トッピクス
東北地方太平洋沖地震から10年:
海域調査から見えた巨大地震・津波の姿と未だ見つからない”ピース”
東北地方太平洋沖地震発生から10年間の科学成果をまとめた論文を、小平秀一部門長、飯沼卓史グループリーダー、今井健太郎副主任研究員(海域地震火山部門)が米科学誌「サイエンス」(2021年3月12日付)に発表しました。
2011年東北地方太平洋沖地震時の海底変位と津波高1)
太平洋プレートが大陸プレートの下に沈み込む日本海溝で東北地方太平洋沖地震が発生してから10年が経過しました。この大地震と大津波は私たちの社会に甚大な被害をもたらし、被災した地域はいまだに復興の途上です。
JAMSTECは、大地震発生直後の3月14日から研究船を震源海域に向かわせるなど、巨大地震・津波の実態を明らかにするため、国内外の研究機関と協力し、研究船や探査機器を用いた観測・試料採取、海底の観測装置を用いたモニタリングなどの調査・研究を行ってきました。
科学的な調査によって、この地震と津波は、歴史的文献や地質学的に記録された最大の津波の1つであることが分かりました。東北地方沿岸の約200kmにわたって高さ20mを超える津波が観測され、日本の北東から中部地方の530kmの海岸線に沿って、高さ10m以上の津波の痕跡が確認されました。この津波は561平方kmもの地域を浸水させ、その遡上は東北地方の北部で最大40mに達しました。
また、この大地震は、世界で最も高密度な地震、測地、津波の観測ネットワークの近くで発生した地震でした。地震発生前後の海底の測地データの比較から、震源近くの海底が南東に向かって31mの変位と3mの隆起があったことを示し、海溝軸では最大で50mを超える変位が推測されました。
地震発生後に迅速に行った深海掘削プロジェクトでは、海溝近くのプレート境界断層帯から地質サンプルを直接採取することに成功し、地震発生時の断層での摩擦熱による異常が測定できました。これらのデータは、プレート境界断層が粘土の弱い層に富んでいることを示し、粘土層内の熱加圧が非常に大きな地震断層すべりを促進したことを示唆しました。
さらにその後の調査観測からは、宮城沖で確認されたような海溝軸まで至る50mを超える海底変動は福島沖や三陸沖では確認されず、東北沖地震のような巨大な断層すべりは日本海溝中部での特徴的な現象であること、また、宮城沖の海底は地震後の地球内部の粘弾性緩和により地震時とは逆向き(西向き)に変動していること、なども見えてきました。
一方で、大地震から10年たった今でも、未だにわからないこと、すなわち“見つからないピース”も残されています。例えば、三陸沖の津波波源の問題があります。津波のデータを説明するためには宮城沖に加え、三陸沖にも大きな津波を生成した波源が必要ですが、海底地形や地殻変動のデータからは三陸沖で大きな海底変動はとらえられていません。この矛盾を説明する明確な答えはまだ見つけられていないのです。 こういった問題を解決するためにも、東北地方太平洋沖地震での経験も踏まえ、巨大地震のサイクル、即ち地震前、地震時、地震後、の現象をモニタリングすることが重要だと考えています。2)
JAMSTECはこれからも、地震・津波の実態を理解するという複雑なパズルのピースを埋めるために、海から地球の調査・研究を行い、得られた科学的知見を社会に提供することで災害の軽減に貢献していきます。
参考リンク
- ■1)2021年3月12日付の米科学誌「サイエンス」で発表した東北地方太平洋沖地震発生から10年の科学成果のまとめ
Science「Investigating a tsunamigenic megathrust earthquake in the Japan Trench」
Shuichi Kodaira, Takeshi Iinuma, Kentaro Imai
https://science.sciencemag.org/content/371/6534/eabe1169 - ■2)2021年1月31日付Nature Reviews Earth & Environmentで発表した今後の地震研究への提言
Nature Reviews Earth & Environment 「Reflections on solid Earth Research」
Shuichi Kodaira, Maria Seton, Laura J. Sonter, Christy B. Till & Helen M. Williams
https://www.nature.com/articles/s43017-020-00127-7 - ■JAMSTEC海域地震火山部門オンラインシンポジウム
「我々は東北沖地震から何を学んだか? -その時何が起こり、これからどうなるのか-」
http://www.jamstec.go.jp/j/pr-event/img-sympo2021/