人類が放出した二酸化炭素の一部を海が吸収することにより、海水のpHが徐々に低下していく「海洋酸性化」が世界中で観測されています。海水のpHが低下し過ぎると、貝やウニ、サンゴ等の石灰石の殻を持つ生物が殻を作りにくくなるため、沿岸の生態系や磯根資源に何らかの影響を与えることが懸念されています。
水産研究・教育機構は海洋生物環境研究所、サスティナビリティセンター、里海づくり研究会議、エイト日本技術開発、東京大学大気海洋研究所、北海道大学大学院環境科学院、海洋研究開発機構と連携して、国内の5つの沿岸域(岩手県宮古市地先、新潟県柏崎市地先、宮城県南三陸町志津川湾、岡山県備前市日生地先、広島県廿日市市地先)においてpHとその他の関連する項目の通年観測を実施し、日本沿岸域における酸性化の進行状況を評価して、論文として公表しました。
観測した5つの海域で、pHの年平均値は8.0から8.1の間でした。しかし、降雨等により沿岸域の塩分が短期的に低下した時に、沿岸のpHも10日間程度の短期間、平均値から大きく外れて低下する現象を、年十回〜数十回の頻度で起こしていることがわかりました。この際、特に規模の大きなpH低下現象の際には、飼育実験の上では貝類の幼生の殻の形成に異常を生じることがある可能性のあるレベルまで、pHが低下することも確認されました。ただし現時点では貝類幼生の顕微鏡観察の結果から実際に殻に異常を生じた幼生は確認されていません。
一方で、5つの海域間の比較からは、陸域から沿岸に供給されている栄養塩量が少ない海域ほど、塩分低下時に観察される短期的なpHの低下幅が小さくなっていることも確認できました。栄養塩が一時的に多くなって沿岸域の生物活動が活発化しpHが下がったと考えられており、このことから、各沿岸域に陸から供給される栄養塩の量を適切にコントロールすることによって、将来の酸性化した海域でも短期的なpH低下イベントの大きさを抑制できる可能性が示唆されました。
本研究で海洋研究開発機構は、センサーによるpHと塩分の連続観測データを校正するために定期的に採取した海水試料の炭酸系(溶存無機炭素・アルカリ度)と塩分の高精度分析を担当しました。
詳細は 水産研究・教育機構のサイトをご覧ください。