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機械学習分野のトップカンファレンスICML2026に採択 ―物理法則と整合する機械学習シミュレーションの理論Mesh Field Theoryを提案―

2026.07.02
国立研究開発法人海洋研究開発機構

1. 発表のポイント

  • 物理シミュレーションを行う際に、メッシュ※1上の物理現象データ※2に対する新たな表現理論であるMesh Field Theory (MeshFT)を提案し、物理法則と整合する機械学習モデルMeshFT-Netの設計指針を示しました。本研究成果は、採択率26.56%(23918件中6352件)の機械学習分野のトップカンファレンス「ICML2026」(The Forty-Third International Conference on Machine Learning)に採択されました。
  • MeshFT-Netが、既存の機械学習モデルと比較して、長時間の予測の安定性、少ないデータで効率的に学習できる性能、学習時と異なる条件に対する予測精度に優れていることを、数値実験により示しました。
  • 本研究は、機械学習を用いた物理シミュレーションを、物理現象データの構造を厳密に反映した数値計算へ発展させる基礎となるものです。今後、海洋科学、地球科学、生命科学など幅広い自然現象に対して適用可能な、データに親和的かつ物理法則に整合した汎用的な科学計算基盤の基礎理論になることが期待されます。

2. 概要

国立研究開発法人海洋研究開発機構(理事長 河村 知彦、以下「JAMSTEC」という。)情報地球科学研究部門 数理科学・先端技術研究開発センターの野口聖史研究員らは、メッシュ上で表される物理現象の時間発展に対する新たな表現理論Mesh Field Theory (MeshFT)を提案しました。

本研究は、「ICML2026」(The Forty-Third International Conference on Machine Learning)に採択されました。ICMLは毎年開催される機械学習分野で最も権威ある国際学会の一つであり、論文投稿23918件に対し、26.56%にあたる6352件のみが採択されました。本成果は、2026年7月6日から7月11日まで韓国ソウル市で開催される同会議において発表されます。本研究は、JSPS科研費JP26K21327、JP22H05106、JP26H02498の助成を受けたものです。

図1

図1. Mesh Field Theoryの概念図。相互作用の局所性、ラベリング及び向き付けに対する対称性、エネルギーの非増大性を仮定すると、ダイナミクスが局所的にポートハミルトニアン※6形式に還元される。さらに、保存的な相互作用を記述する行列Jの構造が、向き付けと隣接関係から一意に決定されることが示された。つまり、Jの構造はハードに固定され、学習対象にはならない。この構造制約が、機械学習モデルの物理法則との整合性を担保する。

論文情報
タイトル

Mesh Field Theory: Port–Hamiltonian Formulation of Mesh-Based Physics

著者
野口聖史1,3、河原吉伸2,3
所属
  1. 海洋研究開発機構
  2. 大阪大学
  3. 理化学研究所 革新知能統合研究センター

3. 背景

計算機を用いた物理シミュレーションは、流体、固体、電磁気などの物理現象を理解する上で最も基本的なアプローチの一つであり、これらの現象の解析・理解を基礎とする海洋科学、地球科学、材料科学など様々な学問領域を支える基盤技術です。これらの物理現象を、計算機を用いて数値的に解析する際、多くの場合、空間を四面体や三角形などによってメッシュに分割して、物理現象を数値的に解ける形に表現します。伝統的に、現象を記述する微分方程式(支配方程式)の数値解析を基礎とする解析が行われてきました。近年、計算の高速化や支配方程式が未知の場合の解析を目的として、機械学習を用いて、物理現象の時間発展をデータから予測する研究が大きく進展しています。しかし、これらのアプローチは、データから直接、時間発展を獲得する高い柔軟性と広い守備範囲を有している一方で、物理法則と整合する保証はないため、エネルギーの不自然な増加や発散、非物理的な予測などが大きな課題でした。

物理法則との整合性の担保は、解析の精度だけでなく解析そのものの信頼性にも影響するため、機械学習モデルに物理法則を埋め込む様々な研究が議論されてきました。その多くが、対象とする物理現象の支配方程式や構造(ハミルトン構造など)を既知として、それを何らかの方法で学習モデルに埋め込む研究でした。そのため、構造が未知の系に対する適用が難しいなどの課題があり、機械学習モデルの柔軟性を保ちつつ、物理法則との整合性を厳密に担保する枠組みの構築が求められてきました。

こうした課題に対して、本研究では、相互作用の局所性、メッシュの番号や向きの取り方を変えても物理現象が不変であること、外部からエネルギーが流入しない場合にはエネルギーが不自然に増えないこと、という普遍的な物理原理から、これらの原理を満たすメッシュ上の一般的な物理現象データが、局所的にポートハミルトニアン※6形式へ還元されることを理論的に示しました。この結果に基づき、メッシュ上の物理現象データを物理法則と整合する形で表現する理論MeshFTと、そのニューラルネットワーク※8による実装であるMeshFT-Netを提案しました。

