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高解像度海洋モデルによる温暖化時の日本沿岸の海面水位変化の予測 ―黒潮流路の変化がもたらす地域差―

2026.08.07
国立研究開発法人海洋研究開発機構

1. 発表のポイント

  • スーパーコンピュータ「地球シミュレータ」を用いた海洋モデルCOCO※1アンサンブルシミュレーション※2により、温暖化時の黒潮流路を高解像度に再現して、将来の日本周辺の力学的海面水位※3変動を予測した。
  • 本研究では、温暖化に伴う風の変化により、黒潮続流が北上し、その結果、日本沿岸において北太平洋平均の海面水位上昇を数センチ程度上回る海面水位変化が予測された。
  • アンサンブルシミュレーションの結果、海洋の内部変動(海洋が自発的に生み出す自然変動)の影響を受けている黒潮大蛇行の統計的な発生頻度が減少し、東海沿岸と四国沿岸の海面水位上昇の違いに影響することを示した。
用語解説
※1

COCO
JAMSTECと東京大学大気海洋研究所などが共同で開発している海洋大循環モデル。気候研究などにも用いられている。

※2

アンサンブルシミュレーション
シミュレーションの初期値や条件にわずかなズレ(誤差)を与えて、複数回の計算を行う手法。予測結果のばらつきや平均を統計的に処理することで、現象の発生確率や予測の信頼度(アンサンブル幅)を評価する。

※3

力学的海面水位
海流や海洋循環の変化によって生じる海面水位の変化。海水の熱膨張や氷床・氷河の融解による空間的に一様な海面水位上昇(海面上昇)は含まない。このため、本研究では北太平洋平均からの差に着目している。

2. 概要

国立研究開発法人海洋研究開発機構(理事長 河村知彦、以下「JAMSTEC」という。)地球環境研究部門環境変動予測研究センターの鈴木立郎グループリーダーらは、数値シミュレーションを用いて、将来の地球温暖化時の日本周辺の力学的海面水位変化を予測しました。スーパーコンピュータ「地球シミュレータ」を用いた高解像度海洋モデルCOCOのアンサンブルシミュレーションによって、黒潮や黒潮続流の統計的な変動を現実的に再現し、地球温暖化に伴う海面水位変化を詳しく解析しました。その結果、風の変化に伴う黒潮続流の北上により、日本沿岸では北太平洋の平均海面水位上昇を上回る水位上昇が見られることを明らかにしました。また、黒潮大蛇行の発生頻度の変化によって、東海沿岸と四国沿岸の海面水位上昇量に地域差が生じる可能性を示しました。本研究成果は、日本沿岸における将来の海面水位上昇予測の高度化や、海面水位変動のメカニズムの理解に貢献することが期待されます。

本研究は、文部科学省の「気候変動予測先端研究プログラム(JPMXD0722680395)」および「JSPS科研費(JP25K07411, JP24H00280)」の支援を受けて実施したものです。

本成果は、「Journal of Oceanography」に8月7日付け(日本時間)で掲載されました。

論文情報
タイトル

A dynamical downscaling of global climate change projections using an eddy-resolving OGCM: Application to sea level changes around Japan

著者
鈴木立郎1、山上遥航1、黒木聖夫1、川崎高雄1、小室芳樹1、建部洋晶1
所属
  1. 海洋研究開発機構

3. 背景

地球温暖化に伴う海面上昇は、高潮や浸水、海岸侵食などのリスクを高めるため、沿岸地域の適応策を検討するうえで重要な課題です。ただし、海面水位の上昇量は世界中で一様ではありません。海水温の上昇による膨張に加え、海流や海洋前線※4の位置や強さが変化することで、地域ごとに異なる海面水位変化が生じます。

日本周辺には、黒潮や黒潮続流などの強い海流と、その周辺に形成される海洋前線が存在します。このため、地球温暖化に伴う海洋循環の変化が、日本沿岸の力学的海面水位変化に大きな地域差をもたらす可能性があります。一方、一般的な全球気候モデルは、黒潮や海洋渦、海洋前線などの詳細な構造を十分に表現することが困難です。

そこで本研究では、日本周辺の海洋構造を詳細に再現できる高解像度海洋モデルを用い、全球気候モデルで予測された温暖化時の大気場の変化を与えることで、将来の日本周辺の海面水位変化を調べました。

