東京大学生産技術研究所のコクヮン アレクサンドル特任助教、芳村圭教授と、福島大学環境放射能研究所 グシエフ マキシム特任准教授、海洋研究開発機構 小室芳樹 副主任研究員、国立極地研究所 小野純 特任准教授は、福島第一原子力発電所(以下、福島第一原発)からの処理水放出による海洋中のトリチウム濃度を、最新の全球海洋モデルを用いて評価し、25km以遠では濃度が検出限界以下にとどまるとの結果を得ました。
福島第一原発から海洋放出される処理水に含まれるトリチウムの海洋中での分布・濃度が21世紀中にどのように推移するかを評価するために、実際の放出計画を基に、全球海洋大循環モデルCOCO4.9※1 を用いてシミュレーションを実施しました。結果によると、多核種除去設備(以下、ALPS)処理水由来トリチウムによる太平洋海水中の濃度上昇は、放出場所付近(25 km以内)以遠では背景トリチウム濃度※2 0.03~0.2 Bq/Lに対して0.1 %程度かそれよりも少ない増加でした。トリチウム濃度の国際安全基準はWHOによれば10,000 Bq/Lとなっています。さらに、地球温暖化による海洋循環の変化や、細かいスケールの海洋渦による拡散促進効果を考慮しても、濃度への影響は限定的でした。これらのシミュレーション結果は、処理水の海洋放出の数十年スケールの動態を理解するのに役立ちます。
本研究成果は、2025年7月2日(水)付けMarine Pollution Bulletin誌に掲載されました。
図. トリチウム(3H または T と表記)は、水素(1H)の希少な放射性元素です。化学的に水素に類似しているため、環境中での移動性が高く、その99%以上はトリチウム水(HTO)の形で存在しています。これは、ALPS処理水に含まれるトリチウムの形態です。
全球海洋大循環モデルCOCO4.9
海洋研究開発機構と東京大学などが共同で開発している、海洋・海氷の物理的ふるまいを地球全体の規模でシミュレートする数値モデル。
背景トリチウム濃度
水中(海水中)に含まれる、天然のトリチウムおよび1950~60年代の大気圏内核実験や正常に運転されている原子力施設によって排出された人為的なトリチウムをあわせた含有量のこと。
詳細は東京大学のサイトをご覧ください。