Q&Aからお寄せいただいたご質問
当日お寄せいただいたご質問と講演者の回答を一部ご紹介します。
質問をクリックすると回答がご覧いただけます。なお、掲載にあたり表現の編集や個人情報の削除などを行っています。
参考:開催中の質疑応答の様子(動画アーカイブ)・・・下のご質問からも話題を取り上げております。
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▼Q1. AR6への査読コメント・返答はどこで閲覧可能か、まだの場合はいつごろ公開予定か。
(AR6への膨大な査読コメントと返答は、AR6の信頼性を示す上で大変貴重な情報だと思いますが、すでにどこかで閲覧可能でしょうか?まだだとすると、いつごろ公開されるのでしょうか。)
IPCCは透明性を重視していますので、レポート本体の確定版が公表された後で、全ての査読コメントと執筆者の回答がオープンになると聞いています。(渡部)
▼Q2.深海を含めた海洋の温度変化は予測できているのですか?
海洋は大気の1千倍以上の熱容量を持ち、温度依存が大きいCO2の溶解量も大きいが。
はい。ESMによる予測では、深海の海水の動きやそこに含まれる二酸化炭素の変化なども考慮しながらシミュレーションが行われています。(河宮)
▼Q3. 研究者によりデータ解釈や解析が異なる際、内外でどのように整合を取るのか?
(聞き間違えかもしれませんが、研究者によってデータの解釈や活用した解析が異なるような内容のご発言をされていましたが、国内の研究会や世界との研究会ではどのように整合を取られているのでしょうか?)
解釈が違う、という話をどこでしたか記憶がありませんが、そういうことはあり得ます。また研究機関によって、昇温の具体的な数値は違います。紹介のあったCMIP6などでは、国際会議などで違いの原因などを議論し合っています。
もしかしたら、私の講演と渡部さんの講演で、CMIP6に参加したチームの数が一致していない、という部分についてかもしれません。仲間内だが、違うモデルを使っている、といったケースを同じチームととらえるか違うチームととらえるか、考え方によるところもあるので、数の違いが出てきてしまっています。
ちなみに、IPCC報告書では、研究者によって見解が異なっており、その相違の解消ができていない場合は、「確信度が低い」といった表現で記述することになっています。無理に整合性をとることはしていません。(河宮)
▼Q4. 悪循環というか気温上昇によって泥炭が酸化されるような現象も考慮されているのでしょうか。
報告書本編(5.5.2.2.5節や表5.8など)を確認したところでは、はっきりしないのですが、「その他」的な扱いで考慮に入っているようにも読めます。いずれにせよ、現時点では、永久凍土からのメタンや二酸化炭素放出の効果よりは小さいと見積もられています。(河宮)
▼Q5. 炭素蓄積量と気温の関係を示しているときに、CO2以外のGHGはどのような設定になっているのでしょうか。
それにより大きく変わってもおかしくないと思います。
SSPに含まれているnon-CO2 GHGs については、考慮されています(つまり、non-CO2 による温暖化は除去したうえで数値が出されている。)
ただ、講演中に示した直線の図では、二酸化炭素以外の温室効果気体による温暖化も含まれています。表の方の数値では考慮されていますが。ほぼ直線とはいっても、シナリオごとに微妙な違いがあり厳密な直線に乗っていないのは、二酸化炭素以外の温室効果気体の寄与もあると思われます。(河宮)
ありがとうございます。SPMを確認中ですが、確かに、図SPM10の気温上昇側は全体をとっているようですね。SSPごとにnonCO2の部分は想定されているので、それに応じて若干のずれが対応するというところでしょうか。SSP3-7.0が低めに出ているのはエアロゾルの想定が高いためと理解すれば良いのでしょうね。
はい。直線からの微妙なずれは、エアロゾルの寄与が大きいと思います。(河宮)
▼Q6. ネガティブエミッションを植林や植物性プランクトンで達成する方法はありますか?
DACはあまりにもコストパフォーマンスが悪いと思うのですが。
海洋については「ブルーカーボン」という、沿岸海洋の炭素吸収促進の試みが進められています。植林についてはREDDという活動があります。(河宮)
▼Q7. 温暖化によって冬がより暖かくなると、冬の植生によるCO2吸収がこれまでより増加するのではないかと思ったのですが、正しいでしょうか?またそのような効果は気候モデルにも反映されているのでしょうか?
はい、入っています。実際、陸域植生による光合成は近年増大傾向にあることが知られています。(河宮)
▼Q8. 「二酸化炭素の排出量分だけ気温が上がる」とのことですが、それはどの程度の時間スケールで発生することなのでしょうか?
