とその周辺に機動型広帯域海底地震計の設置、回収を行いました。それらの地震波形データを使用しP波到着時刻を用いたトモグラフィーをおこない、マントルの地表からマントルの深さ約700km までの 3 次元 P 波構造を決定しました。その結果、オントンジャワ海台とその周辺の下深さ約500-600㎞に広大な高速度異常が存在することが初めてわかりました(図 2(e)、(f)の地震波高速度域)。

オントンジャワ海台南西のソロモン諸島沿いのプレート境界では、現在はオーストラリアプレートが太平洋プレートの下に沈み込んでいますが、約5千万年前から2千5百万年前の間には太平洋プレートが沈み込んでいました。この太平洋プレートが南へ沈み込む境界は、約5千万年前から2千5百万年前の間に北方に後退し、現在のオントンジャワ海台がある場所を南西から北東へ移動しています(図3)。プレート境界が後退したことによって、沈み込んだ太平洋プレートはマントル内に横たわったのだと考えられます。その後、オントンジャワ海台がプレート境界と衝突したことが原因で太平洋プレートが地表付近で断裂し、すでに沈み込んでいた太平洋プレートは地表にあるプレートから切り離されました。

以上のことから、今回確認された深さ約500-600 kmに広がる広大な高速度異常は、マントル内部に取り残されたかつて沈み込んだ太平洋プレートの残骸だと考察されます。なお、断裂後はプレート境界での沈み込み方向は逆転し、現在ではオーストラリアプレートが太平洋プレートの下に沈み込んでいます。

また、オントンジャワ海台の北にカロリン火山列がありプレートの進行方向に向かって噴火年代が古くなっていることなどからこれまでホットスポット火山列と考えられてきました。一方で、普通のホットスポット火山列と比べて、個々の火山の噴火期間が長いこと、噴火期間が隣り合う火山で重なることから単純なホットスポット火山ではないという指摘もあり、その正体は不明でした。本研究でカロリン火山列に沿って高温度を意味する地震波低速度異常が地表から深さ約450 kmまでカーテンのようなシート状に広がっていることを発見しました(図 2(a)〜(d)の地震波低速度域))。マントル最深部からカロリン火山列に向かうマントル上昇流が横たわった太平洋プレートの残骸の底にぶつかって水平に広がり、シート状に変形して上昇していると考えられます。図4はこれら本研究で明らかになった構造の概略を示したものです。こうした構造の火山列の存在が確認されたのは、世界で初めてです。

5. 今後の展望

本研究により、沈み込んでマントル深部で横たわっているプレートによってマントル上昇流が影響を受け、火山活動にも影響しうることが示されました。日本付近で沈み込んだ太平洋プレートも深さ約500-600kmで横たわっており、地表のテクトニクスに影響を与えるようなマントルの流れの相互作用の可能性が考えられます。今後、世界中の沈み込み帯での構造を解明することでその可能性を追求していく予定です。

図1

図1 本研究で使用した地震観測点とオントンジャワ海台、カロリン火山列の位置。太線は図2の範囲を示す。

図2

図2 深さ(a)130 km、(b)170 km、(c)200 km、(b)260 km、(b)450 km、(b)500 km、(b)600 kmのP波速度異常。各深さの平均的なP波速度からのズレを色で示す。暖色が低速度異常、寒色が高速度異常を表す。温度異常があると、高温異常は低速度異常、低温異常は高速度異常として現れる。地表で冷えて沈み込んだプレートは高速度異常、マントルの上昇流は低速度異常として観測される。深さ500 kmと600 kmで見られる広大な高速度異常域(点線で囲った地域)は本研究で初めて明らかになった。また450 kmより浅い深さで見られるカロリン火山列に沿った低速度異常域(点線で囲った地域)も本研究で明らかとなった。

図3

図3 深さ600 kmのP波速度異常に(a)4千8百万年前、(b)3千5百万年前、(c) 2千5百万年前、(d)現在の沈み込み境界を重ねたもの。境界線の三角形は沈み込みの方向を表す。緑線は当時のオントンジャワ海台の位置を示す。4千8百万年前には点線で囲った高速度異常域の南に沈み込みの境界があり、北側の太平洋プレートが南側のオーストラリアプレートの下に沈み込んでいた。その境界は北東方向に移動し2千5百万年前には高速度異常域の北東の端近くまで達する。この沈み込み境界の移動に伴って広大な水平に広がるプレートが形成されたと考えられる。

図4

図4 本研究で明らかになった構造を表す概念図。オントンジャワ海台を北東方向から見た地表から深さ約600 kmまでの構造を立体的に表す。太平洋プレートの中にあってプレートが厚くなっているオントンジャワ海台にぶつかったオーストラリアプレートは太平洋プレートの下に沈み込んいる。その下深さ500-600kmにはかつて沈み込んでいた太平洋プレートの残骸が横たわっている。その残骸の北端ではカロリン火山列に沿ってシート状に広がったマントル上昇流がある。

(本研究について)
国立研究開発法人海洋研究開発機構
海域地震火山部門 火山・地球内部研究センター
主任研究員 大林政行
(各機関報道担当)
国立研究開発法人海洋研究開発機構 海洋科学技術戦略部 報道室
国立大学法人東京大学地震研究所 広報アウトリーチ室
国立大学法人神戸大学 総務部広報課
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