広島大学大学院統合生命科学研究科の中林雅准教授と総合研究大学院大学の蔦谷匠助教、海洋研究開発機構の石川尚人主任研究員、小川奈々子グループリーダー、大河内直彦部門長、佐々木瑶子臨時研究補助員、マレーシア・サバ大学のAbdul Hamid Ahmad教授は、炭素・窒素安定同位体分析とアミノ酸の化合物レベル窒素同位体分析によって、食肉目ジャコウネコ科パームシベット亜科に属する近縁な4種で動物食性の強さが異なる可能性があることを報告しました。
ボルネオ島の熱帯雨林には似通った生態的特性をもつ食肉目ジャコウネコ科4種が、1平方キロメートルという狭い空間内でも共存しています。直接観察などの野外調査では、4種はいずれも食物を果実に強く依存しており、同じ時間に同じ木の上で果実を食べる姿が観察されており、動物食は稀と考えられていました。しかし、樹高の高い熱帯雨林の樹上で夜間に単独で活動する習性のため観察が難しく、これまで共存メカニズムの全貌は明らかになっていませんでした。
本研究ではこれら4種の食物の違いに着目して、動物性食物の採食の程度を比較するために体毛サンプルを集め、体毛中の炭素・窒素のバルク安定同位体分析※1 をおこないました。さらに、アミノ酸の化合物レベル窒素同位体分析※2 を用いて4種の栄養段階を推定しました。その結果、同じ果実を食べても、昆虫などの動物性食物の採食の程度を違えることで、食物をめぐる競合が小さくなり、共存が可能になっていることがわかりました。同位体分析による高い精度での動物の食性推定を可能としたことが、生態系の理解に役立っています。
本研究成果は、日本時間で10月2日、日本地球惑星科学連合の科学雑誌「Progress in Earth and Planetary Science」(オンライン版)に掲載されました。
安定同位体分析
自然界には、ある元素について重さの異なる原子が存在しており、それらのうち物理的に安定なものは安定同位体と呼ばれます。生態系や生体内で起こる化学反応によって安定同位体の存在比率(安定同位体比)が変化することがわかっています。この変化は予測可能な速度で起こるため、生体試料の安定同位体比を測定することによって、その由来がわかります。つまり、ある個体の体組織の安定同位体比を分析すれば、その体組織を構成するもとになった食物カテゴリーを推定できます。
アミノ酸の窒素同位体比と栄養段階の推定
動物の体内には、動物が自分で作ることができるアミノ酸(グルタミン酸など)と、自分では作れないので食物から摂らなければならないアミノ酸(フェニルアラニンなど)があります。このうちグルタミン酸は、生産者から高次消費者まで窒素の同位体の比率(軽い14Nに対する重い15Nの比)が単調増加します。一方でフェニルアラニンは、一次生産者から高次消費者まで窒素同位体の比率がほとんど変わりません。この性質を利用して、グルタミン酸とフェニルアラニンの窒素同位体比から生物の栄養段階を推定します。
詳細は 広島大学のサイトをご覧ください。