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世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)に採択 地球システム変動と海洋生態系との関係を解き明かす「変動海洋エコシステム高等研究機構」の始動

2023.10.12
国立大学法人東北大学
国立研究開発法人海洋研究開発機構

1. 発表のポイント

  • 東北大学と海洋研究開発機構が共同で提案した「変動海洋エコシステム高等研究機構」が文部科学省の令和5年度世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)に採択されました。

  • 未だ謎に包まれる地球温暖化などの環境変化に対する海洋生態系の応答・適応メカニズムを解明し、海洋生態系の変動予測の実現を目指します。

2. 概要

東北大学及び海洋研究開発機構(以下、「JAMSTEC」)が共同で提案した「変動海洋エコシステム高等研究機構(WPI-Advanced Institute for Marine Ecosystem Change:以下、「WPI-AIMEC」)」が、文部科学省の令和5年度世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)の新規採択拠点として採択されました。

WPIプログラムは、卓越したリーダーのもと、世界から第一線の研究者が集まる「目に見える研究拠点」を形成する事業です。東北大学にとっては、2007年度に採択されたWPI-AIMR(現・WPIアカデミー材料科学高等研究所)に次ぐ2拠点目の採択となります。複数のホスト機関が共同してWPI拠点を形成するアライアンス型提案の採択は、WPIプログラムが創設されて以降、初めての事例です。

WPI-AIMECでは、ホスト機関である東北大学の基礎学術や高等教育機能と、JAMSTECの海洋調査や計算機プラットフォームの機能を活かし、一体的な拠点運営を行います。具体的には、北西太平洋を重点海域と定め、海洋物理観測と環境DNA分析等から得られるビックデータの統合解析を進め、地球システム変動注1 にともなう海洋環境のダイナミックな変化に対する生態系の応答・適応メカニズムの解明に挑みます。それらのデータ・知見に基づき、北西太平洋から全球に適用可能な海洋生態系変動モデルを構築し、人間社会に役立つ予測の実現を目指します。それにより、海洋及び生態系の再生と回復に向けた「惑星スチュワードシップ」注2 に貢献します。さらに、サテライト機関としてハワイ大学と連携し、国際的な高等教育プログラムによる世界で活躍する人材の育成を促進します。

3. 詳細な説明

背景

地球表面の約7割を占める海洋には、微生物から大型の哺乳類に至るまで、多種多様な生物が生息しています。それらの生物から構成される「海洋生態系」は、地球上の全ての基礎生産注3 の約半分を担い、全動物量の約8割を養うなど、地球環境と人間社会の持続可能性にとって極めて重要な役割を果たしています。

近年、地球温暖化の影響により、海水の温度やpH、溶存CO2濃度などの物理化学的な因子が過去に例を見ない速度で変化しています。今後、それらの海洋環境の変化は、海洋における物質循環の効率低下や、それに付随する生物多様性の損失など、地球環境や人間社会に深刻な影響を与えることが予想されています。

とりわけ、我が国が位置する北西太平洋海域は、世界有数の暖流である黒潮によって熱や物質が北上すると共に、寒流である親潮が南下することで、その流路や混合域に海洋渦が発達するダイナミックな海洋環境場であり、世界においても科学的知見が最も集約している代表的な海域となっています。さらに、北西太平洋海域は世界有数の生物多様性を育み、人間社会にとって重要な「生態系サービス」の恩恵をもたらす海域でもあります。

研究計画

「変動海洋エコシステム高等研究機構(WPI-AIMEC)」では、我が国周辺の海域を含む北西太平洋を研究の重点海域として定め、海洋物理学、生態学、数理・データ科学を融合したアプローチにより、1. 気候―海洋―生態系の相互作用の解明、2. 海洋生態系の環境応答・適応メカニズムの解明、3. 海洋生態系の変動予測に挑みます。具体的には、海洋生態系が広範囲で急激に構造転換する「レジームシフト」と呼ばれる現象に着目しつつ、生物地球化学的データを含む広範囲の地球物理観測、環境DNA分析、室内実験等を行い、海洋生態系の維持に重要な連動性・安定性・適応性の理解を深化させます。さらに、AIや機械学習をフル活用し、海洋物理―生態系ビッグデータの統合解析を進め、全球に適用可能な海洋生態系変動モデルを構築します。それにより、新しい学術領域として「海洋・生態系変動システマティクス」の創成を目指します。

組織体制

本拠点では、ホスト機関である東北大学の基礎学術や高等教育機能と、JAMSTECの海洋調査や計算機プラットフォームの機能を強固に連携させたインターラボラトリーシステムを構築します。その一体的な活動により、未だ謎の多い海洋生態系の環境応答・適応メカニズムの解明・予測に資する最先端の分野融合研究と国際的な高等教育を推進します。世界トップクラスの研究者や優秀な若手研究者約100名を糾合し、両ホスト機関と強固な連携関係にあるハワイ大学の環境観測機能をリンクさせることで、北西太平洋を重点海域とする分野融合研究と国際的な頭脳循環・高等教育を効果的に促進します。

拠点長に就任予定の東北大学・須賀利雄教授は、ユネスコ政府間海洋学委員会(IOC)が進める全球海洋観測システム(GOOS)の運営委員会の中心メンバーを務める等、海洋物理学分野を世界的に牽引している卓越した研究者です。須賀教授がIOCや世界気象機関(WMO)とともに推進してきた、全球規模の海洋観測網「アルゴ(Argo)」は、従来の地球物理観測に加えて、生物地球化学的観測にも拡張されつつあり、環境DNAの観測網の拡大と共に、本拠点のミッションの中核を担います。

今後の展開

本拠点では、世界で活躍する次代のグローバル人材を育成しつつ、本拠点の活動により創出される科学知を国内外のステークホルダーと共有し、基礎科学の立場から海洋及び生態系の再生と回復に向けた「惑星スチュワードシップ」に貢献していきます。

用語解説
注1

地球システム変動:地球の大気や海洋、生態系などの要素が複雑かつ相互に影響し合い変化する様。

注2

惑星スチュワードシップ:地球の持続可能な管理と保護のための責任ある行動規範・原則。

注3

基礎生産:光合成や化学合成によって、炭素を含む無機物(主に二酸化炭素)から有機物が生産されること。海洋においては、主に海洋表層に生息する植物プランクトンが光合成による基礎生産を担い、生態系の一次生産者として重要な役割を果たしている。

国立研究開発法人海洋研究開発機構
海洋科学技術戦略部 報道室