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プレスリリース

2022年 3月 31日
国立研究開発法人海洋研究開発機構
福岡大学

熱帯西部太平洋で大気中のヨウ素濃度が極めて高い海域“ヨウ素の泉”を発見
―気候変動予測評価に向けた新たな知見―

1. 発表のポイント

海洋地球研究船「みらい」による広域観測の結果、熱帯西部太平洋で大気中のヨウ素(一酸化ヨウ素)濃度が極めて高い海域を発見した。
この海域において、大気中の一酸化ヨウ素濃度と温室効果ガスである大気中のオゾン濃度が負の相関関係にあることが明らかとなった。
大気中のヨウ素は、海洋から放出されていると考えられており、これまでの研究では、大気中のオゾン濃度が高いほど、海から大気に供給されるヨウ素は多いとされてきたが、今後はそのプロセスを再考察する必要がある。
ヨウ素の供給とオゾン消失効果が気候変動に与える影響は、これまで考えられていたよりも大きいことが推測された。これらの物質の影響はIPCC第6次評価報告書では考慮されておらず、第7次評価報告書に向けてその影響評価の向上に取り組む予定。

2. 概要

国立研究開発法人海洋研究開発機構(理事長 松永 是、以下「JAMSTEC」という。)地球表層システム研究センターの高島久洋招聘主任研究員及び金谷有剛センター長らは、海洋地球研究船「みらい」を用いて地球規模で広域観測を実施した結果、熱帯西部太平洋の海面水温が30℃にも達する高い海域 (暖水プール域) で大気中のヨウ素(一酸化ヨウ素)濃度が高いことを発見しました。

大気中のヨウ素は、海中に含まれるものが大気に放出されていると考えられています。また、温室効果ガスである対流圏オゾン (※1) を破壊することが知られており、気候変動を予測する上で考慮すべき物質の1つですが、大気中濃度は微量で観測が容易ではないことから調査は限定的であり、その動態や影響などの詳細は明らかになっていません。

そこで本研究グループでは、大気中の微量成分を観測可能なMAX-DOAS (※2図1) 船舶搭載観測装置を開発し、2014年から2018年に海洋地球研究船 「みらい」を用いて、海洋上の一酸化ヨウ素濃度を南半球から北極海にかけて広域に調査観測を実施しました。

その結果、海面水温が高いほどに大気中の一酸化ヨウ素濃度は高い結果が得られました。特に、海面水温が30℃にも達する世界で最も海水温の高い熱帯西部太平洋の暖水プール域では、高濃度の一酸化ヨウ素が検出されました(図2)。また、暖水プール域で大気中の一酸化ヨウ素とオゾン濃度の関係を調べたところ、両者に負の相関関係が確認されました(図3)。これまでの研究では、海から大気へのヨウ素の供給は、大気中のオゾンの海面での反応によるとされ、オゾン濃度が高い程供給量が多いと考えられてきましたが、暖水プール域では大気中の一酸化ヨウ素濃度がむしろ高くなっており、海から大気への供給過程と大気中の光化学反応過程について、これまでの知見を再考察する必要があります。

今後は、ヨウ素循環の全体を明らかにするための総合観測・研究を進めるとともに、IPCC第7次評価報告書へ向けて気候変動に対する影響評価にも取り組む予定です。

本成果は、「Atmospheric Chemistry and Physics」に3月31日付け(日本時間)で掲載される予定です。また同紙のハイライト論文に選出されました。なお、本研究は科学研究費補助金基盤研究(A) 21H04933課題等の一環で実施されたものです。

タイトル:
Full latitudinal marine atmospheric measurements of iodine monoxide
著者:
高島久洋1,2、金谷有剛1、加藤咲2、Martina M. Friedrich3、Michel Van Roozendael3、竹谷文一1、宮川拓真1、駒崎雄一1、Carlos A. Cuevas4、Alfonso Saiz-Lopez4、関谷高志1
所属:
1. 海洋研究開発機構、2. 福岡大学、3. Belgian Institute for Space Aeronomy (BIRA-IASB)、4. Institute of Physical Chemistry Rocasolano (CSIC)
DOI:
https://doi.org/10.5194/acp-22-4005-2022

3. 背景

ヨウ素などのハロゲン物質は成層圏ではオゾン層を破壊する物質として知られていますが、対流圏においてもオゾンを破壊する物質として働くことが近年知られるようになってきました。対流圏におけるオゾンは温室効果ガスとなるため、地球温暖化研究において、大気中での発生・消失メカニズムを詳しく知る必要があります。これまでの研究ではヨウ素はオゾンの消失を2割も増強する可能性が指摘されています。

また、ヨウ素はエアロゾル粒子の生成に関与するため、直接的にも地球の気候問題の観点から重要な物質と考えられています。

しかしながら、大気中のヨウ素およびヨウ素化合物の濃度は1 pptv (1兆分の1) 以下程度と極めて低いため観測が難しく、さらに地球の7割を占める海洋上の観測は限られており、その動態や影響などの詳細は明らかになっていません。このため、IPCC 第6次評価報告書の気候モデルシミュレーションにおいて、ヨウ素に関するプロセスなどは考慮されてきませんでした。

4. 成果

JAMSTECでは大気中の微量成分を低濃度でも観測可能なMAX-DOAS法 (※2) に着目し、これまで船舶搭載観測装置の開発及び観測を実施してきました。本研究では船舶用のMAX-DOAS装置を海洋地球研究船 「みらい」に搭載し (図1)、ヨウ素化合物である一酸化ヨウ素 (IO) の大気濃度観測を、南半球から北極海まで地球規模の広範囲に及ぶ海域で、2014年から2018年にかけて実施しました。その結果、海面水温が高いほど大気中の一酸化ヨウ素濃度は高い結果が得られました。特に、熱帯西部太平洋の海面水温が30℃にも達する高い海域 (暖水プール域) 上では、大気中のヨウ素濃度が極めて高いという結果を見出しました (図2)。これは海洋から大気へのヨウ素の供給が暖水プール域で世界的に高いことを示唆しています。研究チームはその海域をヨウ素の泉 (iodine fountain) と名付けました。

