難培養性原生生物・アセトスポラの培養とミトコンドリアゲノムの解読に成功。
解読したミトコンドリアゲノムと発現遺伝子情報(mRNA配列情報)の比較から、大規模なRNA配列の書き換え現象(RNA編集)を発見。
RNA編集前後の比較から、アセトスポラのRNA編集はDNA配列上で起こった突然変異をmRNA配列上で修正し、機能的なアミノ酸配列を維持する機能を担うことを発見。
RNA編集に関わる酵素として、陸上植物に由来するPPR-DYWタンパク質とこれまで後生動物のみが持つとされていたAdenosine Deaminase acting on RNA様タンパク質(ADAR-like)を検出し、両者がアセトスポラのミトコンドリア局在である可能性を確認。
アセトスポラのPPR-DYWタンパク質は遺伝子の水平伝播によって獲得され、ADAR-likeはこれまでの理解と異なり真核生物の祖先の段階で存在し、現在まで引き継がれていたことを把握。遺伝子工学の分野においても重要な当該遺伝子の進化と機能に関する理解を更新。
図1.本発見の概略
国立研究開発法人 海洋研究開発機構(理事長 大和 裕幸、以下「JAMSTEC」という。)地球環境部門 海洋生物環境影響研究センター 深海生物多様性研究グループの矢吹 彬憲 主任研究員は、東北大学大学院農学研究科 藤井 千早 大学院生(当時)、農業・食品産業技術総合研究機構 矢﨑 裕規 研究員、愛媛大学 大林 由美子 講師、福井県立大学 高尾 祥丈 准教授らと共同で、難培養性原生生物・アセトスポラの培養株化に成功しました。培養株を用いた分子生物学的な研究から、アセトスポラはミトコンドリアDNA上に生じた突然変異をRNAとして転写した後に修正し遺伝子としての機能を維持していることを発見し報告しました。本発見は、RNA編集現象の機能的な多様性に関する理解の深化につながるだけでなく、生物の分子進化に関する従来の理解に一石を投じる驚くべきものです。
真核生物は細胞内に核やミトコンドリアなどの構造を有する生物で、およそ21億年前に誕生し、多様な系統へと枝分かれ進化してきました。そこには動物や陸上植物など多細胞生物とともに多様な原生生物(陸上植物・後生動物・真菌を除いた真核生物の総称)が、含まれます。多くの原生生物は、体細胞サイズが小さく肉眼では認識しづらいことに加え、難培養性の生物も多く、その多様性の全貌や生態学的役割に関する理解は未だ限定的です。また原生生物が進化の中で獲得した様々な形態的・分子生物学的な特徴に関しても未だ多くの謎が残されています。本研究における対象生物であるアセトスポラは主に海産無脊椎動物に感染する寄生性原生生物のグループであり、一部の種は水産資源生物に感染することから防除対象としても注目されている生物群です。しかしながら、これまで培養株として確立されたアセトスポラは報告されておらず、その分子生物学的な知見は限定的な状況にあり、その研究進展が期待されていました。
本研究では、東京湾および駿河湾よりアセトスポラの新規生物を発見し培養株として確立することにまず成功しました。そこからミトコンドリアゲノムの解読と発現遺伝子解析を行い、アセトスポラのミトコンドリアにおいてRNA編集と呼ばれる塩基配列の書き換え現象が起こっていることを見出しました。RNA編集が起こっている場所と前後の変化を精査した結果、アセトスポラのRNA編集はミトコンドリアゲノム上で起こってしまった突然変異をmRNAとして転写された後に元々あった配列あるいはそれに近い配列へと修復し、最終的に生合成されるタンパク質の機能を維持していることが分かりました。さらに、このRNA編集を引き起こすメカニズムについても解析を進め、これまで後生動物型と陸上植物型として知られていた編集メカニズムを活用している可能性が高いことも見出しました。今回発見されたアセトスポラのRNA編集現象は、真核生物におけるRNA編集の進化は従来の想定よりも遥かに複雑であり、その機能と役割も多様であることを示しています。またこの「運命に抗い生きるためのしたたかな生存戦略」とも言える現象は、従来の生物進化の常識に反する驚くべきものと言えます。本研究で示されたRNA編集現象とこの現象を駆動するメカニズムに関する研究が今後さらに進むことで、ゲノムと遺伝子の進化に関する理解が深まるだけでなく、ミトコンドリアにおける遺伝子編集技術の活用にも通じる可能性があります。またアセトスポラの培養方法が確立されたことから、寄生生物としてのアセトスポラの生態学的な役割に関する研究も進展し、海洋生態系のより正確な理解が進むと期待されます。
