衛星通信により遠隔地から操縦する無人ヘリコプター(大型ドローン)の船上運用により、絶海の無人島での火山観測を初めて成功させた
無人ヘリコプターの長い航続距離と、衛星通信での操縦によって、接近が困難な火山島でも広範囲の観測が可能となった
小型・中型ドローンと組み合わせることで、様々な調査を効率的に実施出来る可能性を示した
国立研究開発法人海洋研究開発機構(理事長 大和 裕幸、以下「JAMSTEC」という。)海域地震火山部門火山・地球内部研究センターの吉田 健太副主任研究員、多田 訓子副主任研究員、赤松 祐哉研究員、国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院環境学研究科の市原 寛講師らは、株式会社JDRONE・有限会社テラテクニカと共同で、海域で発生する火山活動の調査・モニタリングのため、無人ヘリコプター(大型ドローン)を研究船から発着させ、陸地からの遠隔操縦によって火山観測を行う手法の確立に取り組みました。実際の海域火山観測航海中に、衛星通信式の無人ヘリコプターを海底広域研究船「かいめい」の甲板から発着させ、従来困難であった離島火山の観測を安全かつ効率的に行えることを実証しました。
近年広く利用されるようになった一般的なドローンはバッテリーによるモーター駆動で航続時間が短く(20分程度)、操縦者の操作するコントローラから発せられる電波で直接操縦するため、電波の届く距離の範囲内(2~4km程度)でしか飛行できません。一方で、衛星通信式の無人ヘリコプターはエンジン駆動のため航続時間が90分程度と長く、離陸後に陸上の基地局からの遠隔操縦に切り替わるため、母船から距離のある島の観測を行うことが可能です。今回の観測では福島県南相馬からの衛星通信を通じて遠隔操縦し、小笠原諸島で断続的な噴火を見せる西之島を対象に、無人ヘリコプターから吊り下げた磁気センサーを使用して、約4km×6kmの範囲の磁気分布をマッピングすることに成功しました。これは、従来のドローンを用いた手法では達成が非常に困難な観測であり、今後他の観測装置を用いた離島火山観測への応用が期待されます。
なお、本研究は、環境再生保全機構が実施する「環境研究総合推進事業(JPMEERF20244002)」、日本学術振興会が実施する「科学研究費助成事業(JP24K00743)」の支援を受けたものです。
図1 本発表で実施した観測の概要。「かいめい」による西之島調査航海で、無人ヘリコプターを船上から離陸させ、衛星通信による操縦で火山観測を実施した。
2013年から断続的に見られる西之島の噴火や、2021年の福徳岡ノ場の噴火と軽石漂流など、近年、伊豆・小笠原諸島の離島火山や海底火山の大きな活動が見られ、海域での火山活動が周辺のみならず遠地に住む人々にも影響を与える場合があることがわかってきました。噴火活動が見られる離島火山は上陸の機会が限られることから、調査機器を設置しての直接的な観測を実施することが困難であり、研究船での周辺観測やドローンなどを活用した遠隔観測が主たる調査手段となっています。
西之島は、海底からの高さで言えば富士山に匹敵する巨大な火山であり、これまでに実施してきた西之島の観測航海では、西之島の海面下の部分を研究船で調査するとともに、ドローンを活用して、火山島内の岩石・火山灰採取や、島近傍での変色水の採水を実施しました。また2019年には、西之島の上空で磁気センサーを吊り下げた中型のドローンを繰り返し飛行させることで、島内の磁気分布を面的に把握する空中磁気測量を実施し、山体内部のマグマ溜まりの位置を推定しました文献1。しかしながら、西之島はその後2020年に爆発的な噴火を見せると、島のサイズがそれまでの1.8km四方から2.5km四方程度にまで拡大し、現在ではドローンで島全域を観測することは困難となっています。
無人ヘリコプター(大型ドローン)は、ガソリンエンジンで駆動するため航続時間が長く(60分~90分程度)、巨大化した西之島のような比較的広い火山島であっても、一定の安全距離を保った船からの発着で観測を実施でき、操縦者の位置に依存しない衛星通信式の機体をツールとして検討しました。候補とした無人ヘリコプター「YAMAHA FAZER R G2」は、海底広域研究船「かいめい」から発着可能で、操縦者は陸上の運用基地から衛星通信を介して送られるカメラ映像を見ながら遠隔操縦することができます。
我々は今回、衛星通信を用いた無人ヘリコプターの船上運用により巨大化した西之島を網羅する上空からの観測を実施しました(図2)。海底広域研究船「かいめい」で西之島の調査に向かう海上班と、福島県南相馬でヘリ操縦を担当する陸上班の協力体制の下で、火山島への接近~ヘリ発進~観測を実施する初めての試みでした。船上からの無人ヘリコプター発進と、衛星通信による操縦を組み合わせは、西之島に限らず、どのような海域に於いても火山島に対して自由にアプローチする新たな観測手段を開拓したと言えます。
