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南海トラフ広域ゆっくり滑りリアルタイム観測のための地球深部探査船「ちきゅう」を用いた長期孔内観測点の構築について

2023.11.02
国立研究開発法人海洋研究開発機構

国立研究開発法人海洋研究開発機構(理事長 大和裕幸、以下「JAMSTEC」)は、地球深部探査船「ちきゅう」を用いて、南海トラフで発生する「ゆっくり滑り」を高感度に捉えるための調査航海を実施します。

本航海では、紀伊水道沖の海域において「ちきゅう」によって新規に掘削した海底掘削孔内に観測センサーを設置することで、南海トラフでの海洋プレートの沈み込みに伴い発生する浅部ゆっくり滑り等のプレート境界滑り現象の実態を広域かつ高感度に把握するものです。

○航海日程 令和5年11月6日(月)~11月30日(木)
出港・帰港共に清水港(静岡県静岡市)
注)なお、気象条件や調査の進捗状況によって予定変更の場合があります。
○調査海域 紀伊水道沖(図1参照)

1. 航海の概要

巨大地震の発生が危惧されている南海トラフでのプレート沈み込みに伴って、深部では「ゆっくり滑り」を含む「スロー地震※1」が、沈み込む海洋プレートと大陸プレートの固着域周辺で繰り返し起こっていることが知られています。国は、この「ゆっくり滑り」の発生状況を監視し、「南海トラフ地震に関連する情報」(南海トラフ地震臨時情報等)を出すこととしています。

臨時情報等を効果的に発出するためには、広域な南海トラフのどこでも、「ゆっくり滑り」をリアルタイムで検知することが必要であり、そのためには「ゆっくり滑り」によって生じる海底地殻変動の広域的に連続的なリアルタイム観測が不可欠です。

このため、JAMSTECでは、東南海地震の震源域である熊野灘において、平成22年より海底掘削孔内に観測センサーを設置し、国立研究開発法人防災科学技術研究所が現在運用している地震・津波観測監視システム(DONET1※2)に当該センサーを接続することによって、現在計3か所において孔内間隙水圧計による海底地殻変動のリアルタイム観測を実施しています。

今回の航海では、紀伊水道沖の1地点において「ちきゅう」により新規の海底孔を掘削し、孔内に観測センサーを設置します。これは南海地震の震源域における初めての設置となるものです。掘削予定地点付近ではこれまでに、海上保安庁が実施するGNSS音響測距結合方式※3 による海底地殻変動観測から広域での「ゆっくり滑り」の発生が示唆されています。

加えて、今回の掘削予定地点付近では、海底面に設置した光ファイバによる歪計測が既に開始されており、その海底面の観測点と今回新たに設置する掘削孔内観測点から得られるデータを合わせることで、高感度なゆっくり滑りの検出とその過程の解析が行えることとなります。

今回設置する長期孔内観測システム(LTBMS: Long Term Borehole Monitoring System)は、孔内間隙水圧計での観測に加え、光ファイバ歪計を組み込んだ新型のもの(図2)で、微小地震~強震動および超低周波地震・低周波微動を含む様々な種類の地震の観測と、ゆっくり滑り等に伴う地殻変動の観測を行うことができます。

2. 今後の予定

今回設置したLTBMSについては、来年令和6年1月にDONET2※2 のノード(接続点)までケーブル展張・接続し、リアルタイム観測を開始する予定です。

また、今後準備が整い次第、高知沖、日向灘に同様のLTBMSを設置し、DONET2や国立研究開発法人防災科学技術研究所が高知県沖~日向灘において整備を進めている海底ケーブル地震観測網(N-net)との接続により、より広範囲な観測体制の構築を目指す予定です。

用語解説
※1

スロー地震
断層でのずれが通常の地震より遅いタイプの地震の総称。数Hzの地震波の成分が卓越する 低周波地震や0.1Hz以下の成分が卓越する超低周波地震、さらに地震波を出さずに数日から数か月・数年かけてゆっくり断層がすべる「ゆっくり滑り」(スロースリップイベント)など、ずれの速度によっていくつかの種類に分類される。また低周波地震が連続的に発生して長時間にわたって地震波が放出される現象を低周波微動と呼ぶ。

※2

DONET1、DONET2
熊野灘と紀伊水道沖に展開された地震・津波観測監視システムのこと。
https://www.seafloor.bosai.go.jp/DONET/
海底に設置された地震計・水圧計で得られたデータが海底ケーブルを通じて陸上局へ伝送され、リアルタイムで観測することができる。

図1

図1

図2

図2

本研究のお問い合わせ先

国立研究開発法人海洋研究開発機構
海洋科学技術戦略部 報道室