本研究はJSPS科研費20K06792・19H03033・23K23687(基金化以前22H02422)の助成を受けて実施されました。本成果は、「Microbes and Environments」に3月15日付け(日本時間)で掲載されました。
Massive RNA editing in ascetosporean mitochondria
真核生物は細胞内に核やミトコンドリアなどの構造を有する生物で、およそ21億年前に誕生し、多様な系統へと枝分かれ進化してきました。動物や陸上植物など多細胞生物へ至る進化があった一方で、近年の分子系統学的な研究の進展に伴い、原生生物(=陸上植物・後生動物・真菌を除く真核生物)こそが、真核生物の系統的多様性を支える存在であることが明らかになっています(図2)。原生生物はその進化の中で、系統ごとにユニークな特徴や細胞機能を確立させており、その理解は真核生物の多様化プロセスを解明するために欠かせません。その一方で、それら原生生物の多くは体細胞サイズが小さく肉眼では認識しづらく、また難培養性であるため、その多様性や生態学的役割、分子生物学的な特徴などに関しては未だ多くの謎が残されています。本研究で対象としたアセトスポラ(図3)も理解が不十分な原生生物の1グループでした。アセトスポラは、エビやカニ、二枚貝などの海産無脊椎動物を主な宿主とする寄生性の原生生物の一群であり、これまでに約50種が記載されています。一部の種は水産資源生物に感染し影響を与えることから、防除対象としても認識されています。しかしながら、研究を継続的に進める上で重要となる培養株がこれまで存在していなかったこともあり、アセトスポラに関する生物学的な知見は他の生物群と比較しても大きく不足しており、その研究進展が期待されていました。
図2.真核生物全体の系統分岐関係の概略図
中心の青点が約21億年前に誕生した真核生物の共通祖先生物であり、そこから放射状に進化の枝分かれを繰り返し、現在見られる多様な真核生物が誕生しました。我々ヒトなどを含む多細胞動物は、後生動物と呼ばれる系統に属し、数多くある真核生物系統の中の一つに過ぎません。また後生動物と同様に、ホイタッカーの五界説では大きな括りで扱われていた真菌や陸上植物も現在では、それぞれ数多くある独立した系統の一つであることがわかっています。後生動物・陸上植物・真菌を除いた真核生物をまとめて原生生物と呼び、本研究で対象としたアセトスポラはエンドミクサ(左側紫星印で表示)に属す原生生物の一群です。
図3.アセトスポラの概説
本研究で対象にしたアセトスポラは綱レベルの生物群で、下位分類群として5つの目を含みます。
RNA編集は、DNAから転写によって生じたRNAがその後、塩基の書き換えや挿入を受ける現象です(図4)。これまでに様々な生物からRNA編集が報告されており、細胞内で重要な機能を担っていることが報告されています。例えば、我々ヒトを含む後生動物の核や細胞質では、mRNA上の一部のアデノシン(A)が脱アミノ反応を受けることでイノシン(I)と呼ばれるヌクレオシドに変化することが知られています。Iはグアノシン(G)と化学的構造が類似しているため、mRNA配列にもとづきタンパク質合成を担うリボソーム※1 はIをGとして認識し翻訳が進みます。そのため、A→I の書き換え型RNA編集(置換、と呼ばれる)が起こることで、最終的に合成されるタンパク質の構造および機能の変化が引き起こされます。これによって、時期や組織ごとに一つの遺伝子から合成されるタンパク質の性質を変化させ、機能の多様化が生じることがわかっています。この後生動物におけるA→I の置換は、Adenosine deaminase acting on RNA (ADAR)と呼ばれる酵素の働きによって起こります。ADARは、例外的に植物プランクトンである渦鞭毛藻の数種からも報告されているものの、それを除くと後生動物以外からの報告はないことから、後生動物の祖先で誕生した遺伝子だと考えられてきました。また、陸上植物の葉緑体とミトコンドリアでは、mRNA上のシチジン(C)をウリジン(U)に置換する現象が起こることも知られています。これは、PPR-DYWタンパク質と呼ばれる酵素によって反応が進むこともわかっています。この反応は、植物の陸上化に伴い獲得された形質であり、紫外線からDNAを保護するための役割を担っていると解釈されています(図5)。RNA編集現象の中には、未だ適応的な説明ができない(あるいは、議論が分かれている)ものも存在しており、その機能や進化成立プロセスに関しては未だ研究の余地が多く残されています。