用語解説
※4

海洋前線
黒潮や黒潮続流などに形成される、暖かい海水と冷たい海水の境界。海水温や海水位が急激に変化する。

4. 成果

本研究では、高解像度海洋モデルを用いたアンサンブルシミュレーションにより、地球温暖化に伴う日本周辺の力学的海面水位変化を詳しく解析しました。まず、現在の気候を再現したシミュレーション(歴史再現実験)では、黒潮や黒潮続流、海洋前線の位置や変動に加え、日本沿岸の力学的海面水位変動も現実的に再現できることを確認しました。このモデルに、IPCC第6次評価報告書に基づく大気場の変化を与えた温暖化実験の結果、日本沿岸では北太平洋の平均を上回る海面水位上昇が生じることが分かりました。その主な要因は、温暖化に伴う風の変化によって黒潮続流が北へ移動し(図1)、日本沿岸の海面水位を押し上げるためです。4℃温暖化実験(産業革命以前から4℃上昇した大気の状態で海洋モデルを駆動)では、本州沿岸の海面水位は北太平洋平均より約5 cm、2℃温暖化実験では約3 cm高くなることが示されました(図2)。また、この黒潮続流の北上は、現在気候で見られる年々の自然変動を上回る大きさであり、地球温暖化に伴う海洋循環の変化が日本沿岸の海面水位に影響を及ぼすことが示されました。

さらに、本研究では日本南岸の黒潮の流路変化にも着目しました。温暖化が進むと、紀伊半島沖で黒潮が大きく南へ蛇行する「黒潮大蛇行」の発生頻度が低下する可能性が示されました(図3)。この変化は、東海沿岸と四国沿岸における海水位上昇量の違い(図2)に影響し、日本沿岸の海面水位変化に地域差をもたらす要因の一つと考えられます(一般に黒潮大蛇行が発生すると東海地方の海面水位が上昇し、四国南岸の海面水位が低下する)。これらの結果から、将来の日本周辺の海面水位変化を評価するためには、海水温の上昇だけでなく、黒潮や黒潮続流の位置、流路、変動特性の変化を考慮することが重要であることが示されました。高解像度海洋モデルを用いることで、こうした海洋循環の変化と日本沿岸の海面水位との関係を、より詳細に評価できることも確認されました。

図1

図1. 温暖化による力学的海面水位の変化と黒潮流路
左から2℃温暖化実験、4℃温暖化実験、4℃温暖化(風変化なし)実験の結果を示す。色は現在気候(歴史再現実験の1981~2010年の平均)に対する温暖化実験の力学的海面水位変化を表す。青の破線は現在気候、赤の破線は温暖化実験における黒潮流路を示す。等値線は現在気候の力学的海面水位分布。単位はm。

図2

図2.現在気候(歴史再現実験の1981~2010年平均)からの日本沿岸および東海、四国南岸の太平洋沿岸の海面水位変化
歴史再現実験のアンサンブル平均を0とし、灰色の網掛けはアンサンブル幅を示す。シアン、マゼンタ、オレンジの実線は、それぞれ2℃温暖化、4℃温暖化、4℃温暖化(風変化なし)実験の現在気候からの差を示す。カラーの網掛けは海面水位変化の予測のばらつきを示している。

図3

図3. 日本南岸における黒潮流路
太い実線は年毎の黒潮流路を示し、色の違いは各アンサンブルメンバー(初期条件を変えて行ったそれぞれのシミュレーション)を示す。各実験3メンバー×30年分(風変化なし実験は1メンバーのみ)を表示している。灰色の線は比較のために歴史再現実験(1981~2010年)の力学的海面水位分布を表示している。歴史再現実験では東経138度付近で日本沿岸から大きく離れる黒潮の大蛇行が見られるが、2℃温暖化、4℃温暖化実験では、このような黒潮の大蛇行はほとんど見られない。

5. 今後の展望

本研究では、地球温暖化に伴う日本周辺の海面水位変化と、その背後にある海洋循環の変化を詳細に評価しました。本研究で用いた海洋の大規模アンサンブルデータセットは公開し、今後の日本周辺海域の海洋熱波が将来どのように変化するかなどさらなる解析に使用する予定です。

一方、今回用いた手法では、温暖化に伴う平均的な大気の変化を対象としており、ENSO(エルニーニョ・南方振動)などの大気変動が将来どのように変化するかは考慮していません。今後は、大気と海洋を結合した高解像度気候モデルを用いることで、こうした気候変動の影響も含めた日本周辺の海面水位変化やその不確実性を評価し、将来予測のさらなる高度化につなげていくことが期待されます。

お問い合わせ先

国立研究開発法人海洋研究開発機構

(本研究について)

地球環境研究部門 環境変動予測研究センター
グループリーダー 鈴木 立郎

(報道担当)

企画部門 事業推進部 報道室