ヨウ素は海水に含まれ、これまでの研究では、海から大気への供給は、海水中のヨウ化物イオンと大気中のオゾンの海面での反応によるとされ、オゾン濃度に依存し、大気中のオゾン濃度が高い程供給量が多いと考えられてきました。

しかし、本研究では世界的なオゾン極小域である暖水プール海域でヨウ素濃度が高いことがわかりました。この結果は、これまでのオゾン濃度に依存する海から大気へのヨウ素供給説と整合しません。さらに、暖水プール域で大気中の一酸化ヨウ素とオゾン濃度の関係を調べたところ、両者に負の相関関係が確認されました (図3)。これはオゾンがヨウ素を大気へ供給する重要因子ではなく、別の過程でも供給されており、想定以上に大気中のヨウ素によりオゾン破壊が起きていることを示唆しています (図4)。そのため、これまでの海から大気へのヨウ素供給過程と大気中の光化学反応過程を再考察する必要があると考えられます。

そこで数値モデルを用いて、海から大気へヨウ素供給過程と大気中での光化学反応過程について調べました。その結果、観測結果を合理的に説明するためには、従来から考えられているオゾン濃度に依存する供給過程のみではなく、オゾン濃度に依存しない供給過程も重要であることがわかりました。その過程を考慮すると、大気中でのオゾン消失は15%大きくなることがわかりました。暖水プール域はオゾン濃度が10 ppbv (10億分の1) と低いにもかかわらず、ヨウ素によるオゾン消失は1日あたり2 ppbvと極めて高く、その消失速度は、ヨウ素を考慮しない場合と比較して、最大100%大きくなります。これらの知見は、気候変動によって引き起こされる海水温の上昇が、ヨウ素のさらなる揮発を促し、大気中のオゾンを想定以上に破壊して気候に影響を与える可能性があることを示唆しており、今後IPCC気候モデルシミュレーションでもこれらの過程を考慮していく必要があると考えられます。

5. 今後の展望

大気中のヨウ素濃度は低く観測が難しいことから、ヨウ素の動態・役割についてこれまでは十分に理解されておらず、依然不明な過程が多いと考えられます。今後、海洋地球研究船 「みらい」 等を利用して、海面水温が高い海域を中心に観測を行うことで、オゾン濃度に依存しない供給過程が何なのか特定し、また大気中のエアロゾル粒子を含むヨウ素全量を把握するなど、ヨウ素循環の全体を明らかにするための総合観測・研究に取り組みます。

また、得られた知見を全球規模の光化学、輸送過程を再現できる数値モデルへ適用し、ヨウ素がオゾンの放射強制力に与える影響などの研究を進め、IPCC第7次評価報告書へ向けて気候変動に対する影響評価にも取り組む予定です。

※1
対流圏オゾン
地球の大気中に含まれるオゾンのうちおよそ9割は成層圏 (高度約15~30 km) にあり、残りおよそ1割が対流圏 (高度10 km 以下) にある。成層圏にあるオゾン (オゾン層) は、太陽からの紫外線から生命を守る役割を担っている。一方、対流圏オゾンは、光化学スモッグ (大気汚染) に密接に関与して健康や農作物に影響を与えるほか、温室効果ガスとして地球を暖める働きがある。成層圏オゾンを「善玉」オゾン、対流圏オゾンを「悪玉」オゾンと呼ぶことがある。
対流圏オゾン
※2
MAX-DOAS (マックスドアス)
Multi-Axis Differential Optical Absorption Spectroscopyの略。紫外域から可視域の太陽散乱光を複数の低い仰角で測定し、対流圏中の微量ガスやエアロゾルをリモートセンシング観測する手法。JAMSTECでは陸域での観測の他、船舶に搭載して海洋上の観測を実施している。
図1

図1 海洋地球研究船「みらい」に設置しているMAX-DOAS (マックスドアス) 観測装置の屋外テレスコープ部分 (左)と室内分光器部分 (右)。

図2

図2 海洋地球研究船 「みらい」で2014年から2018年にかけて、MAX-DOAS (マックスドアス) 法により観測した海洋上の一酸化ヨウ素濃度 (molec/cm2; 仰角3度における差分傾斜カラム濃度であり、暖水プール域では0.8 pptv に相当)。等値線は海面水温の平年値 (℃; OI SSTの2014-2018年平均値を利用)。 海面水温が高い熱帯西部太平洋の暖水プール域で高濃度のヨウ素が検出された。

図3

図3 暖水プール域で観測した大気中の一酸化ヨウ素 (IO) 濃度とオゾン (O3) 濃度の時系列。両者の間に負の相関関係がみられる。

図4

図4 海から大気へのヨウ素の供給のイメージ図。これまでの研究では海から大気へのヨウ素の供給はオゾン濃度に依存し、大気中のオゾン濃度が高いほど供給量が多いと考えられてきた。しかし本研究では、ヨウ素はオゾンに関係なく供給され、オゾン破壊を増強する経路も重要であることが示唆された。

国立研究開発法人海洋研究開発機構
(本研究について)
地球表層システム研究センター 招聘主任研究員/ 福岡大学理学部 准教授 高島久洋
地球表層システム研究センター センター長 金谷有剛
(報道担当)
海洋科学技術戦略部 報道室
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