平成18年度
研究成果報告書








1.研究計画の概要


1.研究の趣旨

本研究の目的は地球環境全体の変化、すなわち気候、大気・海洋の組成、陸・海の生態系が相互に影響を与えつつ一体となって変化して行くのをシミュレートできる地球環境(地球システム)の統合モデルを開発する事、およびそれを用いて炭素循環のフィードバックを含んだ地球温暖化予測を行う事である。

これまでの地球温暖化予測では、温暖化の原因である大気中二酸化炭素(CO2)濃度の将来について、人間活動によるCO2放出シナリオをもとに簡略化したモデルを用いて、海洋と陸域生態系(植生・土壌)への吸収量を見積もって大気CO2濃度の将来予測を先ず行い、その結果を気候モデルに導入して温暖化と気候変化のシミュレーションを行って来た。しかしこれでは十分とは言えない。CO2増加は温暖化・気候変化を引き起こすが、逆に気候変化は大気中CO2濃度に影響を与えるのにそのフィードバック効果が取り入れられていなかったからである。温暖化によって土壌有機物の分解が進んで大気中にCO2やメタン(CH4)の濃度が増加する、即ち正のフィードバックが作用する可能性があるので、これを無視するのは危険である。

気候モデルに炭素循環プロセスを組み込んでそのフィードバック効果を取り入れたモデルで予測を行わねばならない。また、温暖化・気候変化は生態系の変化を引き起こすと考えられているが、それもCO2やCH4の濃度に影響する。さらに、もう一つの温室効果ガスである対流圏オゾンも温暖化・気候変化の影響を受ける。そこで、大気・海洋・陸域生態系にまたがる炭素循環や大気組成変化のプロセスを気候モデルに取り入れ、(炭素循環・大気組成・気候統合モデルを作り)、それらのフィードバックを含めて温暖化予測実験を行う必要がある。

2.研究概要

大気・海洋・陸地面の、主に物理的状態を扱う「物理気候モデル」として東大気候センターと国立環境研で開発された既存のCCSR/NIES モデルを用い、それを基礎として、地球環境フロンティア研究センターの各プログラムで研究されている、大気・海洋の化学組成変化、陸域生態系と大気の物質交換などの諸過程をそれぞれに取り入れた部分統合モデルを3年目を目安に作り、その上で全体を結合した、「地球システム統合モデル」を研究期間内に完成させる。その過程で3〜4年目までに、大気・海洋・陸域生態系にまたがる全球炭素循環モデルを作り、それと気候モデルを結合させたモデルを用いて温暖化と炭素循環とのフィードバック効果を含んだ温暖化予測実験を行う。温暖化と大気組成や陸域生態系の相互作用に関して、さらに温暖化そのものについても未解明のプロセスが多いので共生プロジェクトの他の課題(陸域生態系モデル作成のためのパラメタリゼーションに関する研究、諸物理過程のパラメタリゼーションの高度化 (大気・海洋分野))のもとに行われる野外観測やプロセス研究によって必要なパラメータを求め、逆にモデルの結果から精度向上に必要なプロセス研究を依頼し、モデルの確度向上を図る。

3.研究年次計画

平成14年度 全体及びサブ課題の研究戦略立案及び各サブ課題での部分統合モデル作製に向けての個別モデルの整備。
平成15年度 サブ課題ごとに部分統合モデルの開発。
平成16年度 各サブ課題において部分統合モデルを作りあげる。この段階において地球温暖化にかかわる数値実験着手。次年(2005年)にかけ実験を終了し成果をできるだけIPCC第4次報告書に間に合うようまとめる。
平成17年度 部分統合モデルによる実験を終了し同時に並行して全体を統合した「地球システム・モデル」の開発に着手。
平成18年度 地球システム・モデル完成。それを用いた温暖化に伴う全地球環境変化予測の試行。

4.平成18年度研究計画

現在地球環境フロンティア研究センターの各研究プログラムで開発が進められている個別モデル(大気組成、陸域生態系炭素循環など)ひとつを物理気候モデル(大気・海洋・陸面の“物理的”過程を中心としたモデル、CCSR/NIESにより開発された既存のものを利用)と結びつけ、「部分統合モデル」を作る作業を継続する。またそうした「部分統合モデル」全体を統合した「地球システムモデル」の開発に着手する。

(1)炭素循環モデル、炭素循環・気候変化結合モデル開発

大気海洋結合炭素循環モデルを用い、感度実験も含め複数例行った温暖化実験の結果を解析し、論文にまとめる。大気化学過程や成層圏も含んだ全球統合モデルによる温暖化実験を行い、結果の解析を行う。また、大気大循環モデルにSim-CYCLEを組み込んだモデルにより、土地利用変化を含んだ21世紀中の陸域炭素動態と気候との関係を調べる。個体ベースの全球植生動態モデル(SEIB-DGVM)の開発に関しては、全球スケールへの拡張が一段落した状態である。平成18年度は観測結果との一致をよくするためのモデルの改良や、大気大循環モデルへの組み込みを行う。
(業務分担責任者:元地球環境フロンティア研究センター、及川武久)

