知ろう!記者に発表した最新研究

2014年7月10日発表
気温が35℃を()えたら要注意!
熱中症(ねっちゅうしょう)死亡者数(しぼうしゃすう)には、熱帯域(ねったいいき)気候変動(きこうへんどう)が関係していた!

夏の暑い日に「熱中症(ねっちゅうしょう)に気を付けて」と注意されたお友達も多いのではないかな? 熱中症は気温の高い環境(かんきょう)発症(はっしょう)する体の障害(しょうがい)です(図1)。発症すれば最悪の場合、死に(いた)危険(きけん)があります。

今回紹介するのは、その熱中症による死亡(しぼう)と気候変動の関係を調べた研究(けんきゅう)報告(ほうこく)です。いったいどんなもの? 森岡(もりおか) 優志(ゆうし)博士と (もと)東京大学(とうきょうだいがく)大学院(だいがくいん)研究生(けんきゅうせい) 高谷( たかや)清彦(きよひこ)()たちの研究最前線にせまります!

図1 熱中症にご注意!

図1 熱中症にご注意!

なぜ熱中症の予防について研究をするの?

熱中症は、かかると最悪の場合死に至る危険がありますが、正しい予防法(よぼうほう)を知っていれば(ふせ)げますし、正しい応急(おうきゅう)処置(しょち)をすれば助かることもできます。

日本では熱中症を予防するため、「暑さ指数(しすう)」を使っています。暑さ指数は熱中症のかかりやすさを判断(はんだん)する数値(すうち)で、湿度(しつど)日射量(にっしゃりょう)や地面・建物などからの照り返し、そして気温から()り出します(図2)。暑さ指数が高いほど熱中症にかかりやすいことを意味します。

図2 暑さ指数の求め方イメージ

図2 暑さ指数の求め方イメージ

ただ、地面や建物などからの照り返しはあらゆる場所で計測(けいそく)されているわけではないので、暑さ指数の代表値(だいひょうち)がすべての場所で(てき)するものではない、という意見もあります。

  

また、関東地方では1994年以降、熱中症による死亡者数が増えています。その原因として、地球温暖化(図3)や、65歳以上の人口の割合が増えていることなどが()げられています。しかし、年ごとにみると、死亡者数が少ない年もあり、毎年大きく変動しています。これには、短期的な気候変動との関係が考えられていますが、これまでよくわかっていませんでした。

図3 地球温暖化

図3 地球温暖化

熱中症による死亡を防ぐにはどのような情報(じょうほう)重要(じゅうよう)なのか。また、熱中症による死亡者数にはどのような気候変動が関係するのか。それらを明らかにするため、森岡博士と高谷氏たちが研究を始めました。

どんな研究をしたの?

森岡博士と高谷氏は、1980年から2010年まで約30年間の人口データと気象(きしょう)観測(かんそく)データを解析しました。

その結果、まず、熱中症による死亡者数と暑さ指数は、あまり強く関係していないことがわかりました。いったいなぜ? もしかしたら、暑さ指数を求める計算式の中で湿度の割合が大きすぎるのかもしれません。

一方、31〜32℃を超すと熱中症による死亡者数が急に増えることがわかっています。そこで、熱中症による死亡者数と35℃以上の猛暑(もうしょ)日数(にっすう)の関係について調べたところ、猛暑日数が多い年は熱中症による死亡者数も増えていました(図4)。熱中症による死亡という最悪の場合を防ぐには、「35℃以上の猛暑日」に注意することが重要だとわかりました。

図4熱中症による死亡者と猛暑日数

図4 熱中症による死亡者と猛暑日数

また、猛暑日数は、年により増えたり減ったりします。もし猛暑をもたらす原因がわかれば事前におおよその猛暑日数を予測して、熱中症による死亡を防ぐのに役立てることができます。

そこで森岡博士と高谷氏が注目したのが、熱帯域で発生する「インド洋ダイポールモード現象」や「ラ・ニーニャ現象」です。インド洋ダイポール現象は熱帯インド洋の東側(西側)で水温がいつもより低い(高い)状態(じょうたい)が続く現象で、ラ・ニーニャ現象は熱帯太平洋の東側(西側)で水温がいつもより低い(高い)状態が続く現象です(図5)。これらの現象は、日本の夏の暑さに影響をあたえると言われています。

図5 地球温暖化に伴い熱帯域で発生する異常現象

図5 地球温暖化に伴い熱帯域で発生する異常現象

森岡博士と高谷氏は、これら気候変動と猛暑日数、そして熱中症による死亡者数の関係について解析(かいせき)しました。その結果、過去30年でインド洋ダイポールモード現象は6回発生し、関東地方で猛暑日数と熱中症による死亡者数が平年より増えたのは3回でした(図6)。これに対して、ラ・ニーニャ現象は4回発生し、猛暑日数と死亡者数が増加したのは1回でした。このことから、ラニーニャ現象に比べ、インド洋ダイポールモード現象の方が強く関係していることがわかりました。

※図6 熱中症による死亡者数、猛暑日数、インド洋ダイポールモードとの関係

※図6 熱中症による死亡者数、猛暑日数、インド洋ダイポールモードとの関係

実際に、インド洋ダイポールモード現象が発生した場合、熱帯からの大気の流れが変わることで日本付近の高気圧が強まり、猛暑になりやすいことが言われています(図7)。

図7 インド洋ダイポールモード現象が発生した時の大気の流れ

図7 インド洋ダイポールモード現象が発生した時の大気の流れ

これからはどうするの?

今回、熱中症による死亡を防ぐには気温が35℃を越える猛暑日に注意したほうがいいこと、また、猛暑日数には熱帯域の気候変動が関係していることがわかりました。

これを読んだお友達は、35℃以上の猛暑日には特に、外出や屋外での激しい運動などはひかえましょう。家族やまわりのお友だちにも知らせてくださいね。

ただ、森岡博士は「今回の結果は、熱中症の予防に暑さ指数が良くないということではありません。熱中症による『死亡』という最悪な事態を防ぐには、35℃以上の猛暑日に注意したほうがよい、という結果です」と話します。

森岡博士は今後について、「同じ関東地方でも、コンクリートが多い場所や森林が多い場所などにより気温は異なります。これからは、東京、神奈川、埼玉など地域別に調べて、熱中症による被害(ひがい)をくわしく明らかにし、熱中症による死亡を防ぐことに役立てたい」と話します。

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