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プレスリリース

2022年 10月 7日
国立研究開発法人海洋研究開発機構

国際深海科学掘削計画(IODP)第397次研究航海の開始について
~イベリア縁辺域の古気候~

国際深海科学掘削計画(IODP: International Ocean Discovery Program)(※1)の第397次研究航海として、米国が提供するジョイデス・レゾリューション号(※2)による「イベリア縁辺域の古気候」(別紙参照)が、2022年10月11日から開始されます。

本航海では、イベリア半島西方沖の水深1,300~4,700 mの4カ所での掘削を行い、500万年前の鮮新世まで遡る連続堆積物の取得を予定しています。これにより、東部北大西洋の水塊の変動や欧州大陸の気候変動を復元し、極域の記録と対比することで、前例のない時間解像度で連続的な気候変動の理解を深めることが目的です。

航海には、インド、英国、オーストラリア、スペイン、中国、ドイツ、日本、フランス、米国、ポルトガルから計25名の研究者が参加し、うち日本からは2名が乗船参加予定です。

※1 国際深海科学掘削計画(IODP: International Ocean Discovery Program)

平成25年(2013年)10月から開始された多国間科学研究共同プログラム。日本(地球深部探査船「ちきゅう」)、米国(ジョイデス・レゾリューション号)、ヨーロッパ(特定任務掘削船)がそれぞれ提供する掘削船を用いて深海底を掘削することにより、地球環境変動、地球内部構造、地殻内生命圏等の解明を目的とした研究を推進する。


JOIDES Resolution ©IODP

※2 ジョイデス・レゾリューション号

IODPの科学掘削に米国が提供する掘削船。

別紙

イベリア縁辺域の古気候
Iberian Margin Paleoclimate

1.日程(現地時間)

  IODP第397次研究航海

2022年10月11日
研究航海開始(出港地:リスボン(ポルトガル))
2022年12月11日
研究航海終了(入港地:タラゴナ(スペイン))

※予定は、新型コロナウィルス感染症の状況、航海準備状況、気象条件や調査の進捗状況等によって変更となる場合があります。

2.日本から参加する研究者(予定)

氏名 所属/役職 担当専門分野
池田 尚史 山口大学大学院創成科学研究科
地球圏生命物質科学系専攻/修士課程
堆積学
黒田 潤一郎 東京大学大気海洋研究所
海洋地球システム研究系海洋底科学部門/准教授
物性科学

3.研究の背景・目的

スペインのイベリア半島西岸沖は、後期更新世の厚い堆積物に覆われ、千年スケールの気候変動の連続記録を得られる世界でも数少ない海域です。この海域は、他の深海盆に比べて堆積速度がはるかに高く、高時間解像度の記録が得られます。古海洋学の祖・故ニコラス・シャックルトン卿は、この海域の堆積物の記録が、グリーンランドや南極の氷床コアの記録と正確に対比できることを示しました。また、イベリア半島西岸沖は、大陸棚が狭く、近くの大陸から供給された物質は速やかに深海盆に運搬されるため、大陸の気候変動の記録を得ることもできます。過去に行われたIODP 第339次研究航海では、第四紀更新世の145 万年前までの半遠洋性堆積物が回収され、極域氷床-海洋-陸域の過去の気候変動の正確な対比が可能であることを示しました。今回のIODP第397次研究航海では、この連続記録をさらに第四紀更新世から新第三紀鮮新世まで拡張し、500万年前まで遡るアーカイブを回収します。また、海面下1,304~4,686 mの範囲の様々な水深で堆積物を掘削することで、東部北大西洋に広がる複数の水塊の時間変化を明らかにします(深度トランセクト掘削戦略)。このような深い水塊の挙動や履歴を解明することは、深層水塊の挙動と、その炭素貯留層としての役割や大気二酸化炭素濃度に対する影響を知るために不可欠で、とりわけ興味深い研究対象です。また、本航海で得られる試料は、千年規模の気候変動が、過去300万年間にわたる北半球の巨大大陸氷床の成長と衰退に果たした役割を理解するためにも不可欠です。

本航海で掘削回収される堆積物は、鮮新世まで遡る、過去500万年間の連続かつ高時間解像度で北大西洋の海洋環境や気候変動を忠実に復元できる可能性を有しています。人間活動の影響がない条件下で、地球環境の自然変動の詳細を理解する重要な研究に発展すると期待されます。

Hodell, D.A., Abrantes, F., and Alvarez Zarikian, C.A., 2022. Expedition 397 Scientific Prospectus: Iberian Margin Paleoclimate. International Ocean Discovery Program.
https://doi.org/10.14379/iodp.sp.397.2022

図1

図 本研究航海の掘削地点 オレンジ色の丸は主要掘削予定点を示す。
紫色の四角は、出港地(リスボン(ポルトガル))・帰港地(タラゴナ(スペイン))を示す。

表 本研究航海の掘削予定地点の一覧(作業予定日数は切り上げ、優先順位の高い順に表示)

サイト名 水深(m) 目標掘削深度(m) 作業予定日数
SHACK-11B 4,697 350 15
SHACK-14A 3,467 500 16
SHACK-04C 2,596 400 11
SHACK-10B 1,315 500 12

(航海準備状況、気象条件や調査の進捗状況等によって掘削地点を変更する場合があります。)

*図はIODPウェブサイトより引用したものを改変

IODP JRSO・Expeditions・Iberian Margin Paleoclimate
https://iodp.tamu.edu/scienceops/expeditions/iberian_margin_paleoclimate.html
http://iodp.tamu.edu/scienceops/precruise/iberia/771-Full2_Hodell_web.pdf
http://iodp.tamu.edu/scienceops/precruise/iberia/771-Add_Hodell_web.pdf
http://iodp.tamu.edu/scienceops/precruise/iberia/771-Add2_Hodell_web.pdf
【参考】IODP Copyright Statement
https://iodp.tamu.edu/about/copyright.html
国立研究開発法人海洋研究開発機構
(IODP及び本航海の科学計画について)
研究プラットフォーム運用開発部門 運用部 次長  斎藤 実篤
(報道担当)
海洋科学技術戦略部 報道室
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