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海洋マイクロプラスチック研究の比較を阻む「一粒ごとのサイズ情報」の不足 〜過去20年間の1,431報を検証、個々の粒子サイズを報告した研究はわずか2%〜

2026.10.23
国立研究開発法人海洋研究開発機構

1. 発表のポイント

  • 2004年から2026年までに発表された海洋マイクロプラスチック※1に関する学術論文1,431報を調査した結果、98%の研究では、一粒ごとの正確なサイズが報告されていないことが分かった。72%は粒子を大まかなサイズ区分にまとめて報告し、13%は最小値と最大値などの範囲のみ、残りの13%はサイズ情報を記載しておらず、一粒ごとのサイズを報告していた研究はわずか2%だった。
  • マイクロプラスチックのサイズは、海中を沈む速さ、海流による輸送、ほかの粒子との凝集、生物による取り込みや体内組織への移行などを左右する重要な情報である。しかし、粒子を「20〜100マイクロメートル」「100〜500マイクロメートル」のような大まかなサイズ区分にまとめてしまうと、その中に含まれる一粒ごとのサイズ情報が失われる。その結果、後から別のサイズ区分に分け直したり、異なる研究で共通するサイズ範囲だけを取り出して比較したりすることができず、地域間比較や長期変化の把握、輸送・蓄積過程のモデル化、生態影響評価が難しくなる。
  • 研究チームは、今後のマイクロプラスチック研究では、分析したすべての粒子について、最低限、最大フェレ径(粒子の最長径)※2を一粒ごとの生データとして保存・公開することを提案した。一粒ごとのサイズがあれば、「どの大きさの粒子が、どのくらい存在するのか」を示す粒子径分布(Particle Size Distribution: PSD)※3を構築することができる。これにより、研究毎に異なるサイズ区分に左右されず、異なる装置や分析方法で得られた結果を共通の「粒子サイズ」という軸で比較・統合しやすくなる。
用語解説
※1

マイクロプラスチック(Microplastics)
大きさが1マイクロメートルから5ミリメートル未満のプラスチック粒子。1マイクロメートルは、1ミリメートルの1,000分の1。図1も参照。

※2

最大フェレ径(粒子の最長径)
フェレ径は、粒子を平行な2本の線ではさんだときの線と線の間隔。向きを変えながら測定したときの最大値を最大フェレ径、最小値を最小フェレ径と呼ぶ。

※3

粒子径分布(Particle Size Distribution: PSD)
どの大きさの粒子が、どのくらい存在するかを粒径に沿って示したもの。粒子数などを粒径幅で規格化して表すことで、異なるサイズ区分や測定範囲を用いた研究でも比較しやすくなる。

2. 概要

国立研究開発法人海洋研究開発機構(理事長 河村知彦、以下「JAMSTEC」という。)のShiye Zhao(シィエ ジャオ)主任研究員と中嶋亮太プログラム長は、10か国11機関からなる国際共同研究チームを構成し、過去に発表された海洋マイクロプラスチック研究において、粒子サイズがどのように記録・報告されているかを網羅的に調査しました。

研究チームは、2004年から2026年までに公表された海洋マイクロプラスチックに関する学術論文1,431報(海洋の水試料におけるマイクロプラスチックについて扱った全論文)を精査しました。その結果、一粒ごとに実測されたサイズを報告している研究は全体のわずか2%であり、残る98%では、個々の粒子サイズを後から利用できる形で公開していないことが明らかとなりました。

マイクロプラスチックのサイズは、単なる外見上の特徴ではありません。粒子が海中にどのくらい長くとどまるのか、海底へ沈むのか、ほかの粒子と凝集するのか、生物に取り込まれるのかなどを左右する基本的な情報です。

しかし現在、多くの研究では、一粒ごとのサイズではなく、「20〜100マイクロメートル」「100〜500マイクロメートル」といった大まかなサイズ区分ごとに粒子数がまとめられています。この方法では、その区分の中に含まれていた一粒一粒が、実際には何マイクロメートルだったのかという情報が失われます。一度この情報が失われると、後から別のサイズ区分に分け直したり、異なる研究で共通するサイズ範囲だけを抜き出したりすることができません。

さらに、研究によって使用する網やフィルターなどの採取方法や分析装置が異なるため、どこまで小さな粒子を採取・検出できるかも研究ごとに異なります。小さな粒子まで測定できる研究ほど多くの粒子を検出する可能性があるため、単純に粒子数だけを比較しても、その違いが実際の海洋環境によるものか、測定方法の違いによるものなのかを判断することが難しくなります。