図4.RNA編集現象の概説
DNAからの転写によって生じたRNAが塩基の書き換え(置換)等を受ける現象。タンパク質をコードするmRNA上で起こる場合は、指定するアミノ酸の変化を伴うこともあります。植物のミトコンドリア・葉緑体で起こるC→U置換や後生動物の核・細胞質で起こるA→I置換などの現象が知られ、それぞれの機能や反応を駆動する酵素に関する研究が進んでいます。
図5.植物の葉緑体・ミトコンドリアにおけるC→U置換型RNA編集
植物の陸上化に伴い紫外線の脅威は増大しました。C→U置換型RNA編集は、その対応策として重要な機能を担っていると解釈されています。
リボソーム
RNAとタンパク質からなる複合体。細胞質に存在し、mRNAの配列情報にもとづきアミノ酸鎖を合成する役割を担います。
東京湾表層および駿河湾水深 200 m由来の水試料よりアセトスポラに属す新規生物を発見し、2培養株を確立することに成功しました(図6)。培養株化は、2018年に我々が開発し公表した寄生性原生生物の培養株化に実績のあるHemi培地を用いることで成功しました。確立した培養株を用いてゲノム解析を進めたところ、2株それぞれから約20 kbpのミトコンドリアゲノムと考えられるDNA配列を解読することに成功しました。しかしながら、ゲノム上に存在する遺伝子を推定したところ、配列上に多数の終始コドンが確認され、機能を失い偽遺伝子化している可能性、あるいはRNA編集を受けることで初めて機能を発揮する遺伝子である可能性が示唆されました。この2つの可能性を検証するために、発現遺伝子解析を実施しRNA配列情報を収集し比較したところ、ミトコンドリア遺伝子のほぼ全てにおいてA→I, C→Uの置換が起きていることが確認されました。RNA編集は、mRNA上だけでなく、tRNAやrRNA上でも起きていました。RNA編集の頻度は2株においてほぼ同じであり、ミトコンドリアゲノム配列全体の約2%が遺伝子発現の過程で置換されていました。またRNA編集が起きている場所も2株においてその多くが共通していたことから、これら2株の共通祖先の段階でRNA編集機構が存在していたことも分かりました。さらに、RNA編集による影響を精査したところ、タンパク質コード遺伝子のmRNA上で起こるRNA編集は全て、指定するアミノ酸の変化を引き起こす非同義置換(図7)と呼ばれるものでした(終始コドンからの回復を含む)。また、真核生物全体にわたって特定のアミノ酸が保存されているようなサイトでもRNA編集は起こっており、その場合は保存的なアミノ酸への修復が促されていることも分かりました。これらの発見は、アセトスポラのミトコンドリアにおけるRNA編集は修正すべき箇所をしっかり修正し機能的なRNA配列を維持する機能を担っていること示唆しています。一部のRNA編集(渦鞭毛藻の葉緑体ゲノムにおけるRNA編集など)が配列修復に貢献している可能性は、これまでにも議論されてきました。しかしながら、今回見つかったような編集箇所全てが非同義置換であり、祖先的なアミノ酸への明確な復元が数多く確認される例はこれまでに報告がありませんでした。DNAの突然変異は一定の確率で起こり続けており、生物にとって負の影響を与える突然変異もランダムに起こります。そのような変異は、その生物の生存にとって不利であることから、その生物集団の中に定着せず取り除かれていく運命にあります。しかしながらアセトスポラにおいてはそのような変異も、最終的に修復することが可能であるがゆえに、負の突然変異としてカウントされずに集団内に定着していると考えられます。本来は細胞死につながるような突然変異であってもRNAの段階で修復して生きるメカニズムは、運命に抗い生きる原生生物のしたたかな生存戦略であり、これまでの生物進化の常識に反する驚くべき現象です。
