国立研究開発法人 産業技術総合研究所 地圏資源環境研究部門 風呂田郷史 主任研究員ら、国立大学法人筑波大学 数理物質系 辻村 清也 教授、国立研究開発法人海洋研究開発機構 超先鋭研究開発部門 Masaru K. Nobu(延優)主任研究員は、補酵素※1 F420(以下、F420という)を電気化学的に酸化・還元する技術の開発に成功しました。
近年、微生物や酵素の力を利用して、燃料、食品、医薬品など化成品の分子を製造する技術が注目されています。特に酵素還元反応は、特定の基質を立体選択的に還元するという特徴をもちます。また、反応温度や圧力が低く、有害副産物が少ないなどの利点もあります。そのため、化学合成に比べて特定の分子を高い選択性で効率的、かつ、低い環境負荷で製造できます。
本研究においては、二酸化炭素からメタンをつくるメタン生成古細菌※2 (以下、メタン菌という)が利用するF420に着目しました。このF420は知られている限り最も高い還元力をもつ電子運搬体※3 のため、F420が仲介する酵素還元反応を利用した新たな分子製造技術の開発が期待されます。しかし、これを産業的に活用するには、F420を還元体へと調整する反応系を構築しなければなりません。今回、メタン菌由来の酵素を介すことで電極からF420への電子の供給、すなわち、F420を酸化体から還元体への調整(およびその逆反応)を可能とする技術の開発に成功しました。
この技術は、新たな分子製造技術への応用だけでなく、バイオセンサ開発へと発展し、天然ガスを生産するメタン菌の研究にも活かされることが期待されます。
なお、この研究成果の詳細は、2025年1月28日に「Bioelectrochemistry」にオンライン掲載されました。
補酵素F420の電気化学反応系の概要
補酵素
酵素の働きを助ける低分子の有機化合物の総称です。酵素反応の補助、エネルギー変換、酸化還元反応などの役割を担います。電子運搬体の多くは補酵素として機能しています。
メタン生成古細菌
メタン菌、メタン生成アーキアともいう。細胞内に核をもたない原核生物の仲間で、生物学的にはバクテリア(細菌)ではなくアーキア(古細菌)に分類され、酸素がない嫌気環境下で有機物分解の最終過程を担う。メタン生成古細菌が利用できる基質(餌)は主に水素+二酸化炭素や酢酸、メタノールなどのメチル化合物に限られている。
電子運搬体
生体内で電子を運ぶ物質の総称です。電子を受け取る酸化型の電子受容体と、電子を与える還元型の電子供与体の2つの状態をとります。
詳細は 産業技術総合研究所のサイトをご覧ください。