K2点/S1点観測データサイト

係留型セジメントトラップデータ

1.はじめに

沈降粒子の季節変化、経年変化を明らかにするために観測定点K2とS1に時系列式セジメントトラップを係留しています。ここでは両定点に設置している係留型セジメントトラップデータ(海水中沈降粒子量と化学組成など)がダウンロードできます。データは2010年以降のデータを各観測点で1ファイルにまとめてあります。


2.観測点, 観測期間、設置水深

(1) 観測点K2 (47°N / 160°E)
  トラップ設置深度: 200、500、4810m
  観測期間:
  2010年2月(設置:MR10-01)~ 2010年10月(回収:MR10-06)
  2010年11月(設置:MR10-06)~ 2011年6月(回収:MR11-05)
  2011年7月(設置:MR11-05)~ 2012年6月(回収:MR12-02)
  2012年6月(設置:MR12-02)~ 2013年7月(回収:MR13-04)
  2013年7月(設置:MR13-04)~ 2014年5月(回収:KH14-02)


(2) 観測点S1 (30°N / 145°E)
  トラップ設置深度: 200、500、4810m
  観測期間:
  2010年2月(設置:MR10-01)~ 2010年10月(回収:MR10-06)
  2010年11月(設置:MR10-06)~ 2011年7月(回収:MR11-05)
  2011年7月(設置:MR11-05)~ 2012年6月(回収:MR12-02)
  2012年7月(設置:MR12-02)~ 2013年7月(回収:MR13-04)
  2013年7月(設置:MR13-04)~ 2014年6月(回収:KY14-09)

3.セジメントトラップ

200m: 日油技研工業社製SMD26S-26 (捕集カップ:26本)
500 m、4810 m: 米国マクレーン社製Mark7 series(捕集カップ:21本)
設置前には、防腐剤として捕集カップに10%中性フォルマリン海水を装填した。

4.化学分析

4.1 試料前処理
実験室において、スイマーを除去するためにナイロン製の網(目合1mm)でサンプルをふるい分けし、1mm以上のものは“スイマー”として除去、1mm以下のものを分析試料とした。様々な分析に供するために、1mm以下のサンプルをスプリッター (McLane splitter)で均等に10以上に分割した。いくつかの分割試料を孔径0.4μmのヌクレオポアフィルターでろ過し、50℃、24時間で乾燥した。乾燥重量を測定し、全粒子束(Total Mass Flux: TMF, mg m-2 day-1)をサンプル重量、トラップ開口面積、捕集期間から計算した。その後サンプルをフィルターからはぎとり、瑪瑙の乳鉢で粉砕し保存した。 ただしサンプルをフィルターからはぎ取ることが困難なサンプル量の少ないものは、ろ過したヌクレオポアフィルターもしくはGF/FフィルターごとICP-AES, 炭素・窒素分析に供した。


4.2 有機炭素、無機炭素、窒素
全炭素、窒素測定のために、約5mgのサンプルを正確に “すず(tin)カプセルに計りとった。一方、有機炭素測定用サンプルは、炭酸カルシウムを除去するために、GF/Fフィルター上にサンプルを約5mg計りとり、塩酸噴霧下のデシケーター、もしくはタッパウエア内に設置、24時間放置した。その後、乾燥させてから、“すず(tin)”ディスクで包んだ。
“すず”カプセルあるいは“すず”ディスクで包んだサンプルを元素分析計(Parkin-Elmer 2400)のオートサンプラーに装填、同装置で全炭素濃度、窒素濃度、有機炭素濃度を測定した。標準試料として市販のアセトアニリドを用いた。無機炭素濃度は全炭素と有機炭素の差分とした。測定精度は概ね3%以下であった。しかし捕集量の少ないサンプルの場合は測定誤差が10%以上であったり、無機炭素濃度(全炭素と有機炭素の差分)がマイナスになる場合があった。その場合には別途、高周波数プラズマ発光分析計(ICP-AES)で測定したCaの値から無機炭素濃度を算出した。