例えば、排出した二酸化炭素を1年以内にどこかで吸収すればよいのでしょうか?排出した二酸化炭素は、どこか(森林や海洋など)で吸収するというカーボンバジェットなどの考え方の時間スケールで、気候変動による気象災害の抑止へどの程度繋がるのでしょうか?
「排出した分だけ」というのはあくまで正味の値ですので、何らかの方法で吸収も促進し、プラスマイナスゼロになれば昇温には反映されません。カーボンバジェットの考え方はすぐに防災には結びつきませんが、「排出ー>温暖化ー>災害激甚化ー>防災強化」という一連の流れを見やすくする役割はあると思います。(河宮)
▼Q9. 地球温暖化停滞は、この時期の太陽活動の停滞と関係しませんか?
太陽活動の停滞を含む自然起源の強制力が寄与した可能性も指摘されており、それも含めて「内部変動と自然起源強制力」が影響した、としています。(小阪)
▼Q10. 「内部変動」では地球の持つエネルギーの総量は変わらないのでしょうか?
諫言しますと内部変動で停滞している時でも一定の増加をしているのでしょうか?(たとえば海洋深部の熱貯留のために、海表面温度と大気には反映されないということでしょうか?)
内部変動では気候システムの持つ総エネルギー量はほとんど変わりません (少しだけ変動します)。なのでおっしゃるように、内部変動で地球表面の温暖化が停滞していても、海洋貯熱量は増加を続けていました。(小坂)
▼Q11. 古気候研究でシミュレーション値と復元値に開きがある理由と、モデルの信頼性に対する影響は?
(古気候の研究が進んだと仰っていましたが、1100年頃まではシミュレーション値と復元値に開きがあるように思われます(復元値のほうが総じて高い)。なぜこのようなことが起こるのでしょうか。また、その差はモデルの信頼性に対して何か影響を与えますか?)
お示しした図では、1200年以前もシミュレーションの平均は復元値の不確実性の範囲内ではあります。ずれが大きくなってくるのは、過去に遡るほど強制力や全球平均地表温度の復元値がより不確実になることを考えれば自然なことですが、これらの精度をさらに上げる必要があるでしょう。(小坂)
▼Q12. 砂漠の緑化を進めた場合の温暖化に対する寄与等は、シミュレーションされているのでしょうか?
砂漠の緑化はCMIP6ではシミュレーションされていません(研究事例としては探せばあるかもしれません)。が、例えば、成層圏に微粒子をばらまいて太陽光入射を減らすといった形で気候を制御しようとする「気候工学」(ジオエンジニアリング)についてのシミュレーションは行われています。(河宮)
▼Q13. 累積CO2排出量と気温上昇量の関係に、メタンなど他の温室効果ガス排出量は含まれているのでしょうか。
含まれていないのであれば、メタンなどを含めるとさらに気温が上昇するということでしょうか?
講演中で示した表の数値の算出では、メタン放出の効果などは考慮されています。ただ、永久凍土からの放出といった自然のプロセスについては不確実性も大きく、想定以上の昇温に結びつく可能性がないとは言えません。(河宮)
▼Q14. ブルーカーボン生態系での炭素隔離の効果は、現在のモデルで評価されているのでしょうか?
ESMによる予測シミュレーションでは、ブルーカーボンの効果は入っていません。現在のシミュレーションモデル解像度は、高くて数10km程度なので、沿岸の細かいプロセスを考慮するうえでは不十分です。ただし、ブルーカーボンに限らず、人工的に吸収を促進するようなプロセスは、「負の排出」を含む低排出シナリオにおいては入力データで既に考慮済みとも言えます。(河宮)
▼Q15. COVID-19による温室効果ガス排出量減少により、平均気温上昇にブレーキは見込めるか。
(COVID-19によって2020年の温室効果ガス排出量が7%ほど減少したとのことですが、これによって平均気温が1850~1900年平均と比べて1.5℃ or 2℃上昇する時期が後ろにずれる可能性はどれほどありますか。もしずれる場合、SSPの違いによって後ろにずれる年数が異なるということはありますか。)
残念ながら、ほとんどずれないと思います。1.5℃に対するカーボンバジェットが400GtCO2ほど、毎年の排出が40GtCO2/yrなので、あと10年ほどで使い切ってしまう、という話をしました。1年だけ、40GtCO2の排出が7%減って37GtCO2になったとしても、ほぼ10年で到達、という計算にはほとんど影響を与えない、ということになります。(河宮)
▼Q16. 海水表面温度の上昇の影響についてIPCCではどのように捉えているか?
