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プレスリリース

2022年 12月 25日
国立研究開発法人海洋研究開発機構

音響散乱現象を精緻に捉える手法の開発
~伊豆-小笠原弧では初となる熱水プルームによる音響散乱現象の検出~

1. 発表のポイント

未知の海底熱水活動域の発見には、熱水プルーム(※1)による音響散乱現象の検出が大きな手掛かりとなるが、これまで伊豆-小笠原弧では捉えることができなかった。
今回、調査船に搭載した高周波マルチビーム音響測深機(※2)による観測と音響散乱モデルによる可視化を組み合わせることにより、伊豆-小笠原弧では初めて熱水プルームによる音響散乱現象を捉えることに成功した。
本手法は、今後、様々な海域において未知の熱水活動域を発見することに役立つものと期待される。

【用語解説】

※1
熱水プルーム:海底熱水活動由来の二酸化炭素や微量重金属等を含む噴出物
※2
マルチビーム音響測深機:超音波を使用し海底地形を面的に計測する音響観測機器

2. 概要

国立研究開発法人海洋研究開発機構(理事長 大和裕幸)海洋機能利用部門海底資源センターの金子純二技術副主幹と笠谷貴史グループリーダーは、伊豆-小笠原弧では初めて熱水プルームによる音響散乱現象を捉えることに成功しました。

海底熱水活動域では、熱水プルームが音響散乱現象として調査船のマルチビーム音響測深機(Multibeam echo sounders:MBES)によって観測されることが知られています。これまで、伊豆-小笠原弧や沖縄トラフを中心に多くの音響観測が実施されてきましたが、伊豆-小笠原弧では熱水プルームによる音響散乱現象は検出されていませんでした。

本研究では、より高分解能で観測が可能な「高周波」のMBESを用いるとともに、取得した水中音響散乱データからボクセルモデル(※3)を生成し、水中部を3次元的に可視化したうえで定量的に解釈することで、既知海底熱水活動域の音響散乱現象を伊豆-小笠原弧としては初めて捉えることに成功しました。

本手法は新たな海底熱水鉱床探査のツールとして有効であり、今後、同海域をはじめとした様々な海域において未知の熱水活動域を発見することに役立つものと期待されます。

本成果は、「情報地質」に12月25日付け(日本時間)で掲載される予定です。

タイトル:
東青ヶ島海丘カルデラ海底熱水活動域におけるボクセルモデルを用いた船舶マルチビーム音響測深機のウォーターカラムデータ解析
著者:
金子 純二1、笠谷 貴史1
所属:
海洋研究開発機構
DOI:
https://doi.org/10.6010/geoinformatics.33.4_87

【用語解説】

※3
ボクセルモデル:
同形状の直方体または立方体の集合によって、3次元空間で物体を表現するモデル。

3. 背景

海底熱水鉱床は我が国の鉱物資源として期待されており、多くの研究や調査が進められています。戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)(※4)課題「次世代海洋資源調査技術(海のジパング計画)」では、海底熱水鉱床の成因研究と海底熱水鉱床調査技術プロトコル(※5)の策定が行われました。

海底熱水鉱床は海底下の熱水循環作用によって形成される鉱床であり、多くの場合活発な海底熱水活動域を伴います。また、活動域では熱水活動で噴出するCO2液滴(液体状態の二酸化炭素)を含んだ熱水プルームが音響散乱として検出される場合があります。そのため、海底熱水鉱床探査では、まず初めに調査船に搭載したMBESによって海底地形調査とプルーム調査(※6)を行い、海底熱水活動域を探索し、その後に探査機等による精査を行い有望な鉱床であるかを調べていきます。

これまで、沖縄トラフでは同調査により新たな海底熱水活動域が発見されてきました。しかし、伊豆-小笠原弧では海底熱水活動域の存在がいくつか知られているものの、熱水プルームによる音響散乱現象が検出された例はありませんでした。このままでは新たな活動域の探索はより難しいものになります。また、なぜ本海域では散乱が捉えられないのか科学的に解明されていません。そのため、伊豆-小笠原弧における熱水プルームによる音響散乱現象の検出とその理由の解明が求められています。本研究は、この課題に対応するためSIP事業で実施された調査データを用いて行ったものです。

【用語解説】

※4
戦略的イノベーション創造プログラム(SIP):
総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)が自らの司令塔機能を発揮して、府省の枠や旧来の分野の枠を超えたマネジメントに主導的な役割を果たすことを通じて、科学技術イノベーションを実現することを目的としたプログラム。
※5
海底熱水鉱床調査技術プロトコル:
SIP次世代海洋資源調査技術(海のジパング計画)において2018年に策定した、海底熱水鉱床の探査を体系化した手順書。(https://www.jamstec.go.jp/sip/pdf/resultList2017_p_j.pdf
※6
プルーム調査:
CO2液滴を含んだ熱水プルームを水中部の音響散乱現象として検出する調査。

4. 成果

本研究では、伊豆-小笠原弧においてCO2液滴を要因とした熱水プルームによる音響散乱現象の検出を目的とし、東青ヶ島海丘カルデラ水中部(図1)に存在することが既に知られている海底熱水活動域を対象として、以下手法により分解能を高めることで微細な音響散乱データを取得できるかを検討しました。

1)
海底広域研究船「かいめい」(図2)を用いた高周波のMBESによって分解能の高い音響散乱データを取得する。
2)
水中部の音響散乱強度データをボクセルモデルに変換し、3次元可視化したうえで散乱強度や地理的位置、形状など定量的に解釈する。
左:図1、右:図2

図1 東青ヶ島海丘カルデラ位置図  図2 海底広域研究船「かいめい」

取得した高分解能の水中音響散乱データからボクセルモデルを生成し、海底地形と空間統合したうえで水中部を可視化し観察を行ったところ、周囲より散乱強度が高い特異な領域を各水深断面から確認することができました(図3)。

図3

図3 海底地形図ならびに音響散乱ボクセルモデルの水平断面イメージ。グリッドの単位はメートル。黒色枠はチムニーとマウンドを含む範囲を示す。各図右下の図面は黒枠の拡大図であり中央付近の色が異なる領域が熱水プルームによる散乱。

また、3次元モデルの垂直断面(図4)から、特異な領域は3次元にすると海底熱水活動域とチムニー(高さ:約30m)付近の海底から垂直方向に延びるたわんだ円錐形状の散乱体(高さ:約190m)であることも確認できました。位置や形状、消失水深、散乱強度など定量的な解釈と、沖縄トラフに見られる熱水プルームとの類似によって、この散乱体は海底熱水活動に由来したCO2液滴を含む熱水プルームによる音響散乱であると判別できました。これは伊豆-小笠原弧で、熱水プルームによる音響散乱データを調査船に搭載したMBESで取得できた初めての報告となりました。

図3

図4 音響散乱ボクセルモデルの垂直断面イメージ

5. 今後の展望

引き続き伊豆-小笠原弧をはじめとした様々な海域において、今回の研究で確認された手法を用いてプルーム調査を実施することで、今後、新たな海底熱水活動域の探索がより効率的に行えることが期待されます。

また、今後も引き続き、各海域の調査データの蓄積・解析を行うことでケーススタディを増やし、海域ごとの熱水プルームに対する周波数や散乱強度などの音響特性を把握し、熱水プルームと音響散乱の関係性を明らかにすることで、これまで伊豆-小笠原弧で音響散乱現象を捉えることができなかった理由について解明していく考えです。

国立研究開発法人海洋研究開発機構
(本研究について)
海洋機能利用部門海底資源センター
技術副主幹 金子純二
(報道担当)
海洋科学技術戦略部 報道室
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