4.3 微量成分
微量元素は高周波数プラズマ発光分析計(ICP-AES)で測定した。ICP-AES用サンプルはフユージョン法で分解し硝酸溶液とした(フージョン法:Huang et al., Limnol. Oceanogr.: Methods 5, 13-22, 2007 and references in this paper)。最初に粉砕した試料を約20mgグラファイトるつぼに計りとった。捕集量の少ないサンプルは、ヌクレオポアフィルター上試料の重量測定を行った後、フィルターごとグラファイトるつぼに入れた。るつぼに入った試料上に約140mg(試料量の約7倍)のホウ酸リチウム(Lithium metaborate:LiBO4) を計り入れ、試料と混ぜ合わせた。その後、グラファイトるつぼをマッフル炉に入れ、950℃下で15分間放置した。その後、“溶岩状になった”試料+ホウ酸リチウムを素早く、テフロン容器内の6%硝酸溶液約20mlに入れ常温下で撹拌した。約1時間の撹拌後、グラファイトを除去するためにGF/Fフィルターでろ過、ろ過試料を6%硝酸溶液で約50mlにメスアップし重量を測定した。
微量元素(Si, Ca, Fe, Ti, Mn, Mg, Ba)の濃度を ICP-AES (Perkin-Elmer Optima 3300DV)で測定した。 濃度を求めるための検量線作成用試料は硝酸ベースのICP-AES 標準溶液 (Kanto chemicals nos. 20,277-20,280)で作成した。また標準試料は産業技術総合研究所(旧地質調査所)が配布している玄武岩(JB-1)、あるいは花崗岩標準試料(JG-3)(Imai, 2000, もしくは
http://riodb02.ibase.aist.go.jp/geostand/welcomej.html) を使用した。 これらの標準試料は、セジメントトラップ試料と同様に、フュージョン法で硝酸溶液とした。測定誤差は全ての元素が5%以下であった。ただし捕集量が少なかったサンプルのTi, Mn, Ba濃度(通常は浅いトラップの場合)しばしば検出限界以下であったり、誤差が大きくなった。

5.データの説明

データは観測点毎にまとめた。各列データは以下のように計算されている。



(1) データの“999”はサンプルがない、もしくはデータが検出限界以下の場合である。
(2) 列A: 全粒子束(TMF) の単位:mg m-2 day-1.
(3) 列B〜M: 有機炭素(Org-C)、無機炭素 (Inorg-C), 窒素 (N) 微量元素 (Al, Si, Ca, Ti, Mn, Fe, Ba, Mg, K) の単位: %.
(4) 生物起源オパール(Opal), CaCO3 、陸起源物質(LM) (mg m-2 day-1) の計算方法:
  列O: Opal flux = (Si – 3.42 x Al) / 100 * 67.2 / 28 x TMF
  列P: CaCO3 flux = (Ca – 0.5 x Al) / 100 x 100 / 40 x TMF
  列Q: LM flux = Al / 100 * 100 / 8 x TMF
  列R: OM = Org-C / 0.35
(5) 列T: CaCO3 (Inorg-C based) = Inorg-C x 100 / 12
  列U: CaCO3 (Ca based) = (Ca – 0.5 x Al) x 100 / 40
(6) 列W (X): Total-I (or Total-II) はOM, Opal, CaCO3 (Inorg-C based) (or CaCO3 (Ca based)) 、LMの合計。合計は概ね100 ± 10%であった。ただしいくつかのサンプル(捕集量が少ない場合に多い)は合計が100 ± 50%であった。

係留系の詳細はJAMSTEC「みらい」データベースの航海クルーズレポートを参照のこと

参考文献

Honda, M. C. (2001) The study of carbon cycle in the western North Pacific by measurement of radiocarbon and sediment trap experiment. Ph.D. thesis, Hokkaido University, 193pp. (in Japanese)

Honda, M. C. et al. (2002) The biological pump in the northwestern North Pacific based on fluxes and major components of particulate matter obtained by sediment-trap experiments (1997-2000). Deep-Sea Research II 49, 5595-5625.