図2 (上)本観測で使用した海底広域研究船「かいめい」および無人ヘリコプター(YAMAHA FAZER R G2)。(下)「かいめい」船上より無人ヘリコプターを離陸させ、島の観測に向かわせる様子。
西之島での観測は2025年3月に実施しました。海上班には、無人ヘリコプターの現場運用に精通した専門パイロットと、磁気センサーによる観測を行う地球物理学研究者が参加しました。「かいめい」船上の海上班と南相馬の陸上班は衛星通信経由のWeb会議でつなぐことで、細かな情報交換を行いながらオペレーションを行いました。
無人ヘリコプターは、「かいめい」船上の海上班の直接操作によって離陸させました。一定の高度まで上昇した後は、南相馬の陸上班からの衛星通信操縦にバトンタッチして観測に向かいます。その後、無人ヘリコプターは地面から高度200m程度の高さを、予め設定していたコースに沿って飛行し、飛行中は陸上班がカメラ越しの映像を確認しながら適宜飛行コースの調整を行いました。約90分のフライトごとに燃料補給や磁気センサーの整備で「かいめい」船上に着陸するため、都度、船上の海上班が操縦を引き継ぎ、「かいめい」の甲板に着陸しました。
空中磁気測量は、磁気センサーを無人ヘリコプターから約5mのケーブルで吊るして、対象領域(今回は西之島)の上空を飛行させることで、地磁気の分布を調べます。地磁気は通常は南北方向を向いていますが、地下にある岩石やマグマの磁気的性質によって局所的に磁気の向きや強さが異なる場所(磁気異常)が見られることがあります。この磁気異常の分布から、火山の内部のマグマ溜まりの形や大きさを調べることが出来ます。磁気異常を正確に調べるためには、センサーを一定の速度で安定して動かす必要があります。無人ヘリコプターは、風などの条件を見ながら安定して飛行をコントロールできるため、空中磁気測量に適したツールであると言えます。
今回の観測では、気象条件を見ながら3日間で8フライトを実施し、無人ヘリコプターの高い航続能力を活かして島の上空全域をカバーする空中磁気測量を実施することができました(図3)。
また、地面が揺れると無人ヘリコプターの発着が困難になりますが、不安定な船上で揺れやうねりがあっても、ある程度の範囲であれば問題なく発着が可能なことがわかりました。さらに、無人ヘリコプターが約90分のフライトを実施している間に、島の沿岸域に中型~小型ドローンを飛行させて、1フライト10~20分程度で変色水の採水や地形測量などの従来の火山観測を並行して行い、効率的な観測を実施できることも確認できました(図4)。
図3 本観測で得られた西之島上空の磁気分布。島の全域と一部周辺海域をカバーする高品位なデータが得られた。
図4 無人ヘリコプターの観測中に変色水の採水のため発着する採水用ドローン、および今回の調査で採水を実施した西之島沿岸域(ドローンによる撮影)。濃い茶色に濁った場所を狙って採水を実施した。
空中磁気測量によって得られた西之島の磁気分布は、詳細な解析が可能な品質であることが確認できました。これまでの研究文献1 で地下構造を推定した手法をさらに改良して観測データの分析を進め、2020年の爆発的な噴火のあとに西之島の内部がどのように変化したのかを明らかにしていく予定です。
また、今回の観測によって無人ヘリコプターによる広域的な観測と従来のドローン観測を組み合わることで、活動的な火山島に対する様々な観測を効率的に実施出来ることを実証することができました。今後、離島火山の活動に関する調査を迅速に行うために、無人ヘリコプターとドローンを併用した観測が威力を発揮することが期待されます。
Tada et al. (2021) Magnetization structure of Nishinoshima volcano, Ogasawara island arc, obtained from magnetic surveys using an unmanned aerial vehicle. Journal of Volcanology and Geothermal Research, 107349. DOI:10.1016/j.jvolgeores.2021.107349
※本観測に関する資料映像は、以下のURLからご覧いただけます。
https://youtu.be/pHHz6TZsCAg
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