21世紀に入り、系外惑星(太陽系の外にある恒星を公転する惑星)が続々と発見されつつあります。それらの中には太陽系内の惑星と大きく異なる特徴を持つ惑星も数多く見つかっているのですが、その中には主星近傍を公転していて潮汐固定(地球に対する月のように、常に同じ側を向けながら主星の周りを公転すること)されていると考えられている惑星が見つかっています。そのような場合、中心恒星を向いている側は常に“昼”が続き、反対側は常に“夜”が続くと考えられます。そのような惑星の昼夜面間温度差は(恒星からの距離にもよりますが)千度以上にもなるという見積もりもあります。太陽系内にはこのような惑星は存在せず、そのためその惑星環境はどのようなものなのかは惑星科学分野において注目を集めています。
ところで、地球のような岩石型惑星の内部のマントルは通常対流運動を起こしており、惑星内部の熱を表面に逃がしています。例えば地球ではその対流は、火山・造山・断層・プレート運動などの駆動源となること、また表層-内部間の物質循環を駆動すること等を通じて、惑星表層環境に影響を及ぼしています。つまり惑星内部の対流の様相について理解することは、その惑星の表層環境を理解する上で必要なピースの一つです。
地球では、マントル深部と表面の鉛直方向の温度差は約三千度です。この温度差が対流運動を引き起こしているのですが、潮汐固定された惑星における昼夜間の千度以上の温度差というのは、この鉛直温度差に匹敵する見積もりです。このような惑星の場合、鉛直方向と共に水平方向(昼夜間)の温度差が存在する下での対流となり、その様相は例えば地球とは大きく異なるであろうことが予想されます。しかしながら、このような惑星は太陽系内には存在しないこともあり、水平方向にもそのような大きな温度差を持つ場合の惑星内部対流については鉛直方向温度差のみの場合の内部対流の場合と比較すると、まだまだ研究が進んでおらず充分な理解が進んでいません。
そこで本研究では、このような鉛直方向にも水平方向にも大きな温度差を持つ条件下での対流を、室内実験により理解する事を試みました。実験装置となる容器は直方体で惑星半球領域を模擬することを想定し、鉛直方向・水平方向共に独立に温度差を維持できるように設計されました。容器内をマントル物質を模擬した高い粘性を持つ流体で満たし、その対流運動の特徴を調べました。潮汐固定された惑星は地球と異なる大きさを持つ(主に大きな)岩石型惑星が見つかっており、惑星の大きさは(鉛直方向および水平方向それぞれに対して定義される)レイリー数※1 という、対流を理解する上で鍵となるパラメータに影響を与えます。また水平方向の温度差は同様に水平方向のレイリー数に影響を与えます。惑星の大きさ、および昼夜間の温度差は惑星によって様々な組み合わせが考えられるため、実験もそのような惑星毎に異なる多様な熱環境を想定し、これらについて様々な多数の組み合わせに対して実験を行いました。
その結果、ほぼ全ての鉛直・水平レイリー数の組み合わせで、マントル上部で昼→夜方向、マントル深部で夜→昼方向に向かい惑星半球を周る循環流が観察されました。これは実験を実施した範囲において高い鉛直レイリー数を持つ場合でも同様です。この循環流に伴い、惑星の昼側の中心付近にはマントル深部からの強い上昇流が、夜側の中心付近は逆にマントル深部に向かう下降流が、それぞれ安定的に持続して形成されることが分かりました。このような大規模な循環流を伴う対流は、通常知られている地球のマントル対流の様相とは大きく異なるものです。
またこの大規模循環流は、惑星が昼側で受けた熱を夜側に効率よく輸送し、その結果地熱流量としては夜側の方が大きくなることが分かりました。このような潮汐固定の惑星では、真昼側では(仮に水が最初あったとしても)すべて蒸発しきってしまって乾燥しており、昼夜の境界から夜側に向かうに従って(もし水が存在したとしても)凍り付いていると考えられますが、本研究の実験結果によると、昼夜境界領域への適度な地熱流量が継続的に供給されることで、液体の水の存在する領域が拡がることが示唆されます。この結果は、一見このような過酷な環境を持つ惑星であっても、(液体の水の存在という観点のみからではありますが)何らかの生命の存在の可能性を完全に否定するものではない事を示唆しています。本研究の成果は現在惑星科学分野の一大関心事となっている、生命の存在する系外惑星探査に対しても一つの手掛かりを与えるものです。
またこのような大規模循環流は太陽系内の惑星内部には見られないものであり、その特徴からは昼側中心付近に巨大火山が形成され火山活動がその領域に集中する可能性が高いこと、および火山活動にも影響を与える対流の活発さの時間的な変動は、定常的-周期的-非定常的という三パターンに分類できることが分かりました。このような火山活動の局在化と各々の活動パターンの特徴、及びそれに伴う地表堆積物や大気成分の変動などは、現在は系外惑星において直接観測することは出来ませんが、将来的に直接的あるいは間接的な観測技術の進展により発見される日が来るかもしれません。これらは表層環境に大きく影響すると考えられますがその内容は現段階では未知数であり、さらなる研究の発展が期待されます。
水平・鉛直両方向のレイリー数によって対流の活発さや地熱流量が変化するのですが、その変化の仕方はこの両レイリー数を統合した一つのレイリー数によって理解できることが示されました。これは鉛直方向レイリー数に、水平温度差の影響を加味したもので示されます。この現象を支配する一つの本質的な量を発見出来たことにより、さまざまな温度差の組み合わせを伴うさまざまなサイズの惑星であっても、この量が大体同じであれば対流の様相もほぼ同様になる事が分かり、現象の理解を大きく前進させました。
本成果は、「Nature Communications」に7月25日付け(現地時間)で掲載されました。
Convective Dynamics in Mantle of Tidally-Locked Exoplanets
図1: 室内実験で模擬した系外惑星のマントル対流(左)と半球への投影(右)。実験では温度に対応した色を発色する感温液晶粒子を分散させた高粘度液体でマントルを模擬した。水平温度差を昼夜間温度差、鉛直温度差を惑星表面から核-マントル境界の温度差に見立てることで、左図では左半分を昼側、右半分を夜側と解釈できる。ほぼすべての温度条件で上昇流と下降流の位置が固定化され、大規模循環流が形成された。半球形状の系外惑星内部に投影すると、恒常的な大規模循環流のために、恒星点下の真昼の領域では活発な火山活動が期待され、昼夜境界付近では適度な地熱流量による液体の水の存在可能性が示唆される。
レイリー数
対流の活発さを表す指標で、分子が系の温度差と系のスケールの3乗に比例する。本文中では水平~、および鉛直~ という言葉を使用しているが、この場合の温度差や系のスケールはそれぞれの方向のものを使用する。分母は熱および運動の拡散係数の積である。
英語による研究紹介は ペンシルベニア大学のページをご覧ください。
報道担当