4.成果

本研究は、幾何学的な分析から、物理現象データの新たなニューラル表現(数値表現)※7であるMesh Field Theory (MeshFT)を提案しました。MeshFTでは、対象固有の支配方程式や構造を既知と仮定することなく、普遍的ないくつかの物理原理のみを要請すると、その原理を満たすメッシュ上の一般的なダイナミクスが、局所的にポートハミルトニアン形式に還元されることを理論的に示し、定理として提示しました。重要なポイントとして、この還元によって、メッシュ上の物理データのトポロジー※3(物理現象の骨格)と計量※4構造(エネルギーや物理量の尺度)が厳密に分離され、そのトポロジー構造が、メッシュに含まれる図形(点、辺、面)の向きや隣接関係から一意に決定されることを示しました。この還元を基礎として機械学習モデルを設計する際に、トポロジー構造は学習対象にならず、計量構造のみが学習対象となることを明確に提示しました。つまり、物理法則と整合するために、対象固有の支配方程式などを与えることなく、どの構造は学習によって調整して良く、どの構造は固定すべきか、を明らかにした点が革新的です。

この還元を基礎とする機械学習モデルであるMeshFT-Netは、既存モデルと比較して、高い長期安定性とデータ効率性、堅牢な外挿性などを有していることが数値実験を通して明らかになりました。さらに、トポロジー構造の固定の結果、空間の並進対称性に由来する保存量※5である運動量は、明示的な条件として与えていないのにも関わらず、自然に保存されることが示され、本研究で提案する機械学習モデルが物理法則とよく整合することを示しています。

用語解説
※1

メッシュ
数値解析の対象となる空間を、三角形や四面体などを用いて分割したもの。

※2

物理現象データ
圧力や温度、波の高さなど、自然現象の状態を数値で記述したもの。例えば、海の各地点で波の高さを計測し、並べたものなど。

※3

トポロジー
「つながり方」に関する情報。例えば、メッシュに含まれる図形の隣接関係などがトポロジー構造。個々の図形の大きさや形状は異なっていても、隣接関係が同じであれば、トポロジーは同じ。この構造が物理現象の骨格を決める。

※4

計量
大きさや形状に関する情報。例えば、個々の図形のサイズや、図形間の距離は計量構造に含まれる。物理現象では、エネルギーの測り方や材料の性質(構成則)などが該当する。この構造が、それぞれの物理現象の性質を決め、学習によって獲得されるべき構造。

※5

保存量
現象の時間発展に伴って値が一定に保たれる量。例えば、特定の系ではエネルギーや運動量などが保存量になる。保存量は、その現象を特徴付ける重要な量であり、保存量が変動してしまうことは、数値計算の長期安定性や信頼性を著しく損なう。さらに、保存量は系の対称性と深く関連することが知られている。

※6

ポートハミルトニアン
物理系のエネルギーを中心に、保存的な相互作用、エネルギーの散逸、外部との入出力を統一的に記述するための数理的な枠組み。ここでの「ポート」とは、外部とエネルギーをやり取りする出入口を意味する。

※7

ニューラル表現
ここでは、物理現象などを、計算機上で扱える数値的な形として表したものを指す。たとえば、温度、流速、圧力などの物理量は、格子点上(メッシュ上)の数値データとして表現できる。

※8

ニューラルネットワーク
単純な計算を層状に積み重ね、データからパターンを学習して入力を出力にマッピング(変換)する機械学習モデルです。例えば、入力としてある位置・時間を与えた時に、与えた位置と時間における物理量(圧力や温度、流速など)を出力する。

5. 今後の展望

本研究は、機械学習を用いた物理シミュレーションを、単なるデータ近似から、物理現象データの構造を厳密に反映した数値計算へ転換するものです。MeshFTは物理現象のニューラル表現の基礎学理を与え、データ科学の柔軟性と伝統的な数値計算の堅牢性を両立する新たな方法論となることが期待されます。物理現象データのトポロジーと計量を分離し、骨格として固定すべき構造と対象ごとに学習すべき構造を明確にすることで、信頼性の高い数値解析のための機械学習モデルへつながります。今後は、本理論をJAMSTECが蓄積してきた海洋科学・地球科学・生命科学データへ適用し、観測データと数値シミュレーションを物理法則と整合する形で統合する科学計算基盤の構築へ展開されます。具体的には、複雑な自然現象のデータに対して、物理現象の骨格となる構造とデータから学習すべき性質を分離して扱うことで、少ない観測データからでも安定かつ信頼性の高い予測・解析につなげます。これにより、海洋・地球・生命システムの理解と予測に資する、物理学とデータ科学を融合した新たな科学計算基盤の創出に貢献します。

お問い合わせ先

国立研究開発法人海洋研究開発機構

(本研究について)

情報地球科学研究部門 数理科学・先端技術研究開発センター
研究員 野口 聖史

(報道担当)

企画部門 事業推進部 報道室