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オマーンオフィオライトの独立成分分析から推定した上部マントルの改変プロセス -マントル構成岩への独立成分分析(ICA)の適用-

2025.03.27
新潟大学
海洋研究開発機構

新潟大学大学院自然科学研究科博士前期課程の三木悠登、同大学自然科学系理学部の高澤栄一教授、海洋研究開発機構(JAMSTEC)海域地震火山部門の上木賢太副主任研究員、桑谷立グループリーダーからなる研究グループは、オマーンオフィオライト※1マントルかんらん岩※2 の組成を、独立成分分析(Independent Component Analysis; ICA)※3という数理解析手法を用いて解析しました。その結果、4つの独立した成分で、かんらん岩の組成の変動を説明できることが分かりました。これらの成分を鉱物の量や化学組成、岩石の主要元素・微量元素の含有量、空間分布などの観測結果と比較したところ、それぞれ異なる地質プロセスに対応していました。具体的には、(1) 拡大海嶺における無水融解※4、(2) 沈み込み帯におけるスラブ由来の流体を伴う含水融解※5、(3) 蛇紋岩化作用※6、(4) 岩石流体反応※7 です。本研究により、オマーンオフィオライトのマントルかんらん岩の組成変動は、主に拡大海嶺での溶融と、その後のプレートの沈み込みに伴う溶融及び流体との反応によって引き起こされたことが明らかになりました()。

本研究成果は、2025年3月25日、アメリカ地球物理学連合論文誌「Geochemistry, Geophysics, Geosystems」に掲載されました。

図1

図.本研究から解釈された北部オマーンオフィオライトの形成史
(a) 浅部での沈み込みの開始に伴い、高温のマントルが深部から上昇し、部分溶融が進行する段階、(b) プレートの沈み込みが進行するにつれ、スラブ由来の流体とかんらん岩の相互作用によって含水溶融が引き起こされ、蛇紋岩化作用や岩石流体反応が進行する段階

詳細は 新潟大学のサイトをご覧ください。

用語解説
※1

オマーンオフィオライト
プレートテクトニクスにより、海底にあった海洋地殻と上部マントルの一部が、断層によって大陸にのし上げ、地上に露出した地質体をオフィオライトと呼び、主にプレートの収束域に分布します。オマーンオフィオライトは1億年前にテチス海で形成した海洋プレートの断片がアラビア半島の東端に乗り上げたオフィオライトで、世界最大の露出規模を持ちます。

※2

マントルかんらん岩
上部マントルの最上部を構成する主要な岩石です。マグネシウムや鉄に富み、かんらん石、直方輝石、単斜輝石、スピネルなどを主要構成鉱物として含みます。オマーンオフィオライトのかんらん岩は、海嶺直下を上昇するマントルの部分溶融によって生じた溶け残り岩です。

※3

独立成分分析(ICA)
観測データが複数の独立な信号の線形混合で構成されていると仮定し、それらを統計的に独立な成分に分解する多変量解析手法です。目的は、データ中に隠れた「独立な情報(独立成分)」を抽出することです。例えば、パーティー会場で複数の人が同時に話しているとき、録音された音声には周囲の声が混ざっています。ICAを用いることで、この混ざった音声データから、それぞれの話し声を分離することができます。ICAは、統計的に最も独立している成分を探し出します。ここでの「独立」とは、各成分の分布の非正規性がなるべく高くなるよう最適化することを指します。ICAは複雑なデータから独立した情報を抽出する強力な手法で、さまざまな分野で応用され、データの背後にある本質的なパターンを明らかにするのに役立ちます。本研究は、世界で初めてICAをマントルかんらん岩の化学組成に適用しました。

※4

拡大海嶺における無水部分融解
海嶺は「開くプレート境界」とも呼ばれ、年間数センチメートルの速度で拡大しています。その拡大によって生じる隙間を埋めるように、深部から高温のマントルが上昇します。このマントル物質は圧力の低下に伴って、海嶺下約50kmの深さで部分的に融解を開始します。このとき、融解して生成されたマグマは密度が小さいため、周囲の固体マントルの間を上昇し、海嶺直下に集積します。そこでマグマは徐々に冷却・結晶化し、新たな海洋地殻を形成します。海嶺下のマントル物質は、水をほとんど含まない無水状態にあると考えられており、そのためこの部分融解は無水部分融解として知られています。

※5

沈み込み帯におけるスラブ由来の流体を伴う含水融解
海洋プレートの上面は海水と接することで、水を含んだ状態に変化します。この海洋プレートが収束境界で他のプレートの下に沈み込むと、次第に高温のマントルによって加熱され、プレート内の鉱物に含まれる水分が脱水反応によって放出されます。放出された水は周囲のマントルに供給されることで、融点を下げる役割を果たします。その結果、沈み込んだプレート(スラブ)の上盤側のマントルが部分的に融解し、マグマが生成されると考えられます。

※6

蛇紋岩化作用
かんらん岩の加水作用によって蛇紋岩が形成されるプロセスは、蛇紋岩化作用と呼ばれます。海嶺における部分融解の結果、溶け残ったマントル物質(かんらん岩)は海洋地殻とともに海洋プレートを形成します。海洋プレートの上面は海水と接することで、水を含んだ状態に変化すると同時に、温度が徐々に低下していきます。温度が600℃を下回ると、海洋プレートに浸透した海水とかんらん岩が反応して、蛇紋岩化作用が進行します。

※7

岩石流体反応
岩石が流体と高温で反応し、その結果として生じるさまざまな変化を「岩石流体反応」と呼びます。本研究では、沈み込んだプレートから放出された流体が上盤側のマントルに浸透し、かんらん岩と化学反応を起こす現象を指します。この反応によって、岩石中に新たな鉱物が結晶化したり、特定の元素の濃度が上昇または減少したりすることが確認されています。

国立研究開発法人海洋研究開発機構
海洋科学技術戦略部 報道室