知ろう!記者に発表した最新研究

2011年7月4日発表
海中で距離を測るレーザー式海中距離測定システム、誕生!

街角で見かける、三脚さんきゃくにのせた四角い箱をのぞいている人。何をしているのでしょう? 地図などを作るために、レーザー距離計きょりけいを使って距離を測ったりしているのです。

レーザー距離計は、短時間で高精度こうせいどに距離を測れるので、地図の作成以外にもゴルフ場など陸上では様々なところで利用されています。

そのレーザー距離計を広大で真っ暗な深海で使えば調査の効率こうりつはぐーんとアップ! …と期待されますが、実は、これまでのレーザー距離計は海中ではごく短い距離しか測れないとされてきました。

そこで立ち上がったのが、海洋技術開発かいようぎじゅつかいはつのエキスパート吉田 弘 博士よしだひろしはかせです。海中でも高精度に距離を測るレーザー式海中距離測定システム(写真1)の試作に挑み、沖縄県小浜島で試験を行いました。その結果、みごと正確に距離を測ったのです!

これまでの技術では、深海では高精度に距離を測るのはむずかしいとされてきました。けれど、今回の成功によって実現が近づきました。海の調査の新たなる一歩です!


レーザー式海中距離測定システム

写真1:レーザー式海中距離測定システム


レーザーで距離を測るってどういうこと? レーザーを送って届くまでの時間から距離を測るのです

ここで、やまびこを思い出してください。山で「ヤッホー!」と叫ぶと、少しおくれてその声が聞こえてきます。これは、声が向こうの山にあたってはね返ってくるため(図1)。

山が遠いとはね返った声が聞こえるまでに時間がかかるし、近ければすぐに聞こえてきます。


やまびこの原理

図1:やまびこの原理


音と同じように、レーザーも物体にあたるとはね返ってきます。それに、音は広がりながら進みますが、レーザーは長距離でも直進かつ高速に進みます(図2)。その性質を利用して、レーザー距離計は、送ってはね返ってくるまでの時間や伝わり方の変化から物体までの距離を高精度に早く測れるとされてきました。


音とレーザー

図2:音とレーザー


けれど、それは陸上でのこと。海中にはプランクトンなどがいて、たとえきれいな深海でも、レーザーは細いのでさえぎられてしまいます。

そこで吉田博士は、海中でも短時間で高精度に距離を測れるレーザー式海中距離測定システムの試作に挑んだのです。

どんなシステムを試作したの? 海底に置くと、自動で距離を正確に測る優れたシステムです

試作にあたって吉田博士はまず、海中でのレーザーの様子を調べました(図3)。その結果、表層がにごっていても、水深100メートルより深い海では、レーザーの弱まり方がほぼ一定になることがわかりました。

また、レーザーを調節して、プランクトンなどによる影響えいきょうをほとんど受けなくなる太さを見つけだしました。


海中でのレーザーの様子

図3:海中でのレーザーの様子


これらに基づいて、レーザー式海中距離測定システムを試作しました(写真2)。システムを構成こうせいするのは、レーザーを送る送信機と受け取る受信機。海底に設置すると自動的にレーザーを送信・受信して距離を測れるようにしました。


レーザー式海中距離システム

写真2:レーザー式海中距離システム

新システムはちゃんと動きそう? 実際の海で試験をしたところ、大成功!

2011年7月沖縄県小浜島の沖合で試験を行いました。

慎重にレーザー送信機と受信機を海底に設置せっちしたところ…ちゃんと自動的に距離測定を行って、10メートルを正確に測りました! みごと大成功!


海域試験

図4:海域試験

これからはどうするの? 課題を改善し、実用化を目指します

これまで深海は強大な圧力と低温による影響のため、高精度な距離測定は困難こんなんとされてきました。けれど、今回の成功によって、その実現に大きく近づきました。

研究者は、「これからは距離をもっと伸ばし、精度を高め、さまざまな分野で利用してもらいたい」と話します。

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