(2)温暖化・大気組成変化相互作用モデル開発

@温暖化・大気組成変化相互作用モデル

平成16年度より行っている成層圏オゾン化学・オゾンホール化学の導入作業および調整作業を完了する。その上で現在に対する診断実験を行い、対流圏・成層圏オゾン分布の計算結果について各種観測データと比較し、詳細に評価する。同時に、炭化水素類の植物からの放出については陸域植生モデル(SimCYCLEなど)との結合を行い、統合モデル内の化学・エアロゾル計算過程を完成させる。さらに統合モデルによる温暖化実験の結果を解析し、気候変動と大気化学・エアロゾルとの間の双方向のフィードバック(影響)について定量的な検討を行う。
(業務分担責任者:地球環境フロンティア研究センター、高橋正明)

A温暖化―雲・エアロゾル・放射フィードバック精密評価

全球雲解像モデルNICAMを用いて、現実的な海陸分布のある設定の下でSST+2K等の温暖化を想定した気候感度実験を実施する。これにより、既存の積雲パラメタリゼーションモデルにはないより詳細な雲微物理過程による雲-放射フィードバックの定量的評価を行い、次世代の気候モデルとしての原型版を完成する。また、NICAMへのエアロゾルモデルの実装を完了し、エアロゾル-雲-放射フィードバックを総合的に評価するための実験を実施する。
(業務分担責任者:地球環境フロンティア研究センター、高橋正明)

(3)寒冷圏モデル開発

開発済みの気候−氷床結合モデルへさらに陸域・海洋の炭素循環過程を組み込み、大気T42、海洋1.4度程度の解像度で300年あるいはそれ以上の長期積分を行う。PMIP(古気候モデル相互比較プロジェクト)の方向性にあわせ、海洋炭素循環モデルの改造も検討する。
(業務分担責任者:地球環境フロンティア研究センター、阿部彩子)

(4)気候物理コアモデル改良

上端を中間圏界面まで拡張した統合モデルの、中層大気大循環、および化学物質の分布に関して、年々変動や長期トレンドなども含めて、なるべく現実的になるように、気候物理コアの改良を行っていく。大気組成グループと連携しつつ、本グループとしては、非地形性重力波抵抗パラメタリゼーションの調整や、対流圏気候に影響する物理過程パラメタリゼーションの調整によって、上記の目標を達成する。重力波抵抗パラメタリゼーションの改良に必要な高解像度大気モデルによる中層大気中の波動や大循環の研究は引き続き行っていく。
(業務分担責任者:地球環境フロンティア研究センター、江守正多)

(5)気候変動に関する政府間パネル(IPCC)関連活動への参加と温暖化予測の比較検討

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第4次報告書へ寄与する為、国際モデル比較ワークショップ等の活動に参加し、国内外から報告されている温暖化予測中間結果、シミュレーション手法、評価手法等について比較検討を行う。また、各国の温暖化研究の動向調査を行うと共に、内外の研究者による進捗状況についての情報交換と検討を行う。
(業務分担責任者:地球環境フロンティア研究センター、松野太郎)

5.平成18年度実施体制

独立行政法人海洋研究開発機構を主管研究実施機関とし、研究代表者を松野太郎(地球環境フロンティア研究センター 特任研究員)とする。次の研究サブテーマを設けて研究開発を実施する。

(1)炭素循環、炭素循環・気候変化結合モデル開発

代表者:及川 武久
    @陸域炭素循環モデル
    伊藤 昭彦、田中 克典、加藤 知道

    A海洋生物地球化学モデル
    山中 康裕、岸 道郎、相田 眞希、吉川 知里、河宮 未知生

    B陸域生態系変動モデル
    甲山 隆司、佐藤 永

(2)温暖化・大気組成変化相互作用モデル開発

代表者:高橋 正明
    @温暖化・大気組成変化相互作用モデル
    滝川 雅之、渡辺 真吾、永島達也、須藤 健悟、竹村 俊彦

    A温暖化ー雲・エアロゾル・放射フィードバック精密評価
    久芳 奈遠美、鈴木 恒明、野沢 徹、對馬 洋子、
    鈴木 健太郎、中島 映至、冨田 浩文

(3)寒冷圏モデル

代表者:阿部 彩子
    齋藤 冬樹、大垣内 るみ、瀬川 朋紀

(4)気候物理コアモデル改良

代表者:江守 正多
    鈴木 恒明、鈴木 立郎、高田 久美子、木本 昌秀、
    羽角 博康、松野 太郎、渡辺 真吾

6.研究運営委員会、研究連絡会議

<研究運営委員会>

(1)任務

研究実施メンバーから研究計画と研究進捗状況、研究結果の報告を行い、これを受けて外部委員が研究実施計画全体、年次計画について随時評価と助言を行い、特に当該年度の研究計画について検討し適切な助言をするとともに進捗状況をチェックする。

