国立極地研究所の二村 康平 特任研究員(研究当時:名古屋大学大学院環境学研究科)、大阪公立大学大学院理学研究科の奥平 敬元 教授および名古屋大学大学院環境学研究科の道林 克禎 教授(海洋研究開発機構地震火山部門客員研究員)らの共同研究グループは、海洋下部地殻の斜長石に応力腐食割れ注1)の証拠を新たに発見しました。
応力腐食割れとは、流体の存在下で鉱物中の亀裂が低い応力でもゆっくり進展する現象であり、岩石の脆性的な変形を促進する過程として知られています。これまで天然岩石における応力腐食割れの証拠は、主に大陸・島弧地殻を形成する花崗(かこう)岩質岩石で報告されてきました。一方、海洋下部地殻を形成するハンレイ岩では、試料取得の難しさや海底での変質作用により証拠が消失するため、その直接的な証拠はこれまで報告されていませんでした。
本研究では、フィリピン海四国海盆の海洋コアコンプレックス注2)であるマドメガムリオンから採取されたハンレイ岩中の斜長石に、SEM–EBSD–EDS法注3)を適用して結晶方位と化学組成を分析しました。その結果、斜長石の結晶学的弱面が組成変化と対応することが分かりました。このことから、結晶学的弱面が流体の侵入経路となり、応力腐食割れが進行した可能性が示されました。
今後、他の海洋下部地殻試料の斜長石を解析することで、応力腐食割れが海洋下部地殻において普遍的な現象であるかどうかや、岩石の力学的挙動および透水性の変化にどのように寄与するのかを明らかにしていくことが期待されます。
本研究成果は、2026年6月22日18時(日本時間)付、Springer Nature社の科学誌『Scientific Reports』に掲載されました。
図1 左:斜長石の化学組成マップ、右:応力腐食割れの概念図
応力腐食割れ
流体の存在下で、鉱物中の亀裂先端に化学反応が生じることにより、通常であれば破壊に至らない低い応力条件でも亀裂がゆっくり進展する現象。
海洋コアコンプレックス
海底拡大に伴う大規模な正断層運動によって、海洋下部地殻や上部マントルを構成する岩石が海底に露出した地質構造。海洋地殻深部の岩石を直接調べることができる重要な場所である。
SEM–EBSD–EDS法
走査型電子顕微鏡(SEM)に、結晶方位を調べる電子線後方散乱回折法(EBSD)と、化学組成を調べるエネルギー分散型X線分析(EDS)を組み合わせた同時分析手法。主に金属材料などの分析で用いられてきた手法であり、本研究では斜長石の結晶方位と化学組成の分布を同じ領域で比較するための解析手法として適用した。
詳細は名古屋大学のサイトをご覧ください。