そこで研究チームは、まず分析したマイクロプラスチック一粒ごとのサイズを生データとして残し、共有することを提案しました。少なくとも各粒子の最大フェレ径を記録し、あわせてサイズの測定方法、確実に検出できる最小サイズを明記します。一粒ごとのサイズデータがあれば、研究ごとに異なるサイズ区分に縛られることなく、共通するサイズ範囲のデータを取り出して比較できます。さらに、それぞれの粒子のサイズと濃度の関係を、粒子径分布(PSD)として表すことで、異なる研究や分析方法によるデータを、共通のサイズ軸上で比較・統合することができます。

一粒ごとのサイズを残すことは、現在の研究でもすぐに始められる取組です。研究チームは、「一粒ごとのサイズを残す」ことを共通のルールにすることが、世界各地のマイクロプラスチック研究を比較可能にするための現実的な第一歩になると提案しています。

本成果は、米国科学アカデミー紀要「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America(PNAS)」に2026年10月21日付でオピニオン論文(Opinion)として掲載されました。

本研究は、Scientific Committee on Oceanic Research (SCOR)の各国委員会によるSCOR WG [174] (SPASS) 及び米国国立科学財団(NSF)からSCORへの助成金(OCE-2513154)の支援、並びにJSPS科研費25K03259の助成を受けて実施されました。

論文情報
タイトル

Microplastic size matters. Report every particle.

著者
Shiye Zhao(シィエ ジャオ)1, Luisa Galgani2, Karin Kvale3, Giuseppe Suaria4, 中嶋亮太1, Clara Manno5, Martin G. J. Löder6, Seung-Kyu Kim7, Nan Wu5, Sara Purca8, Cristina Romera-Castillo9, C. Anela Choy10, Lixin Zhu11
所属
  1. 国立研究開発法人海洋研究開発機構 物質地球科学研究部門
  2. University of Siena(イタリア)
  3. Aotearoa Blue Ocean Research(ニュージーランド)
  4. Consiglio Nazionale delle Ricerche-Istituto di Scienze Marine(イタリア)
  5. British Antarctic Survey(イギリス)
  6. University of Bayreuth(ドイツ)
  7. Incheon National University(韓国)
  8. Instituto del Mar del Peru(ペルー)
  9. Instituto de Ciencias del Mar-CSIC(スペイン)
  10. Scripps Institution of Oceanography(米国)
  11. East China Normal University(中国)

3. 背景

これまで数多くの研究によって、マイクロプラスチック(図1)が海洋をはじめとするさまざまな水環境に広く存在することが明らかになっています。また、すでに環境中に存在する大きなプラスチックが細かく砕け続けるため、新たなプラスチックの生産や環境への流入が減少した場合でも、マイクロプラスチックの量は長期間にわたって増え続ける可能性があります。

マイクロプラスチックのサイズは、海中を沈む速さ、海流による輸送、ほかの粒子との凝集、生物による取り込みや体内組織への移行などを左右する重要な情報です。そして、プラスチック汚染を減らす対策が実際に効果を上げているかを調べるには、異なる地域や年代の観測結果を正確に比較できなければなりません。しかし、海洋の水柱(水面から水底までの鉛直方向の水の層)で報告されているマイクロプラスチック濃度は、1立方メートル当たり10-4個から104個まで、約1億倍もの幅があります。このばらつきの一部は実際の海洋環境の違いを反映していますが、研究ごとに採取・分析手法や測定できる粒子サイズが異なることも大きく影響しています。

小さな粒子まで測定できる方法ほど、より多くのマイクロプラスチックを検出する可能性があります。そのため、単純に「1立方メートル中に何個あったか」だけを比べると、実際の環境中の違いではなく、測定できた粒子サイズの違いを比較してしまう可能性があります。

ここで重要になるのが、一粒ごとのサイズ情報です。例えば、ある研究が10マイクロメートル以上、別の研究が50マイクロメートル以上の粒子を測定していたとしても、一粒ごとのサイズが保存されていれば、両方の研究に共通する50マイクロメートル以上の粒子だけを抜き出して比較できます。

一方、「10〜100マイクロメートル」という1つのサイズ区分としてしかデータが残っていなければ、その中から50マイクロメートル以上の粒子だけを後から取り出すことはできません。一粒ごとのサイズを残すことは、現在の研究結果を将来、別の研究と比較したり、再解析したりするために重要です。

図1

図1 さまざまな大きさのマイクロプラスチック
マイクロプラスチックにはさまざまな大きさの粒子があり、その大きさによって、海中での移動、生態系との関わり、最終的な到達場所、環境への影響が大きく変わる。これまでの研究では、粒子サイズの詳細な情報の一貫した報告がされていない。マイクロプラスチック汚染の実態を理解し、適切に管理するためには、一粒ごとのサイズを記録することが重要である。写真は、海洋地球研究船「みらい」のMR21-06航海において北太平洋から採取されたマイクロプラスチックを1円玉にのせたもの。

