高知大学 医学部外科学講座の高橋 迪子 特任助教および海洋研究開発機構海洋機能利用部門の平岡 聡史 研究員らによる研究グループは、細菌が持つファージ防御機構(制限修飾系)を乗り越えたファージが、感染指向性やDNAメチル化※1 パターンを変化させる現象の詳細を明らかにしました。
制限修飾系は多くの細菌が保有している、外来DNAの侵入を防ぐ機構の一つです。本研究グループは、ピロリ菌感染性のファージを用いて感染履歴の異なる複数のファージ株を作出し、それらの感染価※2 とエピゲノム※3 を解析しました。その結果、ファージ株は最終宿主に対してのみ高い感染価を示し、感染履歴に応じて異なる宿主指向性を得ることを明らかにしました。また、ファージ株のエピゲノムは最終宿主のエピゲノムとおおむね一致していることも判明しました。このことは、適応ファージが宿主保有の酵素を利用してDNAメチル化を獲得していたことを示唆する結果です。
本研究は、ファージと細菌の感染・防御を巡る競争の理解を深めるものです。本研究で得られた知見は、抗生物質耐性菌の代替治療法として近年注目されている、ファージ療法の設計に役立つことが期待されます。
本研究成果は、Cell Pressが発行する学術誌「iScience」に2025年3月22日付でオンライン掲載されました。
図. 本研究で実施したファージの多段階感染実験とエピゲノムの変化
DNAメチル化
メチル基(-CH3)がDNAを構成する塩基に付加される化学修飾。DNAメチル化酵素の働きにより、DNA複製後に修飾が施される。真核生物や原核生物、ウイルスなどに広くみられる。
感染価
ウイルス(ファージ)の感染力を表す指標。ウイルスは小型であるため、顕微鏡で個数を数えることが難しい。そこで、細胞がウイルス感染によって壊れる現象(細胞変性)を利用することで、感染力のあるウイルスの個数(感染価)を測定する。
エピゲノム
DNA化学修飾を受けたゲノムのこと。エピゲノムによって、塩基配列は変えずにゲノム情報を変化させることができる。遺伝子の発現制御や制限修飾系など、様々な生理機能に関与する例が知られている。
詳細は 高知大学のサイトをご覧ください。