
2014年12月15日発表
小さな渦の動きを解明!
海の中の熱や物質を運ぶ働きに影響大!
海に無数にある、1〜50qほどの比較的小さな規模の 渦やしま模様などを「サブメソスケール現象 」と呼びます。このたび、そのサブメソスケール現象が、海の中で熱や物質を運ぶ働きに大きな影響を与えることがわかりました。
いったいどういうこと? 佐々木英治博士の最新研究を紹介します!

海の中には大小さまざまな渦やしま模様などの流れがあります。このうち、100〜300qの流れは中規模の現象にあたり、「メソ(中間)スケール(規模)現象」と呼ばれます(図1)。メソスケールの大きさの渦は海洋の高気圧や低気圧の渦で、熱やプランクトン、栄養分といった物質を世界中の海へ運ぶ重要な働きをしています。
そのメソスケールの大きさの渦が互いにぶつかると、1〜50qほどの小さな渦やしま模様ができます。この流れを「サブメソスケール現象」と呼びます。

図1 サブメソスケールやメソスケールの流れ
これまでの研究からサブメソスケール現象は、冬に多く夏に少ない季節変動が報告されています。理由は、冬と夏で海水の構造が変わるためです。
冬、冷たい空気や風は海の表層を冷やします(図2)。冷やされた海水は重いため沈みます。すると海水が沈んだ分、下層の海水が上へ行きます。こうして垂直方向に流れができて、海水がかきまぜられます。この層を「 混合層」と呼び、深さは冬に数百メートルにも達します。その深い混合層の中はとても不安定で小さな渦やしま模様ができやすく、サブメソスケール現象が活発になるのです。

図2 冬のサブメソスケール現象のメカニズム
反対に夏は、海の表面は太陽光で暖められます(図3)。暖かい海水は軽いため表層に、冷たい海水は重いため下層に、それぞれとどまりやすくなります。この状態だと混合層は浅くなります。この浅い混合層の内部は,冬と比べると安定していて変化が起きにくく,サブメソスケール現象も活発ではなくなるのです。

図3 夏のサブメソスケール現象のメカニズム
そこで佐々木博士が考えたのが、「サブメソスケール現象が冬に活発になるならば、その時期はメソスケール現象にも影響を与え、さらには熱や物質を運ぶ働きにも影響をおよぼすのでは」、という可能性です。さらに、「将来打ち上げられる人工衛星から、サブメソスケール現象を精度良く観測できるのではないか」と考えたのです。
佐々木博士が、研究に挑みました。

研究計画の大まかな流れは、サブメソスケール現象について、1.季節により活発度がどう変わるのか、2.より大きいメソスケール現象とはどんな関係なのか、3.将来打ち上げられる人工衛星で精度良く観測できるか、を明らかにすることです。
計画1.について佐々木博士は、サブメソスケールからメソスケール、さらに大規模な現象を同時に再現するシミュレーションに挑みました。これまではコンピュータの計算能力の制限により、太平洋全体で、大小さまざまな現象を同時かつ高精度ではシミュレーションできなかったのです。
今回は、シミュレーションの範囲を広い北太平洋とし、解析する期間を2001年1月〜2002年12月と定めました。そして、横浜研究所にあるスーパーコンピュータ「地球シミュレータ」で、プログラム「OFES」を走らせました。OFESとは、コンピュータに海専用の計算をさせる手順書のようなもの。地球を細かい3q幅のブロックに分けて精度を上げ、すばやく計算します(図4)。

図4 OFESを使ったシミュレーション
その結果、2001年1月〜2002年12月まで、小さな渦やしま模様から黒潮まで、規模のちがう現象を同時にシミュレーションできました(動画)。 赤は時計回り、青は反時計回りの流れで、暖かい時計回りの渦は海面がもりあがり、冷たい反時計回りの渦は海面がへこんでいます。右上は日付。細かい渦やしま模様が、冬は多く夏は少なくなる季節変化が見られます。
動画
季節ごとの画像が、図5です。
海の表面(図5左)を見ると、夏よりも冬の方が、細かい渦やしま模様が多く見られます。
海の中はどうなっているのか。東経 155度で切って横から見ました(図5右)。緑線が、混合層の 底です。赤いほど上向きに強い流れ、青いほど下向きに強い流れを表します。
冬は、混合層の深さは数百mにも達していました。垂直方向の流れ(青と赤の部分)は、夏より多く、混合層を突っ切るように活発に流れていました。
夏は、混合層の深さは数十m。垂直方向の流れ(青と赤の部分)は、冬に比べると少なく、混合層はほとんど突っ切らず活発ではありません。

図5 季節ごとに見た海の表面(左)と海の中(右)の流れ
サブメソスケール現象がどのくらい活発か知るため、流れの回転の強さと混合層の深さの季節変化を調べました。その結果、混合層が深くなると流れの回転も強くなり、混合層が浅くなると回転も弱くなる傾向が確認できました(図6)。

図6 流れの回転の強さと混合層の深さ(統計結果)
では、計画2.の、 サブメソスケール現象とメソスケール現象はどう関係しているのか。解析の結果(図7)、半径が25q未満のごく小さな渦やしま模様などは大きな規模の流れとぶつかると、だんだん弱まり消えることがわかりました。
反対に、25q以上の渦やしま模様は、メソスケール現象の渦などとぶつかると、取りこまれ合体し、さらに大きく活発にさせていました。その傾向は冬が終わっても数か月続いていました。

図7 海面の渦の変化
まとめると(図8)、黒潮の近くにおいてサブメソスケール現象は、混合層の深い冬に活発になりますが、冬が終わり混合層が浅くなるにつれ徐々に穏やかになります。その時には、およそ25q以上のたくさんの渦やしま模様に見える流れのサブメソスケール現象が、近くのものと一緒になって大きく強い渦や流れのメソスケール現象になっていたのです。こうして小さなサブメソスケール現象が大きなメソスケール現象に変わることで、海の中の熱や物質を簡単に運ぶことができるようになります。

図8 まとめ
そして、計画3の将来打ち上げられる人工衛星が、サブメソスケール現象を観測できるのか。佐々木博士はシミュレーションで計算された海面のでこぼこデータ(海面高度)から求めた流速と、シミュレーションで直接出力された流速を比べました(図9)。海面には高い部分と低い部分があり、その傾きから流速を求められるのです。
海面のでこぼこから求めたもの(赤線)は、シミュレーションから直接出てきたもの(黒線)とよく一致しています。

図9 シミュレーションの海面のでこぼこから求めた流れの回転の大きさと、シミュレーションから直接でてきた出力を比較(図6に追加したもの)。
この結果は、人工衛星で海面のでこぼこを高い精度で測れば、サブメソスケール現象を調べられることを意味します。数年後に打ち上げられる高い技術を持った人工衛星の観測で、サブメソスケール現象がいつ、どこで、どのようになっているか精度よくわかると期待されます(図10)。

図10 海面のでこぼこデータから、流速を算出!

この研究により、北太平洋の黒潮近くにおいてサブメソスケール現象は、海の中の熱や物質の 循環に大きな影響を与えることが明らかになりました。将来は、人工衛星による観測から、地球全体の熱や物質の循環がどう変わっていくのか、長い期間にわたり明らかにしていくことが期待されます。
佐々木博士は、「今後は、新たな技術を使って、地球の海全体をさらに長い期間でシミュレーションしたい。そしてできたデータをもとに、自分一人だけではできないことを、特に世界中の海を観測している人と協力して取り組んでいきたい」と話します。