図6.本研究で扱ったアセトスポラ2株
東京湾表層、駿河湾水深200 mよりアセトスポラの培養株を確立することに成功しました。培養株は、2018年に我々が新しく開発し公表した培養方法を導入することで確立できました。
図7.本研究で明らかにしたアセトスポラにおけるRNA編集現象
DNA上で突然変異(DNA配列の変化)が起こると、起こった場所によっては、指定されるアミノ酸配列の変化が起こります。負の影響を伴う変化であった場合、その個体は生育不良あるいは死亡などの影響を受けます。アセトスポラは、RNA上で配列を補正することにより、その影響を無くすか軽減できる能力があります。
次に、このRNA編集現象を駆動する酵素の探索を進めたところ、2株それぞれからC→U置換に関わるPPR-DYWタンパク質遺伝子配列およびA→I置換に関わるADARに高い相同性を示すタンパク質(ADAR-like)の遺伝子配列を検出しました。PPR-DYWタンパク質は、配列情報にもとづきコンピュータ上で細胞内での局在場所を予測したところ、ミトコンドリア局在であることが推定され、実際にアセトスポラにおいてもC→U置換に関与している可能性が強く示唆されました(図8)。その一方で、ADAR-likeについては、コンピュータ上の解析ではミトコンドリア局在は支持されませんでした。そこで、研究が進んでいるヒトADARを認識する抗体を用いて間接蛍光染色※2 を行なったところ、抗ヒトADAR抗体はアセトスポラのミトコンドリアに局在するタンパク質を特異的に認識することが確認されました。このことは、アセトスポラのADAR-likeがミトコンドリアに局在している可能性を示唆しています。これらの結果から、アセトスポラのミトコンドリアではこれまで植物型C→U置換と後生動物型A→I置換とされていたメカニズムに関連した新しいシステムが駆動している可能性があります(図7)。このような組み合わせのRNA編集はこれまでに報告がなく、真核生物の細胞機能に関する新たな発見と言えます。
図8.アセトスポラにおけるPPR-DYWタンパク質およびADAR-likeの役割
発現遺伝子解析から、PPR-DYWタンパク質およびADAR様タンパク質(ADAR-like)の配列を検出しました。配列情報にもとづくコンピュータ解析とヒトADAR抗体を用いた間接蛍光染色によって、PPR-DYWタンパク質とADAR-likeはそれぞれミトコンドリアに局在することが示唆されました。アセトスポラでは、これまで植物型・動物型として認識されていた2つのRNA編集システムを活用していることが示されました。
さらに、今回検出されたアセトスポラのPPR-DYWタンパク質とADAR-likeの進化的起源についても解析を進めました。その結果、アセトスポラのPPR-DYWタンパク質と高い配列相同性をもつタンパク質をハラタケ目真菌※3 が有することが明らかになりました。これまでハラタケ目真菌のミトコンドリアにおいてPPR-DYWタンパク質によるC→U置換の報告はないため、この遺伝子の機能については今後の解析が待たれます。分子系統解析からは、アセトスポラとハラタケ目真菌のPPR-DYWタンパク質遺伝子は実際に姉妹関係にあることも分かりました。詳しい進化の順番は今回の解析では分かりませんでしたが、アセトスポラ・ハラタケ目真菌のいずれか一方の祖先生物に陸上植物からPPR-DYWタンパク質遺伝子の水平伝播※4 が起こり、その後そこからまた、アセトスポラの祖先→ハラタケ目真菌の祖先、あるいはその逆向きの水平伝播が起こったことが示唆されました(図9)。ADAR-likeに関する解析では、これまでに受け入れられてきた説とは異なり、複数の原生生物からADAR-likeの配列が検出されました。分子系統解析からは、ADAR-likeは単系統群を形成し、後生動物のADARと姉妹関係にあることが分かりました。これは、これまでの「mRNAにおけるA→I 置換は、後生動物の祖先で初めて誕生した」という常識を覆すものです(図9)。