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2023年 9月 6日
内閣府戦略的イノベーション創造プログラム
海洋安全保障プラットフォームの構築
国立研究開発法人海洋研究開発機構

南鳥島沖水深 5,600m海域で自律型無人探査機(AUV)による資源探査に成功
―大水深の深海鉱物資源探査手法の確立に向けて―

1. 発表のポイント

内閣府・戦略的イノベーション創造プログラム「海洋安全保障プラットフォームの構築」(※1)では、2027年度までに、海底鉱物資源として注目されるレアアース泥(※2)の採鉱と選鉱・製錬・精製の実証試験を計画している。
日本の最東端である南鳥島周辺の排他的経済水域(図1)の海底下には高濃度のレアアース泥が存在することが明らかになっているが(図2)、産業規模での採鉱を可能とするためにはレアアース泥が賦存する海底下の精緻な地質構造の把握が不可欠であり、そのための高度な探査手法が必要とされている。
水深 5,500m以深の南鳥島周辺海域において自律型無人探査機(AUV、※3)による探査を実施した結果、従来の船上からの音響探査と比較して、数十倍の解像度のデータ取得が確認された。
AUVによる高解像度データは、海底下の堆積物試料(コアサンプル)の分析データと比較・統合することで、レアアース泥の詳細な空間分布を把握し資源量評価の精度を向上させるとともに、海底面の状況の正確な把握によってレアアース採鉱における安全性や作業効率の向上にも大いに役立つことが期待される。

図1

図1.日本の領海等概念図

図2

図2.日本周辺の海底資源の分布

【用語解説】

※1
内閣府・戦略的イノベーション創造プログラム「海洋安全保障プラットフォームの構築」(SIP海洋):内閣府総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)のもと科学技術イノベーションを目指し創設された14のプログラムのうちのひとつ。2023年度より第3期が開始した。
https://www8.cao.go.jp/cstp/gaiyo/sip/
※2
レアアース泥:さまざまなハイテク製品に欠かせない希少金属レアアースを高濃度(総レアアース濃度400 ppm以上)で含む深海堆積物の通称。
※3
自律型無人探査機(AUV: Autonomous Underwater Vehicle):人が直接行くことのできない海中を探査するための海中ロボットの一種で、ケーブルを介して人が操縦する遠隔操縦ロボット(ROV: Remotely Operated Vehicle)と比べて、ケーブルによる行動範囲の制限がなく、海面の風浪やうねり、海流などの影響を受けずに安定した観測ができる利点がある。またROVに比べて必要な支援設備が少なく運用コストが小さい。

2. 概要

内閣府・戦略的イノベーション創造プログラム「海洋安全保障プラットフォームの構築」(プログラムディレクター 石井正一、以下「SIP海洋」という。)は、2023年7月25日から8月11日にかけて、国立研究開発法人海洋研究開発機構(理事長 大和裕幸、以下「JAMSTEC」という。)の海底広域研究船「かいめい」による南鳥島周辺海域でのレアアース泥調査航海を実施しました。

今回の調査では、SIP海洋で導入したAUVを初めて南鳥島周辺海域に投入し(図3)、AUVに搭載したマルチビーム音響測深機(MBES:Multi Beam Echo Sounder)による海底地形データ、サブボトムプロファイラー(SBP:Sub-Bottom Profiler)による海底下浅部地層構造データ、サイドスキャンソナー(SSS:Side-Scan Sonar)を使った海底面音響画像データを同時取得しました。

AUVは、水深5,600mの海底面から20mの高度において安定した潜航調査を行い、各種の観測センサーで取得したデータを母船に持ち帰ってくることに成功しました。こうして収集されたデータは、これまでの船上からの観測例と比べて数十倍の解像度を有しており、精細な地層構造や複雑な音響基盤地形および断層構造を把握することができました。

図3

図3.南鳥島周辺海域に投入され、調査を行うAUV

3. 背景

船舶を用いた海底調査を補完する技術として、AUVを用いた高解像度の海底地形調査技術の開発が世界で行われています。海底資源の探査では、広大な海域で海底下の地質構造を調査し、賦存する資源量を正確に把握する必要があるため、ケーブルによって行動範囲が制約されてしまう深海曳航体やROVを用いるのではなく、自律して安定航行が可能なAUVによる海底観測が適するとされています。しかし、我が国のAUVは、例えばJAMSTECのAUV「うらしま」の最大潜航深度が3,500m、「じんべい」の最大潜航深度が3,000mで、レアアース泥が存在する南鳥島周辺海域の5,500m以深の水深には対応できていませんでした(※「うらしま」は8,000m級の大深度化に着手)。

一方で、海外メーカーのAUVはカタログ上では水深 6,000mまで潜航が可能としながらも、5,000m以深での運用例が少ないのが実状であり、今回の探査では、各種観測データの取得だけでなく運用ノウハウの蓄積も期待されていました。

4. 成果

今回の海底広域研究船「かいめい」による調査は2023年7月25日から8月11日にかけて実施されました。

台風7号の影響により調査計画の変更があったものの、深海曳航体やROVとは異なりケーブルによる行動制限を受けないAUVの強みを活かし、海面のうねりや風浪による影響をほとんど受けることなく、調査の主目的である水深5,600mの海底下の鮮明な構造データを得ることができました。

図4に、船上とAUVとの海底下の地層探査データの比較を示します。水深5,600mの海底を洋上から探査する船舶の観測結果(図4(a))と比べて、海底面から20mの一定高度で安定して潜航するAUVで得られた観測データ(図4(b))は高い解像度を有していることがわかります。この水深の海域でこれほどまでに高解像度・高精度の海底下地質構造のデータが取得された例は過去にありません。

このような連続した高解像度の地層構造は、レアアース泥を含む堆積層の空間分布を把握するために必要不可欠な情報です。また、今回収集された幅100mオーダーの凹凸地形を示す複雑な音響基盤などのデータは、南鳥島周辺海域における深海底の構造発達史などの科学的な考察を行う上でも重要な情報を提供してくれます。

図4

図4.SBP観測結果の比較 (a)船舶で得たSBP観測の結果、(b)船舶と同じ測線をAUV(海底面からの高度20m)が航走して得たSBP観測の結果

5. 今後の展望

AUVを用いた高解像度音響探査は、広範囲の海域から大水深に存在する海底資源の有望域を特定するために欠かせない技術です。

今回の6,000m級AUVによる調査を端緒とする深海鉱物資源探査手法の確立によって、精緻な地層構造データとコアサンプルの分析結果との比較・統合が可能となり、今後の南鳥島周辺海域におけるレアアース泥の分布・資源量の精査が飛躍的に加速されることが期待されます。また、この調査技術はレアアース泥に限らず、ほかの深海資源探査等への応用可能性も高いと考えられます。

さらに、AUVの観測によってもたらされる微細地形や海底面の状況の正確な把握は、2025年から予定されているレアアース採鉱における安全性の向上や作業効率の高度化に役立つことが大いに期待されます。

※本実証試験に関する資料映像は、以下のURLからご覧いただけます。
https://youtu.be/iOeVevCO5cE

(本研究について)
SIP海洋統括プロジェクトチーム レアアース生産技術開発プロジェクトチーム
プロジェクト長 川村 善久
(報道担当)
海洋科学技術戦略部 報道室
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