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プラスチック製ボトルキャップに乗ったゴカイ達の航海記録 ~付着生物相・同位体分析・海流モデルから海洋ごみ生態系の漂流の道のりを推定~

2026.07.10
名古屋大学
産業技術総合研究所
国立科学博物館
海洋研究開発機構
京都大学
福井県立大学

これまで海面を漂うプラスチックから付着生物が見つかることは知られていましたが、一つのプラスチックごみに着目して、そこに暮らす生物群集、環境変化及び漂流の経路を読み解いた例は多くありませんでした。

名古屋大学、産業技術総合研究所、国立科学博物館、海洋研究開発機構(以下「JAMSTEC」)、京都大学、福井県立大学の共同研究グループは、JAMSTECの海底広域研究船「かいめい」による海洋汚染物質の実態把握及び海洋生態系への環境影響評価を目的とした調査航海において、高知県南東方の沖合海域で回収した直径約3.5cmのプラスチック製ボトルキャップに、ゴカイ類、有孔虫※1、コケムシ、フジツボ、扁形動物などが共存する小さな生態系が形成されていることを明らかにしました。

キャップの内部には、これまで日本から記録のなかった体長約9 cmのゴカイ Eunice bipapillata(写真は図解要約中の「付着生物相」F)が作った巣が広がり、本来は平滑なプラスチック表面を、隙間と足場に富む三次元の生息空間へと変えていることが確認されました。またその内部や表面からは、沿岸の海底や岩礁に暮らす生物を含む9分類群・307個体が確認されました。キャップの外側にはラベルがあり、フィリピン周辺で捨てられたと考えられました。

さらに本研究では、生息していた底生有孔虫の殻の酸素同位体比分析※2から経験してきた水温を推定し、海流に基づく漂流シミュレーション※3と照合しました。その結果、このキャップはフィリピン周辺から黒潮系の流れに乗って約70日間北上した可能性が高く、小さなプラスチック片でも、数カ月規模で生物群集を維持しながら移動し得ることが示されました。

ボトルキャップのような「小さな海洋ごみ」がどのように海洋生態系に影響を及ぼすかはよく分かっていなかったのですが、本研究により、ゴカイなどの「生態系エンジニア」※4が内部に入ることで、生態系ごと長距離・長期間輸送できることを明らかにしました。生活の中で気軽に捨てられてしまいやすい小さな海洋ごみは、海洋生態系の保全を考えるうえで無視できない存在であることを示しています。

用語解説
※1

有孔虫
海に多く生息する単細胞生物の一群。石灰質の殻をつくる種では、その成長に伴い水温などの環境情報が殻に記録される。

※2

同位体比分析
元素のわずかな質量差をもつ同位体の比を測定し、生物が経験した環境や物質循環の手がかりを得る方法。

※3

漂流シミュレーション
本研究ではラグランジュ漂流シミュレーションを用いた。海流データに仮想的な粒子を流し、漂流物がどのような経路をたどりうるかを再現する解析。

※4

生態系エンジニア
生息地を改変または創造する生物のこと。生態系エンジニアがいることによって、他種の生息地が生まれたりすることから、生物多様性の創出・維持において重要な役割を果たす。例:サンゴ礁のサンゴは多くの生物が住む構造物となることから、生態系エンジニアである。

図解要約

発表の図解要約

この研究成果は、「Marine Pollution Bulletin」に2026年7月7日に掲載されました。

詳細は名古屋大学のサイトをご覧ください。

国立研究開発法人海洋研究開発機構
海洋科学技術戦略部報道室