海の生態系は、植物プランクトンによる光合成を主とした有機物の生産(一次生産)に支えられています。海の一次生産の全体のおよそ半分を担う広大な低緯度海域では、一次生産に必要な栄養塩の多くは、南大洋※1 の表層付近から流れ込んできている、と長らく考えられてきました。
東北大学・海洋研究開発機構 変動海洋エコシステム高等研究所(WPI-AIMEC)のKeith B. Rodgers教授、海洋研究開発機構(JAMSTEC)の山口凌平研究員、ソルボンヌ大学などからなる国際共同研究チームは、多くの海洋観測データと海洋生態系モデル※2 による数値シミュレーション実験により、低緯度海域の一次生産を支える栄養塩の半分以上は、実は同海域の「トワイライトゾーン※3」でバクテリアによる有機物の分解によって再生され表層に運ばれてきたものであるという、従来の定説を覆す知見を得ました。
気候変動の現在の主要な影響予測においては、海洋の一次生産の将来予測の結果が、使用する海洋生態系モデルごとに大きく異なっています。本研究の成果は、海洋生態系の将来予測の不確実性を低減させ、漁業など海洋の生態系サービスの持続可能な利用に有益な知見を提供することが期待されます。
本成果は8月22日、科学誌Natureに掲載されました。
南大洋
南極の周囲に広がる海。南緯40度以南を指すことが多い。
海洋生態系モデル
動植物プランクトンやその死骸、および栄養塩等の海洋の低次生態系を構成する要素を数値モデル化したもの。海洋循環モデルとともに計算され、流れや海水の混合がある海の中で各構成要素がどのように変化するかを調べる。
トワイライトゾーン
水深およそ150~1,000メートルの太陽の光がほとんど届かない水深帯のこと。太陽の光がよく届く海面~水深およそ150メートルの水深帯は有光層と呼ばれる。
詳細は 東北大学・海洋研究開発機構 変動海洋エコシステム高等研究所(WPI-AIMEC)のサイトをご覧ください。