4. 成果

個々の粒子サイズを報告した研究はわずか2%

研究チームは、2004年から2026年までに公表された海洋マイクロプラスチックに関する学術論文1,431報を、粒子サイズの報告方法によって分類しました。その結果、全体の72%が、粒子の複数の大まかなサイズ区分ごとに報告していました。13%は最小値と最大値などのサイズ範囲だけを示し、残りの13%はサイズ情報を記載していませんでした。一粒ごとのサイズを報告していた研究は、わずか2%でした(図2)。

サイズ区分による報告では、例えば「20~100マイクロメートル」の粒子が何個あったかは分かります。しかし、その中に含まれていた一粒一粒の大きさは分かりません。このような大まかなサイズ区分は研究ごとに異なるため、同じ海洋マイクロプラスチックを調べた研究であっても、結果をそのまま比べることが難しくなります。個別のサイズ情報が一度失われると、後から別のサイズ区分に分け直したり、ほかの研究と共通するサイズ範囲だけを抽出したり、異なる分析法の結果を同じ条件にそろえて再解析したりすることができません。

図2

図2 海洋マイクロプラスチック研究における粒子サイズの報告方法
2004年から2026年までに公表された海洋マイクロプラスチック研究1,431報を、粒子サイズの報告方法によって分類した。72%の研究(青)では、粒子を大まかなサイズ区分に分けて報告していた。一方、一粒ごとのサイズを報告していた研究は2%だった(オレンジ)。そのほか、最小値と最大値などのサイズ範囲だけを示した研究が13%(赤)、サイズ情報を記載していなかった研究が13%だった(黒)。

粒子サイズは、海中での行方を決める基本情報

マイクロプラスチックのサイズは、その粒子が水中でどのように移動するかを決める主要な要因です。数マイクロメートル以下の非常に小さな粒子では、水分子との衝突によって生じるブラウン運動の影響が大きくなります。一方、より大きな粒子では、重量による沈降、浮力、海流による輸送などの影響が相対的に強くなります。

また、海中の有機物などからなる凝集体にマイクロプラスチックが取り込まれるかどうかも、粒子サイズに大きく左右されます。6,000件を超えるマイクロプラスチックと凝集体との相互作用をまとめた研究では、20マイクロメートル未満の粒子では97%が凝集体に取り込まれたのに対し、162マイクロメートルを超える粒子では9.7%でした。つまり、サイズが少し違うだけでも、粒子が単独で海中を漂うのか、他の粒子と一緒に沈んでいくのかが大きく変わる可能性があります。

沈む速さにも大きな違いがあります。理論計算では、表面に厚さ5マイクロメートルの珪藻の層が付着した1ミリメートルのナイロン粒子は、海水中を1日に1500メートル以上沈む可能性があります。一方、25マイクロメートルのナイロン粒子が沈む距離は、年間約2.9メートルと計算されています。もちろん実際の沈降速度は、粒子の材質、密度、形状、生物の付着、周囲の海水条件などによって変化しますが、この例は、粒子サイズが海中での滞在時間や最終的な到達場所を大きく左右することを示しています。

粒子サイズは、生物への取り込みや体内移行にも関係する

粒子サイズは、生物がマイクロプラスチックを取り込めるかどうかにも影響します。比較的大きなマイクロプラスチックは主に消化管内にとどまる一方、80マイクロメートル未満の粒子は消化管以外の組織へ移行する可能性があり、その確率は粒子サイズが小さくなるほど高くなることが報告されています。このため、単に「何個のマイクロプラスチックがあったか」だけでなく、それぞれの粒子が何マイクロメートルだったのかを知ることが、生態影響を理解する上でも重要です。

一粒ごとのデータから「粒子径分布」を作る

研究チームは、マイクロプラスチック一粒ごとの正確なサイズを記録・保存し、それらのデータから「粒子径分布(Particle Size Distribution: PSD)」を作成することが重要だと指摘しました。粒子径分布とは、「どの大きさの粒子が、どのくらい存在するのか」を粒子サイズに沿って表したものです。例えば、どのサイズの粒子が多く、どのサイズの粒子が少ないのかを連続的に見ることで、マイクロプラスチックのサイズと量の関係を捉えることができます。こうした情報は、粒子サイズによって異なる海中での輸送、沈降、断片化などを理解するための重要な情報となります。