(2)委員の構成

<本プロジェクト関係者、内部委員>(役職等は平成18年4月1日現在のもの)
    松野 太郎(地球環境フロンティア研究センター・特任研究員、共生2代表)
    近藤 洋輝(地球環境フロンティア研究センター・共生2代表補佐)
    阿部 彩子(地球環境フロンティア研究センター/東大CCSR)
    江守 正多(地球環境フロンティア研究センター/国立環境研)
    及川 武久(元地球環境フロンティア研究センター/筑波大)
    (地球フロンティア研究センター、平成17年11月退職/ 筑波大学 平成18年3月退官)
    河宮 未知生(地球環境フロンティア研究センター 地球環境モデリング研究プログラム・グループリーダー)
    甲山 隆司(地球環境フロンティア研究センター 生態系変動予測研究プログラム・サブリーダー/北大)
    高橋 正明(地球環境フロンティア研究センター 大気組成変動予測研究プログラム・グループリーダー/東大CCSR)
    山中 康裕(地球環境フロンティア研究センター 地球温暖化予測研究プログラム・グループリーダー/北大)
<地球環境フロンティア内部委員>
    秋元 肇(地球環境フロンティア研究センター 大気組成変動予測研究プログラム・プログラムディレクター)
    中澤 高清(地球環境フロンティア研究センター 大気組成変動予測研究プログラム・グループリーダー/東北大)
<外部委員、共生プロジェクト関係>
    住 明正(東大CCSR・教授、共生1-1)
    (平成18年11月からサステイナビリティ学連携研究機構・地球持続戦略研究イニシアティブ、統括ディレクター・教授)
    安岡 善文(東大生産研・教授、共生3-1)
    日比谷 紀之(東大理・教授、共生3-2)
<外部委員、関連研究機関>
    井上 元(名古屋大学大学院環境学研究科・教授)
    遠藤 昌宏(東大CCSR・教授)
    早坂 忠裕(総合地球環境学研究所・教授)

(3)開催日・場所

  • 第12回 平成18年5月11 日(木) 海洋研究開発機構 横浜研究所

  • 第13回 平成19年1月30日(火)、31日(水) 東京大学気候システム研究センター

<研究連絡会議>

    (1)本プロジェクトを円滑に推進するために、原則として月1回研究連絡会議を開催する。
    (2)原則としてプロジェクトメンバー全員が参加し(各サブ課題から少なくとも1名)、サブ課題の進捗状況を報告し、プロジェクト全体の進行調整を図る。
    (3)本プロジェクトが広範囲の専門領域を含むことから、随時研究報告に加えレビュー講演を行いメンバーの相互理解に資する。

開催日・場所等

  • 第35回 平成18年4月26日(水)
    海洋研究開発機構 横浜研究所 交流棟 小会議室

    (1)動的全球植生モデルSEIB-DGVMの開発状況(佐藤 永)

    (2)大気-陸域結合炭素循環モデルの開発進捗状況(加藤 知道)

    (3)寒冷圏モデル(齊藤 冬樹)

    (4)物理気候コアモデル改良サブグループ(渡辺 真吾)

    (5)大気化学現状報告(須藤 健悟)

    (6)海洋生物地球化学モデル(河宮 未知生)

  • 第36回 平成18年6月19日(月)
    海洋研究開発機構 横浜研究所 交流棟 小会議室

    (1) 大気-陸域結合炭素循環モデルの開発進捗状況(加藤 知道)

    (2) 物理気候コアモデル改良サブグループ(渡辺 真吾)

  • 第37回 平成18年7月24日(月)
    海洋研究開発機構 横浜研究所 交流棟 小会議室

    (1) 気候-海・陸炭素循環結合モデルを用いた地球温暖化実験の結果報告(吉川 知里)

  • 第38回 平成18年9月21日(木)
    海洋研究開発機構 横浜研究所 交流棟 小会議室

    (1) 物理気候コアモデル改良サブグループ(渡辺 真吾)

    (2) 海洋生物地球化学モデル(河宮 未知生)

  • 第39回 平成18年12月5日(火)
    海洋研究開発機構 横浜研究所 交流棟 小会議室

    (1) 寒冷圏モデル(齊藤 冬樹)

    (2) NICAM-SPRINTARS結合作業の現場(東大CCSR 鈴木 健太郎)

  • 第40回 平成19年2月26日(月)
    海洋研究開発機構 横浜研究所 交流棟 小会議室

    (1)MATCHの概要(伊藤 彰記)

    (2)動的全球植生モデルSEIB-DGVMの開発状況(佐藤 永)


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