見えないDNAを自分の手で — 高校生5人のPCR体験記(後半)
“自分たちが増やしたDNA”の正体に迫り、研究の最前線へ視野を広げた。
誰のDNAを増やしたのか? — 解析編 —
午後の解析は“推理ゲーム”のようだった。参加者には事前に3種類のDNAが配布されており、どれを扱ったのかは本人も知らない。配布された3種類の微生物のDNA配列と3種類のプライマーセットのDNA配列から、Web上のDNA分析ツールを使用してそれぞれのPCR産物長を算出した。
- Bacillus subtilis(枯草菌):529 bp
- Streptomyces avermitilis(放線菌):764 bp
- Methanocaldococcus jannaschii(古細菌):323 bp
電気泳動でのバンドの長さをもとに、それぞれの正体を推定する。「私のは短いから古細菌かも」「764ってことは放線菌かな?」―結果を見比べながら、それぞれが増幅した微生物が誰だったかを推測する。
パソコンの前で研究者気分
続いてはWeb解析。Web上のDNA解析ソフトを使って、魚類のDNA配列を比較し分子系統樹の作成に挑戦する。ウナギがドジョウに系統学的に近いことが確認できた。さらに、配られた未知のDNA配列が何の生物由来なのかをDNAデータベースを使って特定する。
「意外と簡単にDNAのデータを取ってこれるんや!」
「DNA解析も手軽で自分でできそう!」
声をあげながら、画面をのぞき込む。科学館の一室は、まるで小さな研究所のようになった。
研究の“先”を垣間見る
最後の講義では、星野研究員が自身の専門分野――深海堆積物の微生物研究について紹介した。
「今日のPCRも、こうした研究に日々使われています」
説明はあくまで控えめだったが、国際的なチームで行われる掘削航海の様子や、百万年スケールで生きる微生物の話に、生徒たちは一様に目を見張った。自分たちの実験と最先端研究が地続きであることを知り、科学の奥行きを感じたに違いない。
終了式:残る余韻
実験も講義も終わり、アンケートを書きながら終了式を迎える。
「思ったより難しくなかった」 「科学ってこんなに楽しいんだ」―感想を口にする生徒の笑顔が印象的だった。
5人という少人数で、一人ひとりがじっくりと体験できた今回のプログラム。ピペットを握った手の緊張、DNAが光った瞬間の興奮。すべてが、科学をぐっと身近に感じさせる一日となった。
おわりに
PCRは、感染症検査から環境調査、法医学に至るまで社会のあらゆる場面で使われている。しかし、その原理を自分の手で体験できる機会は限られている。
この夏、高知の実験室で生まれた小さな体験は、参加した高校生にとってきっと忘れられない記憶になるだろう。見えないDNAを“自分の手で見える化した”という驚きが、未来への扉を開くきっかけになるかもしれない。
本文はイベント当日の観察メモと取材に基づき再構成しています。
本プログラムは、日本学術振興会「ひらめき☆ときめきサイエンス」事業として開催されました。 大学や研究機関の最先端研究をわかりやすく紹介し、科学の楽しさと社会とのつながりを体感していただく取り組みです。