現在、多くの研究では、「20~100マイクロメートル」「100~500マイクロメートル」のように、研究者があらかじめ決めたサイズ区分ごとに粒子数をまとめています。しかし、このような区分は研究によって異なるため、そのままでは研究同士を比較することが難しくなります。また、どこでサイズを区切るかによって、推定される粒子径分布そのものが変わる可能性があります。

一粒ごとのデータが残されていれば、研究者が最初に設定したサイズ区分に縛られず、後から同じ基準でデータを整理し直すことができます。さらに、十分なサイズデータが集まれば、異なる研究や異なる分析方法で得られた測定結果を組み合わせ、より広いサイズ範囲にわたる粒子径分布を再構築することも可能になります。これにより、異なる海域や研究手法で得られたマイクロプラスチックの分布を、より一貫した基準で比較できるようになります。

粒子の形状や密度なども、マイクロプラスチックの挙動を左右する重要な情報です。しかし、サイズは比較的測定しやすく、ほぼすべてのマイクロプラスチック研究で扱われている基本的な情報です。そのため、研究チームは、まず一粒ごとのサイズデータを確実に残すことを優先すべきだと提案しています。

5. 今後の展望

研究チームは、海洋マイクロプラスチック研究の比較可能性を高めるため、次の4点を提言しました。

① 一粒ごとのサイズを生データとして公開する

学術誌と研究資金配分機関は、研究者に対し、分析した各プラスチック粒子の正確なサイズを生データとして公開するように求めることが望まれます。最低限、最大フェレ径、すなわち粒子の最長径を一粒ごとに記録します。さらに可能であれば、面積や周囲長なども保存します。これらの情報は、粒子数に基づく粒子径分布を、質量に基づく粒子径分布へ変換する際にも役立ち、海洋中に存在するプラスチックの総質量と行方を理解するための重要な情報となります。

② 測定方法と検出下限を明記する

粒子サイズをどのような方法で測定したかに加え、その方法でどこまで小さな粒子を確実に検出できるのかを示す必要があります。検出下限が分からなければ、小さな粒子が急に少なくなるという結果が、本当に環境中で起きている現象なのか、それとも装置がそれ以下の粒子を測定できなかっただけなのかを区別できません。

③ 公開データベースに「粒子レベルの品質確認」を導入する

現在、環境省のAtlas of Ocean Microplastics (AOMI)、米国海洋大気庁(NOAA)のNCEI Marine Microplastic database、欧州のEMODnet marine litter databaseなど、マイクロプラスチックに関する重要なデータベースが整備されています。これらは世界各地のデータを集約・統合する上で重要な役割を果たしています。

一方、現在のデータベースでは、研究ごとにまとめられたデータを収録することが中心で、一粒ごとのサイズデータを標準化した形で保存・共有し、その品質を確認する仕組みは十分に整っていません。そこで研究チームは、今後は各粒子のサイズを生データとして登録できるしくみを整え、あわせて測定方法や検出可能な最小サイズなど、データを正しく解釈するために必要な情報も明示することを提案しています。さらに、登録された粒子レベルのデータについて、一定の基準を満たしているかを専門家が確認する品質管理の仕組みを導入することが重要だと指摘しています。

④ 過去の論文にも生データを追加できるようにする

すでに発表された論文についても、著者が一粒ごとのサイズデータを保存している場合には、それを正式な追加データとして公開できる仕組みを整えることが望まれます。CSVやJSONなどのデータファイルに恒久的なデジタル識別子を付与し、元の論文と直接結びつけることで、過去に取得された観測結果も、将来の比較研究や統合解析に活用できます。

一粒ごとのサイズを残すことは、単なるデータの記録方法の変更ではありません。粒子サイズを共通の軸として、材質、形状、密度、化学物質などの情報を結びつけることで、マイクロプラスチックがどのように運ばれ、どこへ蓄積し、生物や生態系にどのような影響を及ぼすのかを理解するための基盤となります。

世界中の研究で採取法や分析装置を直ちに統一することは困難です。しかし、測定した一粒一粒のサイズを、そのまま残すことは今すぐ始められます。今後、粒子サイズの報告と、採取・分析・品質管理の標準化が平行して進むことで、世界各地のマイクロプラスチックデータをより正確に比較・統合できるようになり、海洋プラスチック汚染の長期的な変化や対策の効果を、より確かな科学的根拠に基づいて評価できるようになることが期待されます。

お問い合わせ先

国立研究開発法人海洋研究開発機構

(本研究について)

物質地球科学研究部門 環境物質研究プログラム
主任研究員 Shiye Zhao(シィエ ジャオ)
プログラム長 中嶋亮太

(報道担当)

事業推進部 報道室