(大気気温一度の上昇よりも、海水表面温度の一度上昇の方が、熱量的には大きいので、気候に与える影響も大きいのではないかと思います。海水表面温度の上昇による地域気象や地球全体への影響に、あまりスポットライトが当たっていないように感じるのですが、IPCCではこの問題はどのように捉えているのでしょうか?)
・気候モデルによる昇温予測では海洋の熱容量も考慮に入っています。海洋の方が熱容量がはるかに大きいので、地球に「こもった」熱はほとんどが海洋にたまっています。海洋がほとんどの熱を吸収し、大気にたまっている熱はほんの少しなので、温度の上昇としては大気も表層海洋もだいたい同じ、というバランスになっています。(河宮)
・補足です。温室効果ガス増加による余剰なエネルギーの9割は海が吸収しています。このうち、深層に運ばれない分で海面水温が上昇しており(陸上の気温より小さいとはいえ)、そのことが地表や大気のCID変化の直接的な原因になっていると言えます。
▼Q17. ハイエイタスと逆の内部変動というのはあるのでしょうか。
今回はスローダウンしたということの理解ですが、「常」というのがどこにあるのかわかるのでしょうか?
2012年以降、太平洋内部変動が負から正に転じるとともに、全球平均地表気温は急激に上昇しました。このことも、「温暖化停滞は一時的」という評価の根拠です。もっと長い時間スケールの変化でみれば、内部変動の寄与は正の時代の寄与と負の時代の寄与がほぼキャンセルして、外部強制力に対する応答をより大きく反映します。(小阪)
▼Q18. ハイエイタスに関して、2000年以降の人為的なエアロゾルの減少が10年規模の気候変動に寄与したか?
(小坂様宛:「ハイエイタス」の原因について、渡部教授の研究で「アジア大陸のエアロゾルの変動が太平洋10年変動に影響した」とあるようです。実際に、AR6では2000年以降に人為的なエアロゾルの減少が観測されていますが、この要素の寄与度はあったのでしょうか。)
・人為起源エアロゾルが10年規模の気候変動に寄与しているという報告は我々以外にも複数あります。が、温暖化停滞(およびその主要因である太平洋数十年規模変動)自身への影響は小さかったというのが論文の結論です。また、エアロゾルの影響として明らかに検出できるのは、欧米からの硫酸性エアロゾル排出が減少した1980年代以降と、それ以前の違いです。2000年代以降は北半球全体(含む中国)でエアロゾル排出が少なく、結果としてむしろエアロゾルの効果は小さくなったと考えられます。(渡辺)
・渡部さんのご回答の通り、エアロゾルが太平洋十年規模変動に影響した可能性を指摘する研究はいくつかあり、また逆にその影響はあったとしても弱いという研究もあります。CMIP6全体では、太平洋十年規模変動の大部分は内部変動であり (第3章3.7.6節)、従って温暖化停滞にも内部変動が重要な役割を果たしたと結論しています。ただし、エアロゾルの影響についてまだ不確実な部分があるため、温暖化停滞の原因について「非常に高い確信度」ではなく「高い確信度」になっています。(小坂)
ご返信ありがとうございました。
小坂先生には、過去1000年の古気候の再現実験について教えていただけるとありがたいです。観測値(実際のデータ)についてはPAGES-2Kを用いているかと思います。PAGES-2Kでは、全球平均だけでなく、北極・南極・欧州・アジア・北米・南米という地域ごとの気温推移もデータベースにしております。こうした地域毎の再現実験の結果は、全球とほぼ同じ結論なのでしょうか。
特に、1000年を通して、南極で高温偏差、北極で低温偏差があったと記憶しています。こうした理由もわかる範囲でご教示があると光栄です。
過去1000年については、北半球の大陸では再構築とシミュレーションとで気温変動は比較的良く合うようですが、南半球ではかなりの違いがあり、再構築の品質の問題、モデルや強制要素の問題が可能性としてあげられています (第3章3.3.1.1節)。(小坂)
▼Q19. 各CID(climatic impact driver)について「確信度高く増える」「確信度高く減る」以外に「『確信度高く』現状からあまり変化しない」と評価されるようなケースもありえますか?
