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デリー首都圏の深刻な大気汚染、インド北西部の稲わら焼きの寄与は従来の推定より小さい ~30地点での独自観測データの詳細な分析から判明~

2025.02.04
総合地球環境学研究所(地球研)
名古屋大学
長崎大学
海洋研究開発機構(JAMSTEC)

デリー首都圏では、 毎年10月から11月にかけてたびたび警戒レベルの大気汚染が起きており、大気汚染が人間の健康と社会経済環境に及ぼす悪影響は、何十年にもわたり大きな懸念事項となっています。デリー首都圏でPM2.5※1 の高濃度イベントが急速に形成されて持続する要因には多くの仮説があり、インド北西部のパンジャーブ州とハリヤーナー州の農業残渣焼却が大きく寄与しているという説もそのひとつです。デリー首都圏での大気汚染の形成メカニズムは、今日にいたるまでメディアの報道や研究出版物などで議論が続いているにも関わらず、政府レベルの政策立案者は、刈入れの際の農民の行動を変えることによって農業残渣焼却の根絶を目指すことに重点を置いてきました。デリーの大気汚染の要因にかかわる議論は、わら焼きが盛んな地域での体系的な観測体制が不十分であるために続いています。

今回の研究では、 (1)Aakashプロジェクト(リーダー プラビル・K・パトラ教授(地球研/JAMSTEC))※2 が構築した低コストな計測器CUPI-Gを約30台設置した大気汚染物質のネットワーク観測 (2)空気の流れる様子、火災数、風の解析、および (3)化学輸送シミュレーションを組み合わせることで、農村部、郊外、および大都市のPM2.5に対する農業残渣焼却の影響を評価しました。

その結果、インド北西部のパンジャーブ州とハリヤーナー州の農村部や郊外における農業残渣焼却(稲わら焼き)がその地域の大気汚染へ大きな影響を与える一方で、デリー首都圏への寄与はこれまでに考えられていたほど大きくないことを明らかにしました。 本成果は、デリー首都圏の大気汚染対策を科学的根拠に基づいて再評価する重要な知見を提供しました。農業残渣焼却がデリーの大気汚染に与える影響は限定的である可能性を示唆しており、適切な緩和策実施の必要性を提案しています。

図1

図.Aakash/CUPI-Gの地上観測ネットワークにより、パンジャーブ州からデリーまでの空気の動きを可視化した図
デリー首都圏で高濃度のPM2.5が観測された4日間(2022 年;上段、2023 年;下段)を示しています。農業残渣焼却によってパンジャーブ州南部の日平均PM2.5濃度(赤い丸)は常に上昇しますが、その直接的な影響がデリー首都圏に到達することはめったにありません。地上観測装置であるCUPI-Gは、上空から観測する衛星が農地火災を検出できない煙霧や曇りの条件下でも、PM2.5を継続的に観測できます。

用語解説
※1

PM2.5
直径2.5µm未満の粒子状物質。これらの微粒子は呼吸によって人間の肺の深部に到達し、呼吸器に沈着するなどして健康被害を及ぼす可能性があります。物質の燃焼から発生する微粒子は、通常、鉱物ダストや海塩粒子などの自然起源エアロゾルよりも人体に与える悪影響が大きいことが指摘されています。

※2

Aakashプロジェクト
正式名称は「大気浄化、公衆衛生および持続可能な農業を目指す学際研究:北インドの藁焼きの事例」。観測データとモデルシミュレーションを用いて、パンジャーブ州のわら焼きとデリーの深刻な大気汚染との関連を科学的に検証します。検証結果を元に文化的背景や大気汚染が及ぼす健康への悪影響に対する住民意識も配慮しながら、大気浄化・公衆衛生の改善・持続可能な農業への転換に向けた人々の行動変容を推進していきます。

詳細は 総合地球環境学研究所のサイトをご覧ください。

国立研究開発法人海洋研究開発機構
海洋科学技術戦略部 報道室