ADARおよびADAR-likeの祖先遺伝子は、真核生物の共通祖先の段階で存在しており、その段階で既にmRNAにおけるA→I 置換が起こっていた可能性が示唆されます。後生動物に近縁な系統である立襟鞭毛虫や真菌からADARおよびADAR-like遺伝子が見つからないことから、これらの生物では二次的に失った可能性が高いことも今回の解析からは示唆されます。今回新たに複数の原生生物より見出したADAR-likeの細胞内での局在や機能は現段階では不明です。アセトスポラのようにミトコンドリアで機能している可能性も排除はされませんが、既にミトコンドリアゲノムが解読されているにもかかわらず、RNA編集の存在を示唆する報告はない種が含まれることから、後生動物のように核や細胞質で機能している可能性も高そうです。これらの知見は、RNA編集現象そのものの多様性やその機能に関する理解は未だ限定的であり、これまでの想定以上にRNA編集に関する進化は複雑であることを示しています。
図9.PPR-DYWタンパク質およびADAR/ADAR-likeの進化史
公的データベースを精査した結果、ハラタケ目真菌もPPR-DYWタンパク質を有することを見出しました。ハラタケ目真菌のPPR-DYWタンパク質とアセトスポラのPPR-DYWタンパク質は進化的起源を共にし、いずれか一方の祖先生物に植物からの遺伝子水平伝播が起こったことが示唆されました。その後、ハラタケ目真菌あるいはアセトスポラへの祖先生物への水平伝播が連続して起こったと考えられます。また、ADARについても、広範な真核生物がADAR-likeを有することも分かりました。mRNAのA→I RNA編集の進化的起源はこれまでの想定よりもずっと古く、真核生物の共通祖先まで遡ると考えられます。
間接蛍光染色
特定のタンパク質を認識する抗体(一次抗体)と蛍光色素を持ち一次抗体を認識する二次抗体を用いた観察。これによって、研究対象タンパク質の細胞内での局在部位を把握することができます。
ハラタケ目真菌
担子菌門に属す分類群(目)。シイタケ、マツタケ、ホンシメジなど一般的に「きのこ」として認識される多くの種を含みます。
遺伝子の水平伝播
遺伝子が親から子へという垂直的な方向ではなく、異種生物間を跨いで水平的に移動する現象。他者のDNAが、捕食や感染などの何らかの要因で取り込まれることで起こると考えられています。
本研究でアセトスポラの培養方法が確立されたことで、今後より様々な研究が進展するでしょう。実験室内での感染実験などを通じて、寄生生物としてのアセトスポラの宿主生物への影響評価や自然環境中における生態学的な役割に関する理解も進むと期待されます。
今回見出したRNA編集現象に関しては、これがアセトスポラという生物群の中でどの程度保存された特徴であるのか、内部系統ごとに違いがあるのか、その理解に向けた研究進展が待たれます。近年行われた環境DNA解析※5 によって、現在認識されているアセトスポラの多様性は氷山の一角に過ぎず、数多くのアセトスポラ生物が未発見・未記載のまま自然環境中に残されていることが示されています。それら未だ認識に至っていない生物を含めたアセトスポラ全体における、RNA編集現象の多様性や生物としての生活様式の違い(寄生生物の場合は、宿主生物への依存度の違い、など)を理解していくことで、RNA編集機構の複雑化を駆動する進化的原動力や「変異を補正する」という機能の実際の貢献度に関する理解が進むと期待されます。また、アセトスポラ、ハラタケ目真菌、一部の原生生物より見出したPPR-DYWタンパク質およびADAR-likeの機能に関する研究も重要です。その理解が進むことで、真核生物全体というより大きなスケールでのRNA編集現象そのものとその役割に関する理解も大きく進展します。さらにそのメカニズムの詳細が理解されれば、新しい遺伝子工学技術の確立やミトコンドリアの機能に関係した一部疾患の治療法の確立につながる可能性もあります。
環境DNA解析
水中や土壌中など環境中に存在する生物由来のDNA(=環境DNA)を解析する手法。生物のフンや粘液などに含まれるDNAや微生物そのもののDNAを分析し、その情報から生物の在不在に関する情報を網羅的に取得することができます。シークエンス技術の進歩とともに、様々な活動の中で広く用いられるようになっています。
本研究のお問い合わせ先
報道担当