(地域・分野によっては、「どんな適応をとるべきか」という議論に際して、「現状からあまり変化しない」というのが確信度高くいえるならば、「追加的な適応はとらない」という選択肢を積極的に選ぶための材料として、それも大事な情報に思えます。)
CIDについては将来変化の増減の有意性について議論が殆どかと思います。有意性が確認できないというCIDは現状からあまり変化しないと解釈するしか無いと思います。この場合は,ご指摘のような確度が得られないのが問題かと思います。
詳細はChapter 12 Table 12.12,Cross-chapter Box 12.1 Table 1等を御覧ください。(森)
▼Q20. IPCC AR6(SPM)において、強い熱帯低気圧の発生割合をどう解釈すれば良いのか。
(IPCC AR6(SPM)では、熱帯低気圧の現時点の変化として、強い熱帯低気圧の発生割合が増加している(内部変動だけでは説明できない)とされていますが、以下等現時点では変化がないとの見解も散見され、どのように解釈をすればよいかご教示いただけますでしょうか。
・IPCC AR6 Infographic TS.1では、Tropical Cyclones (proportion of intense tropical cyclones) がToday(+1.1℃)で変化なしとなっている
・気象庁の気候変動監視レポートでは「強い台風の発生数・発生割合に変化傾向はない」とされている)
全球か領域か,過去か将来変化条件なのかで変化傾向と予測の信頼度が違うと思います。全球,将来変化のほうが予測のサンプルが多いため信頼度が高く,過去(観測),領域変化の方が低くなると思います。何を議論しているのかで解釈が異なってくるのはそのためではないでしょうか。(森)
▼Q21. 世界レベルでみると降水量増加はまだ研究が不十分ということだと思うのですが、日本レベルでいうとその傾向が見えてきているという捉え方でいいでしょうか。
(日本レベルのことについては、統合プロを今後参照するようにします)
・はい、その通りでよろしいと思います。日本ではここ数年、豪雨災害が多いこともあり(かつ計算機資源も多いので)、力をいれてイベント・アトリビューション研究を進めておりますので、世界に先駆けて(温暖化が寄与していたという)傾向を見つけつつある、と思います。
・d4PDFの解析結果では,日本の主要河川流域での極端降水量の将来変化は有意かと思います。(森)
▼Q22. あるべき対策と現実の人間生活を天秤にかけなくてはならない思考は、温暖化対策もコロナの周りから学ぶことがあるようにも思うのですが、どうでしょうか。
その通りだと思います。また、シミュレーションによる予測が人々の行動に大きな影響を与えたように見える点、気候科学の分野に対する示唆も大きいと考えています。(河宮)
▼Q23. 温暖化の結果として相対湿度の低下が低下し、日本の季節・地域が乾燥化することはありそうか。
(大気中の水蒸気量が増える(絶対湿度は上昇する)かと思いますが、気温の上昇によっては相対湿度は低下する場合が考えられるかと思います。その場合、乾燥化が進むと思いますが、日本においては、そのような季節や地域はないのでしょうか?)
日本全体でも世界全体でも似たようなものですが、気温1℃上昇に対して約7%水蒸気が増えています。この値は、熱力学的に相対湿度が変わらないということと同じです。国内で、特に乾燥化が進む地域があるという評価はありませんが、大雨の増加は無降水日の増加とセットになっています(観測データでも将来予測でも)。したがって、梅雨のような降雨シーズン以外は乾燥した日が増える可能性はあります。
ありがとうございました。最近の山火事などの増加が気になったものですから。
そうですね。今のところ、カリフォルニアやギリシャ、オーストラリア(すべて乾燥域)のような深刻な山火事は国内では発生していませんが、東アジア域のCIDには山火事リスクも含まれていますので、今後注意はすべきかと思います。
▼Q24. SPMのfigure3のbで人間活動の影響度がなぜ「low(低い)」になってしまっているのか。
SPMのfigure3のbでは、ヨーロッパ~アジアで降水量が増加した緑色が多くなっていますが、人間活動の影響度は「Low due to limited agreement」とあります。日本の近年の大雨災害の事後解析などをみていると人間活動の影響で降水量が増加していることに対して多くの研究が出ているように思うのですが、ここはなぜ「low」になってしまっているのでしょうか。今後medium, highになる可能性はありますか?
高温事象に比べると、大雨に対する温暖化の寄与は(技術的、科学的に)検出が難しいという問題があります。日本では統合プロの研究から西日本豪雨などに対する温暖化の寄与が同定されていますが、例数が十分でないこともあり、確信度はまだ低いです。今後、研究の進展とともに確信度が上がると期待しています。(渡部)